第40話 残念だったわね、もはや私と快斗君を引き裂く事なんて誰にも出来ないのよ
「やあ、姉さん。待ってたよ」
私はアランに呼び出されて真夜中の人気の無い公園に来ていた。電話やLIMEなどの連絡手段は基本的に全部ブロックしていたが、わざわざ他人のスマホを借りて電話をかけてきたらしい。
もし来なければ私のやった事を証拠付きで快斗君に全部バラすと言っていた。証拠なんて何も残っていないと思う私だったが、とりあえずアランの誘いに乗ることにしたのだ。
ちなみに寝ていたところを電話によって叩き起こされてここへ来ているため、かなり不機嫌になっている事は言うまでもない。
「……それで私をこんなところに呼び出して何がしたいのかしら?」
「そんなに警戒するなよ。俺はただ姉さんと話したいだけだから」
「私とただ話したいだけならさっきの電話で済ませれば良かっただけの話でしょ」
わざわざここに呼び出したという事は何かしらの目的があるはずだ。だがアランの目的が何なのかは今のところ分からなかった。
「俺は本当に姉さんと話したいだけだよ……この間と同じ事を聞くけど姉さんは、卑劣な方法を使って快斗を手に入れて本当に嬉しいのか? 快斗が気になっていたり好きになった女の子を俺に奪わせて精神を破壊するなんて方法は絶対まともじゃないと思うけど」
「嬉しいに決まってるでしょ、何度聞かれても私の答えは変わらないわ」
私がそう答えるとアランはまるで勝利を確信したかのような表情になった。なぜアランがそんな表情になったのか疑問に思う私だったが、すぐその答えを知る事となる。
「だってさ、快斗。全部俺の言う通りだっただろ」
アランは近くのベンチに向かってそう叫んだ。暗くてよく見えなかったが、よくよく見るとベンチには黒い布がかけられていて人型の形が浮かび上がっていた。
「ま、まさか!?」
「そのまさかだよ」
そう言い終わったアランは黒い布を一気に剥がす。するとそこには結束バンドで手足を縛られた上に目隠しと猿ぐつわを装着された快斗君の姿があった。
「……アラン、あなた快斗君に何をしたのよ」
「呼び出してスタンガンで動けなくした後、縛っただけだよ」
怒り心頭でアランを睨みつける私に対して、彼は余裕の表情を浮かべている。まさかアランがここまでするとは正直思っていなかった。どうやらアランの目的は快斗君の前で私の口から真実を暴露させる事だったようだ。
「快斗も姉さんの本性を知った事だし、これで2人の関係も完全に終わりだ」
ニヤニヤした表情を浮かべながら快斗君の目隠しと猿ぐつわを外すアランだったが、彼は大きな勘違いをしている事に気付いていない。
「……何で快斗はそんなに嬉しそうな顔してるんだよ!?」
快斗君の表情を見たアランは困惑の表情を浮かべていた。恐らくアランは快斗君が苦痛で顔を歪めると思っていたに違いない。
「そんなのエレンが俺の事を本気で愛してくれている事が分かって嬉しいから」
「か、快斗は一体何を言ってるんだ……今まで苦しんできたのは全部姉さんのせいだったんだぞ?」
「それだけエレンは俺の事が好きだったって事だろ、今までの苦しみは全部俺とエレンが結ばれるための試練だったんだよ。そっか、エレンはそんなに俺の事が欲しかったんだな。大丈夫もう俺は身も心もエレンの物だし、これからもずっとそうだから。長い間気持ちに気付いてあげられなくて本当にごめん、でもこれからは死ぬまでずっと一緒だ」
快斗君は幸せそうな表情でそんな事をつぶやいていた。如月エレンという人間を病的に愛している今の快斗君にとって、私の今までの所業は全て愛ゆえの行動だと認識するようになっている。つまり、アランの勘違いとは快斗君の壊れ具合を完全に見誤ってしまった事だ。
壊れる前ならまだしも、完全に壊れてしまった快斗君に今更私の行いを全部暴露したところでアランが期待したような反応なんて返ってくるはずがなかった。何もかもが手遅れな事に気付いたアランは全てに絶望したような表情となる。
「残念だったわね、もはや私と快斗君を引き裂く事なんて誰にも出来ないのよ」
私は快斗君の結束バンドを外しながらアランにそう言い放った。快斗君に暴行を加えた挙句拘束までしたのだからアランもこれで終わりだ。
結束バンドを外し終わった私はアランの悪行を警察へと通報するために鞄からスマホを取り出そうとする。だが一瞬とは言えアランから目を離してしまった事は大きな失敗だった。
「姉さんさえ、姉さんさえいなければこんな事にはならなかったんだ!」
なんと逆上したアランはポケットから折りたたみナイフを取り出して、私に襲いかかってきたのだ。突然の事に私は固まってしまい、体が動かなかった。
どうやらアランは心臓を狙っているらしい。ナイフの切っ先が徐々に近づいてくる様子がスローモーションで見え始めると同時に記憶が走馬灯のように蘇り始める。
まだ死にたくは無いが、流石にもう駄目かもしれない。今の私には目を閉じて、その時が訪れるのをただひたすら待つ事しか出来なかった。
だがいつまで経ってもその時はやって来ない。恐る恐る目を開けると私に覆い被さるように快斗君が立っていた。
「エレンの事は何があっても必ず俺が守ってみせるって言っただろ」
そう口にする快斗君だったが背中にはナイフが深々と刺さっており、傷口から大量に出血している。快斗君は見るからにかなり危険な状態だった。
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