第11話 マネージャー

「うん、RINGね。いいと思うわ。この紙は回収しておくわね」


そういい、社長はユニット名とアバター名が書かれた紙を回収していく。


よかった。

社長もいいと思ってくれたらしい。これで、なんか言われたら、俺の心が少し傷つくところだった。


「次にやることが最後になるわね。最後は、配信の仕方やアバターの動かし方、専用の機械の動かし方などを教えようと思うんだけど…。この中で、パソコンにあまり詳しくない人とかいる?」


パソコンか。

俺は、歌い手をやっていたから、パソコンは結構な頻度で使っていた。録音とかしたものを合わせたり、歌ってみた動画を投稿したりするにはパソコンは必須だからね。だから、パソコンには詳しいとは思うけど…他の二人はどうなんだろうか?


「私は結構使っていたから、大丈夫です」


「私も大丈夫です」


お、二人とも使っていたのか。やっぱ、パソコンを使う職業に就いていたり、家でたくさん触っていたりしているんだろう。


「俺も大丈夫ですよ」


「そう。なら、スムーズに進んでいくことができそうね。覚えることも少なくなるし、多分すぐに終わると思うわ」


すると、社長は、誰かに電話をし始める。


「…もしもし、加藤よ。例の配信用の機材を…。そう、そこに持ってきて、置いといてくれれば大丈夫よ。…あ、もう置いてあるの? 流石ね。今から向かうわ。ありがとう」


話し終わると、社長はまた、こちらに顔を向けて話始める。


「今から、配信用の機材が置いてある部屋に案内するわ。そこで、専用の人が色々と教えてくれると思うから」


今から部屋移動か。

まー、流石にここに機材とかを持ってくるのも大変だと思うし、これは当たり前か。


「私についてきてね。知ってると思うけど、ファミールの事務所は相当広いから…少しでも迷ったら、迷子にになるわよ」


社長が少し邪悪な微笑みをしながら、こちらを見てくる。


「「わ、わかりました」」


うん、絶対に迷子にならないように、社長についていくとしよう。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


部屋についてからは、物事が本当にスムーズに進んでいった。

機材があった部屋は、さっきいたフロアの一個上の階にあり、その部屋には、一人の男性と二人の女性がいた。ちなみに、女性の一人は、俺の面接をし、さっきの部屋まで案内してくれた鈴木さんだった。


そこからは、一人一人に担当がつき、配信の仕方、アバターの動かし方、表情や体の動かし方など色々なことを教えてもらった。

あ、アバターを動かしたと言っても、練習用の、なんの変哲もない男のアバターを動かしただけだけどね。けど、それが正確に俺の動きを真似してくれていたから、結構楽しむことができた。

これが、本当の俺のアバターになって、それを動かせると考えると少し楽しみになる。


「よし、三人とも、もうやり方は覚えれたかしら?この専用のパソコンや機材はまた、君達の家に送るから、家でもできるようにしといてね」


…うん?

なんか、今結構衝撃的なことを言ってたきがするんだけど?


「…あの、この機材達って貰えるんですか?」


俺は思ったことを聞いてみる。


「正確には、貸してあげるだけど…、まー貰えると解釈してもらっても大丈夫ね。もし、vtuberを卒業するということがあれば、返して貰おうと思ってるけどね」


それ、ほぼあげると言ってるようなもんだと思うんだけど…。

確かファミールは、海外勢の方で卒業してしまった方が少しいた気がするするが、日本にいるファミール所属のvtuberはまだ一人もやめていなかったはず。ちなみに、他の事務所には少なくとも、日本勢で一人はやめてしまった人がいるから、ファミールの一人もいないというのは、結構すごいことらしい。

ま、今はこの話はいいとして…。


「え、本当にこれもらっちゃてもいいんですか!結構な値段すると思うんですけど…」


社長の言葉に、倉井さんが反応した。


「えー、本当よ。ただ、もし、この機材よりもいいもの…、特にパソコンとかはうちのやつは少し古いから、最新のやつを持っていればそれを使ってもらってもいいわ」


少し古い…?俺には、最新のパソコンの一個前のものにしか見えないのだが…。しかも、最新のパソコンって確か、つい最近発売したばっかりだから、ほぼ最新のものと言っても過言ではない気がする。


