第12話 歌い手として最後の歌ってみた。vtuberとして初めての歌ってみた。


「いやー、疲れたな…」


俺は、一人、事務所の出口に向かいながら、独り言をこぼす。


倉井さんと、紅葉さんに会い、vtuber名とアバターを作成、ユニット名を決めて、配信の仕方や、配信の機材について教えてもらった。そして、最後には、マネージャーの紹介もあった。

もしかしたら、俺史上一番濃い一日だったかもしれないな。


「けど、なんだか少しずつだけど、vtuberらしいことができてきている気がする」


まだ、配信とかは何もしていないけれど、vtuber名やアバターが決まって来ていることから俺はそう思った。



「…そういや、紅葉さんがさっき、社長に何かをお願いしにいくって言ってたけど…何をお願いしにいったんだろう」


社長が解散と言った後、倉井さんはマネージャーである鈴木さんと話し合っていたのだが、紅葉さんは社長に少しお願いがあると言って、社長と何かを話していたのだ。

だから、俺は今一人で歩いて、帰っている。


…うん、全然寂しくなんてないから!


俺には、倉井さんと鈴木さんの話しに入る勇気なんてないし、紅葉さんの社長へのお願いを聞く勇気なんてものもない。

だから、先に一人で帰ると言うのが、俺にとって一番合っていることなんだ…。


「はー…、帰ろう」


俺はまた一人、出口に向かって歩いていこうとした。



その時、



「お、前にあった子がじゃないか」


後ろから、とある男性の方に話しかけられた。

いや、俺はこの人に会ったことがある。

確か…、


「あ、面接後にも、声をかけて来た…」


そうだ、面接が終わって、俺が出口がどこかわからなく少し迷子になってしまった時に、声をかけて来てくれて、出口の場所を教えてくれた人だ。


…けど、なんだろう、確か前あった時も思ったのだが、どこかで声を聞いたことがあるんだよな…


「そうそう、君がまたここにいるってことは…もしかして合格したのかな?」


「え、は、はい。そうですけど」


「おー!そっかそっかー、おめでとう!これでまたファミールも賑やかになりそうだな。君も、ファミールに入ったからには、楽しんで頑張ってくれよ」


男性は、うんうんと頷きながら、そう言ってくれる。


「は、はい。ありがとうございます」


「いいって事よ、じゃー、俺は今からミーティングがあるから…


男性はそう言い、俺が向かう先とは別の方向に歩いていってしまった。


「…なんだったんだろう、あの人」


ただ単に、前会ったから声をかけて来ただけか?

なんだか嵐のような人だったな…。


でも…


「やっぱり、聞けば聞くほど、何処かで聞いたことがある声なんだよな…」


そう、なんなら…つい最近聞いたような…。

うーーん…


「…今考えてても仕方ないか」


あまりここで立ち止まって考えていても、ファミールの人に迷惑だろう。人も何人か歩いていたしな。


よし、今度こそは出口に向かおう。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


俺がファミールの外に出て来た時には、もう夕方を過ぎ、少し暗くなって来ている時間だった。

確か、集合が2時だったから、今はもう6時ぐらいだろうか?今はもう5月だから、暗くなる時間も少しずつ遅くなって来ている。

色々とやることがあったから、時間のことを全然気にしないでいた。



俺は周りを見渡す。

周りには、大きな建物がたくさんあり、今日からここで色々なことができると考えると、少しワクワクしてくる。


「よし、帰ろう」


来月から少しずつ忙しくなると社長が言っていた。

まだいつが、初配信なのかとかもわからないが、今は俺ができることをやっていこう。


「それに…、俺にはやらないといけないことがあるしな」


そう、俺は最後にやっておかないといけないことがある。

それを、5月上旬…できればゴールデンウィーク中にはあげたいのだ。

もう、大体のことはやってあるからあとは、少し修正を加えて投稿をするだけだから、多分間に合うだろうとは思っている。


うん、頑張っていこう。色々とな。

俺は、家に向かって歩き出そうとした。







「蓮くん!ちょっと待ってくれませんか」


すると、後ろから女性の声がして、俺を引き留めた。

なんだか、さっきも同じようなことがあった気がするが…

今回は、俺がさっきまで一緒にいた人だった。


「紅葉さん。どうかしたんですか?」


声をかけて来たのは、俺の同期となった紅葉さん。

さっきまで、社長と話していたけど…俺に何か用だろうか?


