第9話:小森の告白
翌日。いつも通りに家を出る。いつもなら通学途中に小桜達と合流するが、今日は声をかけられなかった。彼女は小森と二人で居たから。彼女が小森に手を引かれる形で歩いていて、なんだか少し微妙な空気だった。流石にそこに割り込むことは出来なかった。二人に気づかれないように少し距離をとって歩いていると、後ろから坂本が声をかけてきた。
「おはよう。桜庭くん」
「おう。……あの二人、なんかあったの?」
「希空が告ったって」
「……そうか。早いな」
告白したら彼女を傷つけてしまうと語っていたのは昨日の朝だ。意外にも行動が早い。
「……桜庭くんさ、なんでマナが好きなの?」
「なんでって……なんでだろう。……なんか、あの笑顔見ると守りたくなるんだよなぁ」
「あー。それは分かる」
「分かるんだ」
「分かるよ。私もマナの笑顔好きだもん。なんかこう、あの子が笑うと場が和むっていうか。可愛いんだよね。あの子って」
「坂本の好きは……俺らとは違うよな?」
「そうだね。私の好きは恋とは違う。あの子といても別にドキドキはしないし、恋人が出来てもおめでとうって普通に言えるから。でも、あの子を守りたいって気持ちはある。私も希空やあんたと同じくらい、あの子が大事だよ」
『愛は恋愛だけじゃなくて、友愛とか家族愛とか、色々な愛があるんだよ』という海菜さんの言葉が蘇る。坂本が彼女に向ける感情が友愛というやつだろうか。自分の愛もそうだったら良かったのに。これからそうなっていけるのだろうか。
「大丈夫だよ。あの子はあんたのことも希空のことも拒絶したりしない。付き合うのは無理だとしても、逃げずに向き合ってくれる。だからあんたも安心してフラれてきなよ」
「フラれるの前提かよ」
「私は、あんたか希空の二択なら、愛華には希空を選んでほしい。あの子にとっては女同士の方がストレス少ないだろうし」
「……まぁ、それはそうだろうな」
「けど別に、あんたがあの子にふさわしくないとは思ってないよ。むしろふさわしいと思う。あんたが本気であの子を想ってるのは伝わる」
坂本はそうフォローを入れてくれたが、俺自身も、自分より小森の方を選んでほしいと思っていた。何故なら俺は未だに『たのまれたわけじゃないって、言ったくせに』と言われたあの日のことを引きずっていたから。自分が彼女にふさわしいなんて思えなかった。彼女からは許してもらえたが、自分ではまだ許せなかった。彼女には笑っていてほしい。ずっと笑顔でいてほしい。もう二度とあんな顔はさせたくない。彼女のあんな顔を見るくらいならフラれる方が断然マシだと思うほどに。小森も同じなのだろうか。
学校につくと、いつも一緒に居る彼女と小森はそれぞれの席に座っていた。何かあったのは明らかだった。
「小桜、おはよう」
「……おはよう」
「体調はもう大丈夫そう?」
問うと彼女は大丈夫とぎこちなく笑う。そして自分に言い聞かせるようにもう一度大丈夫だよと繰り返した。明らかに何かあった雰囲気だが敢えて触れずに、その日はいつも通りに接した。
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