「そ、そうですか。けれど、貰えるならありがたく使わせてもらいます」


うん、倉井さんも、『え、これ最新のものじゃない?』みたいな反応をしてるよ。


「えー、遠慮なく使ってもらって構わないわ。それで…、あげるのはいいんだけど、もし、この機材達を家に置けない人とかっている?」


「俺は大丈夫です」


「私も大丈夫です」


「私もです」


俺、倉井さん、紅葉さんの順に言葉を返す。


俺は、歌ってみたを作るのに使っていた部屋があるから、そこに置けばいいしな。あそこの部屋は、まだスペースがあったと思うから、そこに必要な機材をおこう。


「そう、ならよかったわ。機材は、多分2週間後ぐらいには届くと思うから、それまでには置けるようにしといてね。よし、なら一回さっきの部屋に戻りましょうか。最後に、少し話して今日は解散にするわ」


「わかりました」


そういい、俺たちは、さっきの部屋に戻っていった。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


「みんな、一旦適当な椅子に座ってちょうだい。少し紹介しておかないといけない人がいるから」


俺たちが、部屋に戻ってくると、社長にそう言われたので、それぞれ適当な席に着く。


「皆座ったわね。なら…、鈴木さん入って来てちょうだい」


「はい、わかりました」


ガチャっ


「失礼します」


「ええ。紹介するわね。多分三人とも面接の時と、今日部屋まで案内してくれていたからわかると思うけれど、鈴木さんよ」


「はい、先ほども会いましたが、鈴木由依と申します。よろしくお願いします」


そういうと、とても綺麗角度でお辞儀をする。


「はい、よろしくお願いします」


「「よろしくお願いします」」


倉井さんが返すと、続いて俺と紅葉さんが言葉を返していく。


確かに、俺は面接の時と、さっきの案内で鈴木さんとは会っているけれど…。

なんで今になってまた紹介されたのだろう。少し気になるな。


「まー、みんな、なんで今になって紹介されるんだろうと思ってるかもしれないけど…、ちゃんとした理由があるから」


「はい、お時間いただいて申し訳ありません」


「い、いえ、私達は大丈夫です」


紅葉さんが言ってくれたので、俺と倉井さんも同意するように頷く。


「ありがとうございます」


鈴木さんが少し微笑む。

てか、鈴木さんてめっちゃ仕事ができる女って感じがするな…。美人で、メガネをしていて、背も少し高めで、スーツ姿も似合っている。


「えーっと、今鈴木さんを紹介した理由なんだけど…、今日から、鈴木さんが君達三人のマネージャーになるからよ」


「はい、今日からあなた達三人のマネージャーになることになりました。わからない事などたくさんあると思いますので、何か質問があれば気兼ねなく尋ねて来てください」


おー…!

これは確かに、言っておかないといけない内容だ。

鈴木さんは見るからに、仕事ができると思うから、絶対に頼りになると思う。

それに、鈴木さんは社長が言っていた感じ、俺たち三人の面接を見ていた人でもあると思うから、俺たちの長所などを知ってくれているのも大きいと思う。

…もしかしたら、その事も全部考えていた上で、鈴木さんをマネージャーにしたのかもしれないけれど。そうだとしたら、社長は本当によく考えていると思う。


「え!鈴木さんがマネージャーになるんですか!よかったー」


「はい!さっき配信の仕方を教えてくれた時も優しかったですし、私も嬉しいです」


そうか、さっきの配信の仕方を教えてもらう時間の時に、倉井さんと、紅葉さんは鈴木さんともう一人の女性の方の二人の方に教えてもらっていたから、少し関わりがあるのか。

俺は男性の方だったから、鈴木さんとの関わりはほぼゼロと言ってもいいだろう。これは少し、二人と比べて差があるなと感じてしまう…。

…男性の方も優しく教えてくれたから、何も文句はないんだけどね!


