乙女ゲームあるある論

例えばイケメンと美少女がいて、イケメンは強大な悪と戦っていたとする。(それは権力者でも謎の反政府組織でも、抗いようもない運命でもいい)。果敢に悪に立ち向かうイケメン。だが、度重なる理不尽にさすがのイケメンも心が疲れてくる。大切な美少女も自分の事情に巻き込んでしまった。彼女を危険に晒すのは辛い。そう思い、イケメンがふと弱音を零す。だが、美少女は違った。彼女は優しく微笑み、自分は怖くないと。イケメンがいれば大丈夫だと。それに……と希望的な未来について語る。美少女の天使のような振る舞いに、イケメンは一言。

「お前は強いな」


はいストープッ!! ちょっとタンマタンマ。今すごいいい雰囲気だったけど、よくよく考えてみて。「お前は強いな」って、何!?


ということで。今回は乙女ゲームあるある第1弾! 「お前は強いな」とは何かについて語り散らかします。


え? 次回予告と違うって? 乙女論の次回予告が詐欺なのはいつものことでしょ(すみません)。第2弾もあるのかって? 50%くらいの確率であります。つまり気まぐれ。


話を戻します。


あのね、「お前は強いな」ってセリフは乙女ゲームにとても良く見かけられます。私はオトメイト作品を中心に15作品以上は乙女ゲームをプレイしてきていますが、人が死ぬ系のゲームだとまあこのセリフが多い。一昔前に「おもしれー女」が流行ったじゃん? 違うの、今のトレンドは「お前は強いな」なの! (とはいっても最新の新作ゲームはあまりプレイしていないから、2~4年前だったりとか、Vita時代のリメイク版だったりするけど)


でもさ、さっきも言ったけど「お前は強いな」って何。何かすごいいいこと言ってる感あるけど、謎じゃない?


そもそも強さって何よ。多分ね、ヒロインの危険なことに巻き込まれても前を向いていく明るさとか、心の折れなさとかを語りたいんだと思う。けど「強い」って表現するのおかしくね? 強いって言われて何が思い浮かぶ? 力じゃん。武力じゃん! 筋肉じゃん!


私にとって、乙女ゲームのヒロインは守られる存在。たまにコドリアのカルディアちゃんみたいなバリバリ前線で戦うような子もいるけど、それでも守られてる子の方が多くないですか? これは乙女ゲームだけじゃなくて、少女漫画とか、一般文芸とかでも当てはまると思うけど。でも、だからこそ、武闘派の女の子以外に「強い」って言葉が向けられると、ふと美少女がムキムキの筋肉マッチョの美少女に変更されてしまう。そして、すごい良いシーンなのに白けてしまうし、なんなら笑ってしまう。あれだけ輝いて見えたイケメンにスンッってなってしまう。ちょっとヒロインに自己投影していた場合は、「え、あたしそんなムキムキやないで」と思っちゃう。そう、つまり流行りの言葉で言うと「蛙化現象」を起こすのだ。(※蛙化現象とは恋愛感情を持った相手の些細な言動に興ざめしてしまうこと)


それに一つ全国の乙女心を持つ方々に問わせて。あなたはイケメンに「お前は強いな」って言われて嬉しいですか?


「っ、お前が可愛いから」「〇〇ちゃん、可愛いね」みたいに可愛いと言われるのはとても嬉しい。見た目でも中身でもどっちでもいい。軽率に惚れるし照れる。


「お前は十分優しいよ」「僕に優しくしてくれた子は君が初めてだから」。こういうのも嬉しい。優しいっていうのは、最高の誉め言葉だと思う。それにあなたに優しくするのは、あなたが好きだから当然でしょって胸を張って言える。


だが、ひとたび「お前は強いな」「○○ちゃんは強いね」と言われてみろ。「え、そ、そうかな。ありがと。えへへ……」以外に返し方あるか!? ないでしょ? 言ったイケメン側もその場ではヒロインが健気に頑張っているから気づかないけど、全てが丸く収まって、美少女と結婚してから数年後、ふと我に返って、「あの時あいつのこと強いなって言ったけど、もっとマシな言い方あったかも」って内心思ってるよ! きっと!


ムードのあるしんみりとした音楽に騙されないで。その後のキスとかハグのスチルに流されないで。そのイケメンは、ボキャ貧だ!


……とまあ、随分ここまで「お前は強いな」男をこてんぱんに言ってきましたが、つまりは美少女という可愛い・か弱い・優しい・頑張り屋という典型的なイメージに「強い」という言葉がミスマッチしているだけです。イケメンに非があるわけではないんです。


だから、ここで一つ「お前は強いな」に変わる言葉を提唱させて下さい。


例えばイケメンと美少女がいて、イケメンは強大な悪と戦っていたとする。(それは権力者でも謎の反政府組織でも、抗いようもない運命でもいい)。果敢に悪に立ち向かうイケメン。だが、度重なる理不尽にさすがのイケメンも心が疲れてくる。大切な美少女も自分の事情に巻き込んでしまった。彼女を危険に晒すのは辛い。そう思い、イケメンがふと弱音を零す。だが、美少女は違った。彼女は優しく微笑み、自分は怖くないと。イケメンがいれば大丈夫だと。それに……と希望的な未来について語る。美少女の天使のような振る舞いに、イケメンは一言。

「ありがとう」


これだけで良くないですか? 

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