第8話

「人多いな……」

「休日だし普通じゃない?」


 目的地であるショッピングモールに到着し、早速例のコーヒーショップに向けて歩いていたのだが、俺の想定以上に人が多かった。

 結衣曰くこのくらい普通らしいが……流石はこの辺で最大のショッピングモールといったところだろうか。


 ただ人が多いだけではなく、少なくない視線がこちらに向けられているのを感じる。

 結衣の整った容姿は、ただ歩いているだけでも視線を集めてしまうものなのだろう。今は隣に不釣り合いなダサ男がいるしな。


「ねえねえ、私たちってカップルに見えちゃってたりしないかな?」

「いや、見えないだろ。俺じゃどこからどう見ても釣り合わん」


 今日は珍しく周囲の視線に気づいたらしい結衣が、悪戯っぽい笑みを浮かべながらそんなことを言う。

 結衣は学校でも大人気の美少女である。ファッションから髪型、顔も何もかもまるで釣り合っていない。


「うーん、ちゃんとすればカッコいいと思うんだけどなぁ……」

「冗談でもそういう事言ったら真に受けるかもしれんぞ?」

「冗談じゃないよ? ひろくんはカッコいいと思う」


 ここ最近結衣の冗談でいろいろと意識させられている俺は、牽制の意味を込めて返す。

 しかし結衣はさも当然といった様子でそれを否定した。


「あー、なんというか……ありがとな」

「うん!」


 結局俺の方が恥ずかしくなってしまい、歯切れの悪い返事になってしまう。

 そんな俺を見て、結衣は満足げに笑っていた。






 その後、目的のドリンクを飲んだ俺たちは、ショッピングモール内を見て回っていた。

 結衣に服が無いことを話すと服選びを手伝いたいと言い始め、そのまま結衣に連れられて服屋の並ぶエリアにやってきたのだ。


「これ、どうかな?」

「……ちょっと派手じゃないか?」

「うーん、これは?」

「そうだな……」


 結衣は気になったものを随時俺に見せてくる。

 きっとセンスのある結衣が言うのだから間違いはないのだと思う。

 しかし、センス皆無の俺にとって無地の超シンプルな服以外は怖くてどうにも手が出せないでいた。


「無難でシンプルなやつがいいんだけど」

「じゃあ、これかなー」


 俺のリクエストを聞いた結衣が手に取ったのは、ベージュの上着だった。

 普段白黒オンリーの俺にとってはこれも派手な気がしてしまうが、折角なので一度試着してみることに。


「……どうだ?」

「うん、すっごく似合ってるよ!」


 着てみれば全然派手ではなかった。

 やはり俺のセンスは信用できないな、などと無駄なことを再確認する。


「じゃ、これ買ってくる」

「はーい」


 試着が終わった服をそのままレジで精算し、俺は店を出た。






 それから食品売り場で食料を買い足し、俺たちは帰路についていた。

 結衣も服を見なくていいのかと尋ねてみたのだが、ひとまず一通り揃っているため必要ないとのことであった。


「いやー、今日は楽しかったなぁ」

「ほとんど俺の買い物になっちまったけどな」

「いいのいいの、照れてるひろくん見れたし!」

「お前な……」


 やはり結衣は冗談で俺をからかって楽しんでいるようだった。

 となると、本気で意識しているのは俺だけであり、この前の件も勝手に俺が都合のいい解釈をしていたに過ぎないということになる。


 もし俺が本気で告白したらどうなるだろう? 多少は意識してもらえるのか?

 いや、結衣にその気は無さそうだし、考えるだけ無駄か。


「はぁ……何考えてんだか」

「どしたの?」

「いや、独り言だから気にしないでくれ」


 今の関係は居心地がいい。

 そもそも結衣とこんなにも仲良くできている時点で奇跡のようなものだ。

 変に高望みしてそれを壊す必要はないだろう。


「今日は私がご飯作ってあげよっか!」

「すみませんそれだけは勘弁してくださいまだ死にたくないです」


 考え事をしていた俺を気にかけてか、夕食を作る提案をしてくる結衣。

 俺は全力でとにかく否定した。

 結衣の料理の腕は、正直言って壊滅的である。

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