「ありがとうございます。倉井さん、紅葉さん、そして、伊東さん。伊東さんとはまだ関わりはあまりありませんが、全力でサポートしていきますのでよろしくお願いしますね。他の二人もよろしくお願いします」


鈴木さんが微笑みながら、そう言ってくれる。

向こうも、俺との関わりがないから、それを気遣ってくれたのかもしれないな…。少し差を感じていたから、少しありがたい。


「は、はい。よろしくお願いします」


「はい、頑張っていきましょうね」


…鈴木さんってもしかして、仕事ができるだけでなく、めちゃめちゃ優しいのか?

まだ、関わりがないから、怒ったらめちゃくちゃ怖いみたいなことはあるかもしれないけど…、

今のところ完璧なマネージャーに見える…!(俺視点)


「鈴木さん、よろしくお願いします!」


「よろしくお願いします」


「はい、お二人も頑張ってやっていきましょうね」


「「はい!」」


うん、二人の反応を見ても、鈴木さんはいい人っていうのが伝わってくる。


「うん、三人ともマネージャーとは上手くやっていけそうね。彼女は、仕事も完璧にこなしてくれるから、三人ともバンバンと頼ってちょうだいね」


「社長、そこまで言わなくても…」


鈴木さんは苦笑いで、そう語りかける。


「本当のことなんだからいいでしょう?私も鈴木さんのことは信頼してるんだから、三人のことはよろしく頼むわよ」


「はい、三人のことは任せてください」


「うんうん、大丈夫そうね。よしっ、最後に少し話をして今日は解散にしましょうか。結構大事なことだから、よく聞いておいてね」


社長は、そういい俺たちに話を聞くように促す。


社長が言うんだから、本当に大事なことなんだろう。よく聞いておこう。


「まず初めに、さっきも言ったけれど、配信の機材が2週間後ぐらいに届くと思うから、それをおける場所を用意しておくこと。そして、その中のパソコンには、みんなも知ってるかもしれないけれど、イルコードっていう、トークをしたり、サーバーを作ったりするのに便利なものを入れておいてあるから、届いたらそれを確認してちょうだい。その中に、マネージャーである鈴木さんと、他二人のメンバーを入れておくから、それも確認をお願いするわ。確認したら、もうトークをしたりしても大丈夫だからね。ただ、その内、鈴木さんから、絵師さんが描いてくれたアバターが送られて来たり、次の集まる日時などが送られてくると思うから、そこは注意しておいてね」


なるほどな。

要するに、機材が届いたら、イルコードを確認して、鈴木さん、倉井さん、紅葉さんの三人がイルコードに入っていることを確認すればいいと。そして鈴木さんからの連絡は注意しておけばいいってことかな。

けれど、ここまでのことも、やっといてくれるというのは本当に助かるな。


「そして、最後にこれも注意しておいて欲しいんだけど…、次ここにくるときは、vtuber名で名前を呼びあって欲しいと言うことね。さっき見た感じ、vtuber名になっても大きな変化はなかったと思うけれど、次来たときからは、そっちの名前で呼びあってちょうだい。事務所で、色々な仕事や配信をする時も、vtuber名で呼ばれるようになるから、そっちで呼び合うことに慣れておいてね。他のファミールのメンバーもvtuber名で呼びあってるから、あなた達もいつも通りの名前で、ファミールのメンバーを呼べばいいわ」


うおお…

てことは、倉井さんが、凪威シズ、紅葉さんが、和泉もみじだったから、次からは…なんて呼ぼう。

確か、他のファミールのメンバーの配信を見ていた感じ、やっぱり名前呼びが多かった気がするから、そっちの方がいいのかな…。けど、もみじさんは苗字が紅葉だったから、呼び方は変わらないけど、シズさんと呼ぶのは、少しだけ緊張するな…。

まー、次までには決めておこう。


「これで、言わないといけないことは言ったから、もう話すことはないわね。てことで今日は、これで解散よ。来月ぐらいからは少しずつ忙しくなるから、それまでにゆっくりしておいてちょうだいね」


今日はこれで終わりか。

来月からは忙しくか…、俺もまだやらないといけないことが残っているから、家に帰ったらゆっくりしておこう。


なんだか…長い一日だったな。




















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