最終話 2人とも、好きな人ができたらどんな手段を使ってでも自分のだけの物にしないと駄目よ

 大学卒業と同時に俺達は入籍した。大学卒業式の日にあの日と全く同じ言葉で改めてプロポーズして、無事エレンから快諾されたのだ。

 その日から俺達は夫婦となり、如月エレンは剣城エレンへと名前を変えた。ただし全てが順調だった訳ではない。

 俺とエレンの結婚を聞きつけたヒカルと雪姉が俺達の前に現れて離婚するように迫ってくるなど一悶着あった。

 2人はエレンの本性を話せば離婚すると思っていたらしい。だが俺が全て知った上でエレンと結婚したと話すと、ヒカルと雪姉は完全に絶望してしまった。

 2人が今どこで何をしているのかは分からないが、俺とエレンの事なんか忘れて別の幸せを掴んで欲しいと願っている。

 それからは結婚式をしたり、新婚旅行に行ったりと2人で新婚生活を楽しんだ。ちなみに俺は外資系投資銀行に就職し、エレンは全て在宅だけで完結する翻訳家になるという道を選んでいた。

 最初の頃は仕事に中々慣れず怒られてばっかりの俺だったが、今ではしっかりと仕事をこなす立派なサラリーマンに成長している。

 まあ、就職してからそろそろ2年近くが経過するのだから当たり前の話ではあったが。外資系投資銀行は入社する前から想像していた通りかなりの激務で大変な事も多い。

 そのため正直言ってかなりストレスもあったが、泣き言なんて言ってられない。だってもうすぐ俺達には新しい家族が増えるのだから。


「それにしても妊娠したのが双子だったのは驚きだよな」


「あの時は本当びっくりだったよね」


 妊娠検査薬で陽性が出たため産婦人科に通院し始めた俺達だったが、妊婦健診の超音波検査をした際に一卵性の双子を妊娠している事が発覚したのだ。

 これから生まれてくる赤ちゃんの性別は女の子である事が確定していたため、玲緒奈れおな里緒奈りおなという名前をつけようと2人で決めた。出産予定日も近いため、もうそろそろ生まれてくるはずだ。


「じゃあ、仕事に行ってくる」


「うん、今日も1日頑張ってね」


「出産には絶対立ち会うつもりだから、何かあったら遠慮なく電話してくれ」


 そう言い残すと俺はエレンに見送られながら家を出て、職場へと向かい始める。エレンからもうすぐ生まれそうという連絡が来たのは半日後の事だった。

 会社を早退して急いで病院に駆けつけた俺は無事出産に立ち会う事ができたのだ。出産に立ち会うと妻を女性として見られなくなるなどと先輩達から聞かされていたが、俺としては全くそんな事無かった。

 むしろエレンを今まで以上に好きになり、絶対誰にも渡したくないという気持ちがより一層強くなった事は言うまでもない。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 玲緒奈と里緒奈が生まれてから16年という月日が流れていた。高校生になった2人は学校でもモテモテであり、美人双子姉妹などと呼ばれているらしい。

 ヨーロッパ系の血が強かったせいで小学生の頃いじめられていたエレンだったが、玲緒奈と里緒奈に関しては髪が生まれつき茶髪な事以外は普通の日本人と変わらない容姿をしていたため、特にいじめられるような事は無かった。

 親としては自分の子供がいじめられる事が何よりも辛い。だからそれが無くて本当に安心だったと言える。

 そしてついにアラフォーとなってしまった俺とエレンだったが、相変わらずラブラブだった。今でも頻繁に2人でデートに行くし、エッチも週に数回は必ずしている。

 ハーフは老けるのが早いなどという噂も世の中には出回っていたが、エレンはいつまでも綺麗で若々しいままだった。流石に20代に見えるというような事はないが、アラフォーというといつも驚かれる。


「パパとママは昔からずっと仲が良いよね。まるで新婚夫婦みたいって近所の人から言われてるのはどう思ってるの?」


「えっ、そんな事言われてるのか!?」


 皆んなでテーブルを囲んで夕食を食べている際に玲緒奈からそんな事を言われた俺は驚いて声をあげてしまう。


「お姉ちゃんも私もそろそろ恥ずかしい」


「へー、そっか。私と快斗君はそんなふうに見えてるんだ」


 恥ずかしそうな顔をして口を開く里緒奈に対してエレンはめちゃくちゃ嬉しそうな顔になった。もしかしたらエレンとデートしている姿を近所の人から見られたのかもしれない。そんな事を思っているとエレンが玲緒奈と里緒奈に話しかけ始める。


「2人とも、好きな人ができたらどんな手段を使ってでも自分のだけの物にしないと駄目よ。私が快斗君と結ばれたのも……」


「その話は私も里緒奈も昔から何百回と聞いてきたからちゃんと分かってるわよ」


「うん、もう正直聞き飽きた」


 2人はまたかと言いたげな顔になっていたが、エレンは気にせず一方的に話し続けていた。そんな3人の様子を見ながら俺は微笑ましい気分になっている。

 こうして40歳になった俺のとある1日は終わりを迎えたわけだが、俺達の人生はまだまだ続いていく。

 そして俺とエレンはこれからも引き続き玲緒奈と里緒奈が作り出す人生という名の物語を2人で後ろから見守っていくつもりだ。

 どんな物語になるかは2人次第だが、きっと良い物語になるに違いない。だって玲緒奈と里緒奈は俺達の自慢の娘なのだから。

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