第6話 面接後


「はー…、流石に疲れたな」


面接部屋を出てすぐ、俺は出口に向かっている途中だったのだが、一気に疲れが流れ込んでくる。高校以来の面接で、人生2回目だったけれど、俺的にはまーまーよくできた方だったとは思う。けど質問に対して、もっとこうした方が良かったのではないか、色々正直に言ってよかったのだろうか、入退室はあれで本当によかったのか…

面接がもう終わってしまっているのにさまざまな気持ちが湧いてくる。しかも、ピアノも少しミスしちゃったし…。


いや、こんなネガティブな気持ちは一旦捨てよう。自分の悪いところが出てしまった…。

面接はもう終わってしまっているし、俺的にはよくやれたと思っているんだ。ポジティブに考えよう、逆に考えれば、まだまだ改善の余地があるんだから、もし次があったらこれを活かそう。

正直もうやりたくないけど。


あとは歌だな。今回は一曲だけだから、歌の歌詞や意味などいろいろと調べて、感情移入して歌ってみたり、同情して歌ってみたりといろいろ考えて練習はしてみたんだけど…、どうだったんだろう。

得意なことに書いたからには聞かれるかなと思い、練習はしてきたけど、やっぱりまだ自信がわかない。

…合格していても、していなくても歌い手は辞める。これは決めたことだから絶対だ。

もし合格していたらもっと練習しよう。ボイトレとかもいって、自信をつけていきたい。

練習あるのみだな。





「…あれ?どっちいけばいいんだっけ?」



きた道を戻ってたはずなんだけど…、ちょっと迷ってしまったかもしれない…。ここには初めて来たわけし、部屋に向かっている途中は緊張でどうにかなりそうだったからあまり出口までの道路を思い出せないし、ここがどこかもわからない。それに、いろいろと考え事もしていたからな。

あんなに大きな建物にいるんだとわかっていたんだから、もっとちゃんとみておくべきだったな、


「…まー、下に降りて行けばいっか。まずは階段を…」




「ねーねー、そこの君」


うん?な、何だ。

後ろを向くと一人の男性がいたが、他の周りには人はいない。服装はスーツとかも着ていなく、ちょっとかっこいいファッションをしている。面接とかなら、もっとちゃんとした服装をしているはずだし、社員だったらさっき面接部屋まで案内してくれた男性社員のような服装をしていると思うから、面接関係者ではないかな。

周りに誰もいないってことは…俺を呼んでいるのか?


「お、俺ですか?」


「そうそう、きみきみ」


本当に俺だった。

…俺なんかしたっけ…、なんかやってたらと思うとちょっと怖い。


「…えーっと、俺になんかようですか」


「…あー、そうそう。君ってもしかして、今日面接だった?」


「は、はい。そうです」


「じゃー、さっきまで面接受けてたのは君か」


「はい、そうですけど…」


え、何なんだ…。面接についてくるってことは、意外にも面接関係者なのか?


「あ、ごめんよ、変なこと聞いちゃって。ちょっと歩いてたら、あまり見ない顔があったから、もしかしたらと思って」


そういい、男性は少し笑う。

確かに、自分が働いている場所に見知らぬ顔があったら気になりはするはず。てことは、男性はファミールの関係者なのか?

…いや、今思うと、ここの事務所にいるんだからそれは確実か。


「あ、いえ大丈夫です。こちらもすみません。ちょっと帰り道がわからなくて」


「あー、そういうことか。だからここにね。えーっと…、面接でここに来たんだから…多分、そっちにある階段を降りていって、左曲がれば、出入り口があるはずだよ」


「えっ、あ、ありがうございます!」


俺はそういい、男性の指のさす方に歩いていく。

助かった。初めはちょっと怖かったけど、結構いい人なんだろう。

よし、帰ろう。この一週間、面接やちょっとした調べごとで、あまり休めなかったから今日は家でぐっすり寝よう。明日からのことは、明日考える!


「あ、君!最後に一つ聞きたいことがあるんだけど…」


さっきの男性が、もう一度声を上げた。

ちょっとびっくりしたけれど、何だろうか。道を教えてもらったんだし、できる限りは答えたいけれど…今日初めて会った俺に質問?いや、面接関係か?面接関係ならあまり外に言いふらすのはダメだから、力にはなれないな、

なんだろうか。


「大丈夫ですよ。何でしょうか?」


「えーっと、俺の声聞いたことない?」


声…?え、俺もしかして会ったことあるのか?

俺が覚えている限り、この男性には会ったことがないと思うけど。


…?待てよ、声か…。なんか、どっかで聞いたことがある感じがするけど…気のせいか。


「すいません、俺が覚えている限り聞いたことないと思いますが…」


「…ほー、てことは今回は久しぶりにあの感じの枠がいるのか」


あの感じの枠?何を言ってるんだ…?


「あ、いや、何もないよ。ごめんね、変な質問で食い止めちゃって。じゃ、気をつけて帰ってね」


そういい、男性は戻っていく。

…え、めっちゃ気になることを言い残してちゃんだけど!

