第39話 何もかも全部姉さんの思い通りになると思うなよ

「アラン、そろそろしつこいわよ。いい加減快斗君の事は諦めなさい」


 ここ最近こそこそと私達の事をストーキングするアランにいよいよ我慢の限界を迎えそうになった私は、文句を言うために電話をかけた。

 ちなみにアランの電話番号は着信拒否にしているが、普通に繋がった事を考えると向こうは設定していなかったようだ。


「諦められるわけないだろ。姉さんこそ早く快斗と別れろ、もっと相応しい相手が絶対いるはずだ」


「それは到底無理な相談ね。快斗君は私の事を本気で愛してるし、私も快斗君の事を本気で愛してるから別れるなんて何があっても絶対あり得ないわ」


 アランは私と快斗君の仲を何とかして引き裂きたいようだが、もう既に私達は共依存し始めているため別れる事などあり得ない。

 私達が別れる事があるとすれば死別くらいだ。もしそんな事になった場合はすぐに後を追うだろうが。


「姉さんはあんな卑劣な方法を使って快斗を手に入れて本当に嬉しいのか」


「勿論嬉しいに決まってるわ、ちゃんと私の物になったんだから。それにそんな卑劣な方法の共犯者であるあなたが私にそれを言う資格なんて無いと思うけど?」


「そっ、それは……」


 共犯者という言葉を聞いたアランは唸り声をあげて黙り込んでしまった。ひょっとしてまさか自分が快斗君を壊した共犯者である事を忘れていたのだろうか。

 私がこんなにも早く快斗君を壊し、手に入れる事ができたのは間違いなくアランという共犯者がいたからだ。

 もしアランがいなければもっと長い時間がかかっていたに違いない。それだけアランの功績は大きかったと言える。


「そもそもあなたがどうして私に協力したか言い当ててあげましょうか?」


「そ、そんなの姉さんから脅されて仕方なくやってたからに決まってるだろ」


 私の言葉を聞いてアランは明らかに動揺したような声になっていた。そんなアランを無視して私は口を開く。


「それは表向きの理由でしょ。あなたが私に協力した理由……それは快斗君の苦しむ姿を見たかったからよ」


「ち、違う。俺は絶対そんな事思ってない。適当な事を言うな」


「いいえ、違わないわ。あなたが昔から好きな相手の苦しむ姿を見て興奮する特殊性癖の持ち主だって事は知ってるのよ」


 声を荒らげて否定するアランに対して私は容赦なくそう言い切った。快斗君が苦しむ姿を見てアランが下半身を思いっきり勃起させていた事を私は知っている。それにその後しっかり自慰までしていた。

 つまりアランは私に対して快斗君が可哀想だから協力したくないなどと口では言っておきながら、本当は自分の薄汚い欲望を満たすために全てやっていたのだ。

 ゲイであるにも関わらず女性の姫宮千花と寝たり剣城雪奈にキスをしたせいで精神に少なくないダメージを負ったようだが、アランとしてはそこまでしてでも快斗君の苦しむ姿を見たかったのだろう。

 私がその事を指摘するとアランは電話の向こうで発狂したような声を出していた。どうやら自分の薄汚い部分を強制的に自覚させられて耐えられなくなったようだ。


「うるさいわよ。近所迷惑になるからいい加減辞めなさい……って、多分聞こえてないか」


 これ以上はまともな会話にならないと判断した私は電話を切ろうとする。だが突然発狂するような声がピタリと止んだ。


「何もかも全部姉さんの思い通りになると思うなよ。絶対後悔させてやるから覚悟しておけ」


 そう不気味な言葉を言い残すとアランは一方的に電話を切った。多分アランはこれから何かしらのアクションを私か快斗君に対して起こしてくるはずだ。

 まあ、たとえアランがどんな手段で来ようとも関係ない。だって最後に笑うのはアランでは無くこの私なのだから。


「覚悟するのも後悔するのも全部あなたの方よ、アラン」


 アランにはそろそろ表舞台から消えてもらう事にしよう。はっきり言ってアランの存在は私にとっても快斗君にとっても害でしか無い。

 だから大掛かりな行動を起こした時がアランの最後だ。そんな事を思いながらいつも通り寝る準備を始めているとスマホが着信音とともに振動し始める。

 電話をかけてきたのは快斗君のようだった。私はやっていた作業を一旦中断してすぐさま電話に出る。


「もしもし、こんな時間にどうしたの?」


「……ちょっとエレンの声が聞きたくなって」


 そう話す快斗君だったが、多分私のスマホにインストールした遠隔監視アプリの通話履歴を見たから電話してきたに違いない。

 いくらアランが私の実弟とは言え、自分の彼女を何人も奪ってきた男である事には変わりないため心配になったのだろう。

 ちなみに遠隔監視アプリは快斗君を安心させるためにわざと隙を作って私のスマホにダウンロードするよう仕向けたのだ。


「そっか、実は私もちょうど快斗君の声を聞きたいと思ってたところだよ」


 それから快斗君が安心するまで電話に付き合った。その結果、本来寝る予定だった時間を大幅に過ぎてしまったが、快斗君とたくさん話せて幸せな気分になったから問題なしだ。

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