…考えると、一対一で紅葉さんと話すことなんて今日はなかったからか、少し緊張する。さっきまでは倉井さんや、社長がいたから、まだ大丈夫だったんだけど。

ま、その倉井さんとも一対一なんてなく、今日まともに一対一で話したのは、配信の仕方を教えてくれた男性社員だけだったんだけどね。



「いえ、少し話したいことがあって」


「話したいことですか?」


「はい…あ、話したいことっていうよりも…、やってみたいことがあるって言った方がいいかもしれません」


「やってみたいこと…」


一体なんなんだろう。

あまり、こういうことを積極的に提案してくるタイプには見えなかったから、少し気になる。


「あの、もしよかったら、倉井さん、蓮くん、私……いや、凪威シズ、宇多黒レン、和泉もみじのRINGで歌ってみたを投稿してみませんか?」







……え?!

…もしかしたら、俺は今日一番の衝撃を受けたかもしれない。


「歌ってみたをですか?!」


「はい、確か蓮くんは歌が好きとさっき言っていて、私も歌は好きだから…社長に聞いてみたんです。そしたら、すぐに大丈夫と言ってくださって。それで、その話を聞いていた倉井さんも賛成してくれたので、あとは蓮くんがどうなのかなっていう感じで…」


「そういうことですか」


だからさっき社長に何かをお願いしに言っていたのか。

それにしても歌ってみたか…。

俺は、歌い手をやっていたぐらい歌は好きだし、vtuberになっても歌ってみたはやってこうとは思っていた。

…ただ、まだ自信がわかないというのもある。

歌い手の時は、登録者も再生数も少なく、正直全然成功していたとは言えなかった。だからか、自分の歌にまだ自信がわかないのだ。

面接の時は、自分の長所というのが歌とピアノぐらいしか浮かばなかったから、結構な時間練習して、披露はしたが、それでも、まだ不安はある。



けれど…



やっぱり俺は歌が好きなんだ。

今はまだ下手かもしれないけど、ボイトレや歌の練習をしてもっと上手くなれるようにしていけばいい。そうすれば自信も少しずつ湧いてくるだろう。


だから


俺は手を握り締めて言う。


「いいですよ。やりましょう!」


俺は、紅葉さんの提案に賛成をした。


それに、せっかく紅葉さんが誘ってくれて、同期であるRINGの3人で、vtuberとして初めての歌ってみたが出せるんだから、賛成しない理由がない。


「!…そうですか、ありがとうございます!なら私は今から、この事を社長と倉井さんに言って来ますね。また、パソコンなどが届いたら、イルコードで色々と連絡しますからよく見ておいてくださいね!

では、私はこれで」


「わかりました。お願いします」


「はい!」


そういうと、紅葉さんはまた、事務所の方に歩いて戻って行った。



それにしても、歌ってみたか。

思ったよりも早く、vtuberとして歌うことになったな。本当は入って、vtuberというものに慣れてから、ボイトレの教室などに通い始めてから、歌ってみたはあげようと思っていた。


だから、紅葉さんに誘われるていうのは予想外だったし、本当に驚いた。


「…早く家に帰って、少し練習しようかな」


そうだ、せっかく歌ってみたをあげるんだから、少しでもいいから練習しよう。

まだ、曲なども決まっていなく、どんな曲調なのかもわかっていないが、上手くなれるよう、少しでも声を出して練習だ。


外も暗くなって来ている。


「帰ろう」


今日何度目かわからない言葉を口にし、俺は帰って行くのであった。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