てか、あの男性は一体誰何だ?声についても聞いてきたけど…、声…、なんかちょっと引っかかる気もするが、今日はもう帰ろう。色々ありすぎて疲れた。家に帰って寝る!!



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


side 太陽(話しかけてきた男性)


「いやー、仕事多すぎだって…」


今は休憩中なのだが、今日は収録に、ミーティング、歌やちょっとしたダンス練習とやることが多い。こんなに多い日はそんなにないのだが、今日はいつもより多めに割り当てられている。


「まー、収録に関してはいろんなメンバーと話せたりすから楽しいけど、他に関しては…ちょっとめんどい」


とても大事なものではあるんだけど、ミーティングの、あーいう空気感とかちょっと苦手なんだよな。ただ話を聞いて、それに関して答えて、たまにこうしよう、あーしようと言うだけなのだが、やっぱり他のメンバーとかと話せたり、視聴者のみんなと話せる生配信(ライブ)をやった方が楽しい。

歌とか、ダンスに関しては他のメンバーの生誕祭ライブに呼ばれているから大事なのだが、あまり得意ではない。真面目にはやっているけれど、うまくいかないんだよな…。やっぱり俺は、ゲームや、話す作業系が一番似合ってる気がする。


「休憩時間だし、ちょっと休憩スペースにでもいってこよっかな。それか、ちょっと散歩でもすか…」


歩きながら考えるか。

まだ時間はあるし、一旦事務所内でも歩こう。他のメンバーがいるかもしれないしな。


………………

………


「マジかよ、誰もいないって」


休憩スペースにも、他の場所にも誰もいなかった。

いや、いたのだが、収録やミーティング中だったり、歌・ダンスの練習など他のメンバーも忙しそうだったのだ。俺以外もやっぱり大変なんだな…。

流石ファミール。


「どーしよっかなー」


誰もいないし、外に散歩でもしてこよっかな。

うん、そうしよう。


そう思い、でメンバー用の出入り口の方に向かったのだが、


「…?歌声…?いや、ピアノの音もか…?」


ピアノに関しては、事務所内にも何箇所かにおいてあるからわかるけど、歌声…?

歌の収録だったら、それ専用の収録部屋でやるし、歌の練習だったら、事務所内の練習部屋か家、ボイトレでやったりとちゃんとした部屋でやるはず。

歌関連の部屋に関しては、ちゃんと防音になってるから音は聞こえてこないはずなんだけど…。

気になる。


「暇だし、行ってみっか」



事務所は五つの建物でできていて、東館、西館、南館、北館、中央館と別れている。南館は、大体社員専用で、他の館でメンバーはいろいろとやっていて、外にはライブ専用の会場があったりもする。


今、俺は中央館にいるのだが、歌声は窓から見える南館の方から聞こえる。


「南館か、社員専用だけど…。まー、大丈夫でしょ。社長も優しいし」


よし、行ってみよう。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



…………



「ほーー…」


俺は今、音が聞こえてくる部屋の近くにいるのだが…その音楽に浸ってしまった。そんなに長い時間は聞けなかったが、あまり歌がうまくない俺でも、いいと思ったし、少し感動した。ただ、歌声がすこーしだけ震えていたから、多分…面接かな。

ちょっと前に社長とマネージャーが新人を募集し始めているって言っていたし、多分そうだろう。


前は女5人だったから、男が来たらちょっと嬉しいな。どっちが来ても嬉しいけど。


「…ありがとうございました」


お、終わったか。確か、俺の時は一人10分ぐらいだったが、今もそうなのか?

俺は、マジで緊張してあまりいい面接はできなかったが、何とか受かることができたんだよな…。

マジで社長に感謝。


少しすると、ドアが開き、一人の男の人が出てきた。彼が、今面接受けてた子か。


「失礼致します」


その声とともに、ドアを閉じて、男の人は帰って行く。


「…ちょっとついていってみようかな。暇だし」


面接だからか、あまり周りに人はいないし、ストーカーとかには見られないだろう。それに、男が男とかほぼないし。


「よし、いってみっか」


もし、話しかけれそうなら少し話してみよう。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


少し話した後のこと


「まさか、迷っているところで話すとは思わなかったな…」


確かに、南館だけでも広いから、迷ってしまうのはわかり気がする。しかも、面接で来た感じだったから尚更か。


「けど…、俺の声を聞いて何も感じなかったのか…」


多分彼はファミール、それかvtuberというものをあまり知らないで面接に来た枠なんだろう。過去にも何人かいたらしく、大体は落ちてしまうのだが、合格する人も何人かいた。一番有名なところだと、シンカちゃんかな。他にも何人かそういうメンバーはいるが、みんな才能がすごい。そこを見抜く社長も本当にすごいと思う。


けれど、もし結構見てはいるけど、気づかれなかったとかなら、ちょっと悲しいな。

確かに、配信とかはvのアバターでやっているから、俺の声とそのアバターで合致してしまっていて、全然気づかないなんてことはあるかもしれない。

…いや、新人が入ってくると声を聞いただけで、俺だとわかることはよくあるから、あんまそんなことはないか。だったらやっぱり、彼はあんまり詳しくはない枠なんだろう。最近はうちも有名になってきたから、大体はうちのメンバーの配信を見て、憧れて入ってくるのがほとんどだから、少し珍しいかもしれない。


