ドレス選び

「さて、ドレスを選ぶって話なんだが」


 レミィも合流、店員が奥にいるためとりあえず店を見渡すユージン。

 オーダーメイドということで、基本要望を答えていくような形になるのだが―――


「ここは俺に任せてくれないか」


 皆の反応がある前に、ユージンがそう口にする。


「あら、そんなに自信があるの?」

「あぁ、こう見ても紳士な男だ。レディーと服屋に行ってする行動としてしっかりと似合うドレスをオーダーしてみせよう」


 グッ、とユージンは拳を握る。

 その表情や姿に冗談は何一つなかった。全身からありありと自身が伝わってくる。

 その姿にセイラは感心したような様子を、アリスは輝くような期待に満ちた瞳を見せた。


「私は正直よく分からないので、ユージンさんにお任せします!」

「そうね、せっかくだったら婚約者の要望でも聞いておこうかしら」

「てーいーんさーん!」


 アリスとしては、数少ない中のサンプルの中で店員へオーダーするのはハードルが高かったのだろう。セイラに至っては、恐らく好奇心。自信満々の様子から何が出てくるのか興味をそそられたに違いない。

 ユージンの言葉に同意したのを見て、レミィが奥にいる店員を呼ぶ。


「お待たせいたしました。どのようなドレスにいたしましょうか?」


 奥からやって来た店員は見事な営業スマイルを見せる。

 ユージンは店に客が他にいないからか、場違いな空気を感じずに堂々と言い放った───


「この子達にをぶべらっ!?」


 その直後にセイラの拳が飛んできたのはご愛敬である。


「すみません、まだどの生地にするか決まっていませんでした」

「そ、そうですか……では、またお声がけくださいませ」


 セイラの見惚れるような笑みを受けながらも、店員は苦笑いを浮かべてそそくさと奥へと戻ってしまう。

 きっと、血で汚れた拳を見て何か思ったのだろう。

 一方で、ユージンは重たい一撃を受けてそのまま地面へ倒れ込んでいた。


「ユージンくんって服を着たままやる系が好きな男の子なの?」

「ちゃ、着衣って結構男からしてみれば魅力的でして……」


 実害から何も学ばないユージンくんであった。


「はぁ……一瞬でも期待した私が間違いだったわ」

「いいか、そもそも異性どころか交遊関係すらなかった俺が他人の服を選べるわけがないだろう?」

「凄い手のひら返しですね」

「ここまできたらいっそのこと清々しいぐらいだよ」


 数十秒前のセリフから百八十度も変わった発言に、アリスとレミィはジト目を向ける。

 それを受けてもなお、ユージンは頑なに首を横に振っていた。


「っていうか、オーダーメイドってどうすればいいんだよ? それこそ、今の流行りなんか野郎には分かんねぇぞ? 追いかけ回してるのなんて基本は女の尻だからな」

「そういうのを自然と選んで提案してくれるのがオーダーメイドのいいところなのよ。ざんねんながら女の尻なんて置いてないでしょうけどね」


 客の要望を取り入れつつ、今の流行りに送れないようなデザインにする。

 貴族層の客が多いからこそこのような形で運営しており、実際に好評だからこそ貴族の令嬢の口コミがよかったのだろう。

 それを聞いてユージンは「なるほどな」と納得したように頷いた。


「自分の好きな色だったり装飾だったり。逆に好きな相手の好みそうな色をチョイスする人もいるわね」

「あとはダンスをよく踊らされる人なんかは動きやすいものをオーダーしたりするよ!」

「へぇー……今ので分かったか、アリス?」

「な、なんとなく……?」


 ドレスに疎いアリスは言われてもパッとしなかったようだ。

 ユージンと違って可愛らしく小首を傾げる。


「それだったら、ハルトが来た方がよかったかもしれねぇな」

「あれ? どうしてハルトくんなの?」

「いや、ハルトって皆から好かれてません? 兎に狩りの仕方を教わってもなんにもならないですし、だからそういう人間の意見を聞いて作った方が参考になるかなーっと」


 ハルトは曲がりなりにも主人公だ。

 ユージンとは違って、セイラ並みに人気が高く、異性からの評判がいいのは普段を見ていれば分かる。


「私は一切参考にならないです。一切」

「うん、そっか……ここにハルトがいなくてよかったな」

「はい、まったくです。一切参考にならないですから」

「……そっ、か」


 真顔で口にするアリスにユージンは若干引き気味で答える。

 本当にハルトがこの場にいなくてよかった。

 メインヒロインにそう言われてしまえば本気で枕を濡らしそうだから。


「私も別にハルトが好きってわけじゃないわよ?」

「え、そうなの?」

「ウチも別にそうでもないかなぁ~! 個人的タイプは経済力が合ってふとした時に守ってあげたくなるような強い男の子だぜ☆」

「いででででっ! 足が痛いッ(チラ)」

「およ、ユージンくん? もしかして―――」

「あ、足がァァァァァァァァァァァァァァッ……(チラ)」

「ユージンさん、痛いのなら治します。全然守ってあげたくならないようにしっかり治してあげます」

「…………(しくしく)」


 どうしてとは言わないが、ユージンはさめざめと泣き始めた。

 怪我もしてないユージンを治しているアリスは、何故だか若干頬を脹らませて怒っている様子であった。


「はいはい、変なこと考えてないでまずはあなたのタキシードから選んじゃいましょうね。門限まで時間は限られてるんだから」

「あー、守ってあげたくなるような男の子ポジの確立がー」


 恐らく、まずは生地作りから始めさせられるのだろう。

 セイラに首根っこを掴まれて、ユージンはアリス達に少しの距離を見送られながら店内の端へと移動させられたのであった。

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悪役転生、今回2度目~1度目は頑張って英雄と呼ばれるまで更生しましたが、流石に2度目は好き勝手に学園で過ごそうと思います〜 楓原 こうた【書籍5シリーズ発売中】 @hiiyo1012

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