第6話

 俺は会長に頼まれて綾香にあまり無理しすぎないように言うという役目があった。習い事や塾などに通っているにもかかわらず朝早くから学校に来て生徒会の仕事をこなし夜も遅くまで残ることについて会長は危惧しているようだった。昔から彼女は無理をしすぎるきらいがある。恐らく生徒会に所属している1年として先輩よりも早く来て多くの仕事をこなそうという彼女の殊勝な心掛けなのだろうが……


俺も朝早くに学校へ行くと教室で独りぽつんと座っている綾香を見つけた。

生徒会の雑務でもこなしているのだろう。俺は綾香に挨拶して自分の席に着く。


「おはよう」

「……よう…」


彼女は作業をこなしながらか細くつぶやいた。


「綾香……俺にもその作業手伝わせてくれないか?」

「どうしてあなたが……?」


綾香に直接的に仕事を休むように言っても恐らく聞いてはくれないだろう。なら、仕事を手伝って信頼を得て徐々に綾香の仕事の負担を減らしてあげてやんわりと俺に任せるように言う方が成功率が高そうだ。


「綾香大変そうだな~って思ったから……俺も朝早くに学校に来てやることがないし……」

「それなら自分のやるべき課題をこなすべきよ。それとも今度のテストは勉強せずとも自信があるのかしら?」


尤もな意見だ。しかしここで折れるわけにはいかない……


「綾香、もう率直に言う。俺は綾香が心配だ。隣の席で見ていれば分かる。綾香がどれだけの仕事を抱えて大変な思いをしているのか……俺はそれを手伝いたいだけなんだ」


そうだ。俺はただ綾香の力になりたいだけだ。でもこのままでは体が持たない。そう思ったからこそ俺は会長の頼みを引き受けた。


「会長とあんなに楽しそうにしてたのに今度は私?随分と軟派な人間になったものね……」

「何のことだ?」

「そのままの意味よ。会長と親しげにしていたかと思ったら次は私に近づいてくるんだもの。何が目的?」

「え?」


意味が分からない。理解不能だ。何を言ってるんだ?俺が軟派?なぜそうなる?


全く意味が分からない頓珍漢な言葉に俺は頭が真っ白になった。何も言い返せない。綾香が何を言っているのか意味を掴みかねていたから……


俺は数秒静止したのちに綾香の言った意図を理解して反論した。


「何を言っている?俺が会長と親しいって……そりゃまあ相談とかしてるが、綾香が思っているような関係ではない」

「私が思っているような関係って何?私はただ親しそうにしていると言っただけだけど?それに相談もしてるだ……ふーん……」

「何なんだよ、人が心配してるってのにその態度は!?」


何だよその態度……俺は綾香が心配で……だから少しでも綾香の力になれたらと思っていたのにこの仕打ちかよ!?


「私は別にそんなこと頼んでないわ……あなたが誰と親しかろうと私には関係ないけれどそういう軽い人間が私に近づくのは許せない」


完全に誤解されている。これはもう何を言ってもダメだろうな……会長と俺が親しいと思い込んでいる。まあ、確かに接点なさそうな俺と会長が話していたら怪しむのも分かるが、でもだからといって決めつけることはないだろ……


綾香にとっては会長にもアタックしている俺が自分に近づいてくるという構図が許せないということか……


「綾香……今日は引き下がるよ。今は話しても無理そうだから。でも俺は断じて会長と何かあるわけでもなければそんな軽い人間でもない。幼馴染なら俺の性格が分かるだろ?落ち着いたら考え直してくれ……」

「分かるわよあなたのことは。あなたが昔、私を避けたことも、こうして私の感情を乱そうとすることもね……」


避けていた?何を?そういえば屋上でも俺が綾香を避けたとか何とか言っていたけどあれは何だったんだ?どういう理屈でそんな誤解をしていたのか俺は知らないままだった。


やはり誤解の根本を解決しなければならない。今のこじれた関係は過去のことも起因していそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

気位の高い女王気質の幼馴染、ツンデレらしいがデレが分かりづらすぎる件 @mikazukidango32

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