第30話

待てが出来る男は、その後の待てが一切出来ない男だった。


 グッタリとした様子でカサンドラが学園に登校すると、

「愛ですわね・・・」

「愛が凄すぎるのが良くわかりますわ・・・」

と、真剣な面持ちで、二人の侯爵令嬢が言い出した。


 エルハム王女に関わっていた下級貴族の生徒たちは学園を追われる事となり、カサンドラに被害を与えた生徒は拘束され、毒を与えたとされるハイデマリーは行方不明となっている。


 ハイデマリーの実の母は、確かに誘拐をされていた。誘拐をされていたものの、指などは切断されずに指輪を外されて奪われただけの状態だったらしい。

 誘拐犯も全て捕まえられて、今は牢屋の中に入れられている。

 助け出されたハイデマリーの母と弟一家は、ハイデマリーと共に隣国モラヴィアへと移住した。


 ちなみにフェヒト子爵家は没落した。ハイデマリーとしては父にも義母にも恩義を感じる事はなかったようなので、娘自身に没落で良いと宣言された形となる。


 エルハム王女の悪事を明るみにする事に協力をしたハイデマリーは無罪放免となり、今後はドラホスラフ王子に嫁ぐカロリーネの庇護の元、隣国での生活を続ける事になる。


 自分が鳳陽小説のヒロインと同じようになれるものと思い込んでいたハイデマリーは、カサンドラが愛読書の翻訳を手掛けていたという事実を知って、

「なんでもやります!なんでもやらせてください!」

非常に協力的になったらしい。ハイデマリーは翻訳家サンドラの熱狂的ファンだったのだ。


「本当に!本当にすみませんでした!私!翻訳家のサンドラ様がまさか公爵令嬢であるカサンドラ様だとは知らなかったんです!貴女の訳した本が大好きです!王妃様になっても翻訳続けてください!転居先でも購入し続けますから!」


 王女が船で運ばれたその日のうちに、ハイデマリーは学園を退学して隣国へと移動する事になった。エルハム王女の手先となって動いたハイデマリーを暗殺しようと、公国側が企むかもしれないため、早々に移動させる事にしたのだった。



 学園の落ちこぼれでもあるエルハム王女はそもそも人望がなかった事もあり、カサンドラが怪我をした事に怒ったアルノルトによる公国への襲撃は、王子の武勇伝として好意的に語られる事になったらしい。


 そして、カサンドラを傷つけた時の王子の激怒ぶりは後々まで語られる事になった為、カサンドラがそのまま王子妃におさまる事に文句を言う者も現れず、自分こそが王子の妃に相応しいなどと言い出す猛者も現れず、


「私たち!無事に卒業と共に結婚の運びとなりそうですわね!」


三人の美しい令嬢たちが、嬉しそうに卒業後の結婚生活について語り合う姿に、憧れの眼差しだけが送られる事になったのだった。


 アルマ公国との折衝に時間を取られている間に、あっという間に月日が経ち、学園を卒業する日がやってきた。

 卒業パーティーには煌びやかに装った生徒たちが参加をして、よくある鳳陽小説の展開のように、パーティー中に婚約破棄を宣言するような輩も登場する事はなかった。


「ああ・・・私が思っていたようなパーティーにはなりませんでしたわね・・・」


 パーティー会場の奥の席に座っているカサンドラは妊娠二ヶ月となり、まだ、安定期となっていないため、今日のダンスは見ているだけの状態となっている。


「そんなにダンスがしたかったか?」

 隣に座るアルノルトに問いかけられて、カサンドラは形の良い眉をハの字に下げた。

「ダンスがしたかったわけじゃないのです」


 卒業パーティーの場で婚約破棄宣言を受ける気満々だったカサンドラは、卒業後、家から放り出されても何も困らないように事業を展開し、資産の一部を国外に移動までしているというのに、その努力は一体なんだったのだろうと思わない事もないのだが・・・


「カサンドラ、愛してる」


 王子からそう囁かれて頬にキスをされれば、大概の事はどうでも良くなってしまう自分のチョロさを自覚しながら、手を振るコンスタンツェとカロリーネに向かって笑顔で手を振りかえしたのだった。


                             〈完〉



   *************************


カドコミ・コンプティーク様にて『悪役令嬢はやる気がない』(高岸かも先生 画)で掲載!ネットで検索していただければ!無料で読めます!短期連載で、クラリッサ編までのお話となりますが、こちらも読んで頂ければ幸いです!


悪役令嬢はやる気がないの続編『悪役令嬢は王太子妃になってもやる気がない』も連載しています。そちらも読んで頂ければ嬉しいです!!

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悪役令嬢はやる気がない もちづき 裕 @MOCHIYU

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