もし、彼が合格してうちに入ってきたら久しぶりのその枠になるな。

ま、さっきの歌と音楽を聴いた感じ、きっと合格はするとは思う。それに、社長のことだから、あの歌を聴いていろいろと考えているはず。


「楽しみだな」


彼以外にも、多分新人は入ってくるだろう。それが女か男かはわからんけど、楽しみに待っていよう。


「よし、戻るか」





「あれ、太陽何やってんだ?」


「…え…?!何でナガイ先輩がいるんっすか!」


ちょうど戻ろうとした時、なぜかナガイ先輩と遭遇した。何で南館にいるんだ?普通他の館にいるはずなのにな…


「それはこっちのセリフだぞ…何で南館に?」


「えーっと、ちょっと歌が聞こえてきてですね、」


「…あー、なるほど、さっきの子か」


あ、やっぱり先輩もあの歌に連れられてきたのか?


「てことは先輩も?」


「いや、俺はちょっと仕事をね」


仕事?南館で?普通メンバーなら他の館で収録やらの仕事をするはずなんだけど、


てか…


「何でスーツなんか着てるんですか?なんか、ファミールの社員さんみたいですよ」


そう、ナガイ先輩の格好なのだが、スーツを着てきちっとしている。いつもなら普通の一般着を着ているのだが、今日は何かあったのか?それともさっき言ってた仕事関連か。


「あ、これか?仕事をこの格好でやらないと行けなくてね」


やっぱりか


「何の仕事なんですか?」


「うーん、言っていいのかな…。まあ、終わったしいっか。実はね、今日面接があったんだけど、それの説明だとかをやってたんだよね」


…え、


「なんで、ナガイ先輩がやってるんすか?!」


「いや、俺だけではないんだけど…。マホやタキ、後センも手伝ってるよ」


そのメンバーって古参組じゃないっすか、


「…えーっと、大丈夫なんですか?ナガイ先輩はともかく、マホ先輩やタキ先輩、それにセン先輩なんか身バレしちゃうんじゃ…」


何十人面接したかは知らないが、結構な人数にバレてしまいそうな気がする。


「…なんかその言い方だと、俺は絶対バレないみたいに聞こえるんだけど…」


「え、だって…。先輩ネットでよく、普通とか一般人とか言われて揶揄われてるじゃないすか」


これはもうファミール内では有名なことだし、それに、ナガイ先輩もそれを利用してここまでやってきている。これに関しては普通にすごいと思う。


「まー、そうなんだけどね…。えーっとね、マホは元声優ってことがあるから上手くやってたし、他の二人に関しては、周りを見てるだけだから、そんなバレないんだよね」


…そういうことか、ナガイ先輩は一般的な声をしていて、vのアバターとも合致しているとすると、確かに気づかれない。

マホ先輩も元声優で、配信でもよくいろいろ声を変えて、可愛い系やクール系など幅広くこなしてるから大丈夫。

そして、他の二人は座ってるだけと、

うん?


「なんでそんなことをしてるんですか?普通その仕事ってファミールの社員がやることじゃないですか」


「うーん、俺もまだよくわかってないけど、社長に言われたからね。面接部屋での態度、行いなどをよく見てこいって言われたり、もし自分の目で見て、この子は将来輝くんじゃないかって子とかを全部知らせてくれって言われたから、メモ用紙に書いてはいたんだけどね」


メモを見てみると、そこにはずっしりと字が書いてあって、これをみるだけでちゃんとやっていることがわかる。


「多分、社長はvtuberから見た意見が欲しかったんじゃないかな。俺も長くやってるから、少しは態度とかをみるとわかるしね。それに、少しは面接を外で聞けるから、それも考慮しているのかもしれないね」


そう言うことか。確かに、社長ならそういうことをしそうだ。ちょっと危ない気もするけれど…。

ま、今のファミールがあるのも社長のおかげだし、vtuberから見た意見が欲しいと言うのもちょっとわかる。多分、ここからもっと成功させるためにもこれは必要なんだろう。


「もう面接は終わったんですか?」


「うん、彼が一番最後だったね。部屋にはタキがいたから、彼はそうとは思ってないだろうけど」


「あー、なるほど」


そっか、部屋にタキ先輩がるんだから一番最後だとは感じないのか。

なんか、俺だったら、だったら一番最後がよかったとか考えそう。実際俺も、面接は結構最後の方だったしね。


って、今何時だ?!


「ナガイ先輩今何時ですか?」


「うん?えーっと…、18時30ぐらいかな?」


うお、次の仕事の時間じゃないか…!


「すいません、次の仕事があるんでもう戻ります!」


「お、まだ仕事があるのか。俺はメンバーと合流してから戻るから。頑張れよー」


「はい!」


俺は急いで、次の仕事部屋へと向かった。


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誤字、脱字、読みにくい場所等あれば、申し出てください!

出来るだけ早くなおそうとおもいます。












































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