3日後



俺が、事務所に行ってから、3日が経った。

ゴールデンウィークももう、終わりが近づいて来ている。


そして…俺は今、歌い手としてやらなければいけなかったことを全て終わらせようとしていた。

本当は、後少しのところまで終わっていたのだが、何回も歌を確認して、少し違うなと思ったところを修正していたり、ハモリをもうちょい上手く入れたりと、最後の歌ってみただから、隅々まで見ていたら…3日という日が経ってしまった。


だが、やっと今日投稿することができる。


「…最後の歌ってみたか」


少し思い返せば、大変なこともあったけれど、楽しくもあった日々だった。登録者数も、視聴数も伸びなかったけれど、動画を投稿すれば、すこーしずつだが登録者数も視聴数も増えて来た。そして、コメントをくれる人達もいてくれた。初めて、コメントで褒められたときなんかは、嬉しすぎて歌ってみた動画を録りまくっていたぐらいだからな。

本当に、色々なことがあったな…。


「これで…ラスト」


時間は夕方の18時になろうとしている。

俺は、いつも決まってこの時間に出すようにしている。


最後に歌ってみたを出してから、結構な時間が経ってしまっていて、ほんのわずかではあるが、コメントで何かあったのではないかという心配の声も上がっている。

だから、最後に概要欄にコメントをしておく。

自分は大丈夫だということ。そして、これが最後の歌ってみたということを。

これは、投稿してからコメント欄にも書いておくつもりだ。



…よし、時間にもなりそうだし、動画を上げますか。


曲は『夏の時間記録』


この曲を選んだ理由は、曲調と歌詞だ。

本当は、最後なのだから、曲調は悲しい感じのものが良いのではと考えていたが、それよりも明るく最後を迎えた方がいいんじゃないかと思いこの曲にした。結構昔の曲だが、歌詞もよく、時期ももうすぐ夏になるのだから、ちょうどいい。



「動画を…投稿」


カチっ


エンターキーを押し、動画をアップした。

多分…再生数もちょっと前と変わらないぐらいで、そこまで伸びないだろう。

けれど、それでも待ってくれている人や、コメントをしてくれる人もいたのだから、その人達が少しでも楽しんでくれるのならば、俺はそれでいい。


ただ…これで歌い手としての仕事が終わりだと考えると、やっぱ少し胸にくるものがあるな…。



……



「…ふーー、よし!切り替えよう」


歌い手は今日でもうおしまい。


けれど、俺は別の仕事…vtuberとしてやって行くのだから、そっちに集中をしよう。

まだまだ、vtuberについてやファミールのみんなのことについて完璧に理解したわけではないのだから、配信やライブを見て学んでいかないといけない。

それに…俺は、vtuberとしての歌ってみたもあるのだから、そのためにもまだ歌は練習しないといけない。


「やることはまだまだたくさんだな。頑張ろう」





ただ…最後に歌い手として、動画をみてくれていた人達に言いたい。


本当にありがとう。

一年半も続けてたのはあなた達のおかげです。

こんな俺を見つけてくれてありがとう。


っと。





「よしっ!ファミールの人達の配信見ますか!」


俺は、ミューチューブでファミールと検索し、動画を見まくり始めた。



———————————————————————


読んでくれてありがとうございます!


なんと星評価が150、ハート評価も300を超えました!本当にありがとうございます。

これからもゆっくりですが、書いていこうと思うので、どうか評価の方をよろしくお願いします。


そして、最近はあまり出ていなかった、歌ってみたも今回出せてよかったです。

参考にした曲は、近況ノートに書いておきますので、そちらをご覧ください。

…忘れていたらごめんなさい…!


誤字脱字等もありましたら、よろしくお願いします!


























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