第3話 勝利の美酒をよこせ!至高の「ヘヴィメタ」
デュエルスクールに入学してから3年以上が経過していた。今日は年に一度の聖杯祭の日だ。この行事は学年別にトーナメント方式でデュエルをして強さを競う大会だ。以前の世界では学校行事なんて仕方なく参加していた俺だけど、このイベントは毎年楽しみにしている。クラスメイトと忖度なしで全力でデュエルができるのも魅力だが、何よりも嬉しいのはやっぱり優勝して称賛を浴びることができるからだ。俺はこの4年間聖杯祭で優勝を果たしていた(ドヤ)。そしてこの大会の大詰めとなる6年生の決勝がもうすぐ決着しようとしていた。
「《
3つのシリンダーの内2つの弾丸が発射され2体のモンスターを撃沈させる。この攻撃で相手のライフが0になり勝敗が決まった。
「今年の聖杯祭も俺の優勝だな。悪く思わないでくれよな」
「ヘヴィメタ」さん。この学校で最強と言われている天才デュエリスト。一見運任せに見えるカードを使うが、その戦略は計算され尽くされ他を寄せ付けない。彼には常に羨望の眼差しが向けられ、粗暴な態度とは裏腹にそのカリスマ性は計り知れない。長めの赤い髪を後ろで縛った目立つ風貌。俺もこの世界に来てからそれなりに高い評価を周りからされているが、ヘヴィメタさんの足元にも及ばない。正直この学校に入学して間もない頃は俺より強い奴なんていないだろ、とか思っていたけどこの人は段違いに強かった。そして周囲の人たちを熱狂させるような魅力も備わっていた。たぶんこういう人が「真のデュエリスト」になるのかと思った。
デュエル終了直後はヘビィメタさんを称える女子の歓声が響き渡り(この学校のほとんどの女子がヘヴィメタさんのファンだ)、我先にとヘヴィメタさんに群がっていく。そんな様子を多少嫉妬混じりに見つめていたから気が付かなかった。ヘヴィメタさんがこっちを見つめていたことを。
女子たちに笑顔を向け軽く手を振りながら俺の方に向かってくる。
「お前がユーグか?」
「はい、そうですが・・・」
「そんなにびびんなよ。ユーグも聖杯祭で優勝したんだったな、おめでとう」
意外だった。まさか俺の優勝を称えるために声をかけてくれるなんて。
「ありがとうございます。ヘヴィメタさんこそ今のデュエル見事でした」
「おう、すごいだろ俺のタクティクス。俺からちゃんと学んどけよ後輩君。ところでこの後暇か?飲みにでも行かないか?聖杯祭の優勝者同士祝杯でも挙げようぜ」
「僕なんかがいいんですか?ありがとうございます!」
え、なにこれ?応援してくれた女子を差し置いて俺とお茶するってこと?なんかよくわかんないけど優越感!
「フロイだったっけ?お前も優勝者だったよな。一緒に飲みにいかないか?」
「いや、俺はいいです」
フロイは不愛想に誘いを断った。せっかくヘヴィメタさんが誘ってくれたのに・・・。
フロイは5年生組の聖杯祭優勝者だ。デュエルだけじゃなくて勉学でも優秀な成績のようだが、周囲と馴染まずにいつも一人で行動している。冷たい眼差しでいつもどこか違う世界を見ているような少年。
フロイと目が合った。なんだ、この感覚は・・・・・。まるでこちらを射抜くような視線。鋭利で憐憫な目つきでこちらを威嚇しているようだ。これはまるで魂が凍えるようだ・・・。あいつまだ14歳だよな?俺は自分の感覚では35年生きている。よりにもよってたかが14歳の少年の眼差しに恐怖を覚えたというのか・・・。
フロイのことは一旦置いといて俺はヘヴィメタさんに誘われるままにどこかへ向かっていく。見たことない路地を歩いているが、きっとヘヴィメタさんのことだし綺麗な喫茶店にでも連れていかれるんだろうなぁ。
「・・・ヘヴィメタさん?ここって・・・」
「ん?酒場だけど?祝杯挙げるんだし」
「あのー・・・僕まだ10歳なんですけど」
「じゃあとりあえず、ミルクでも貰おうか」
ヘヴィメタさんに流されて拒否することもできずに二人で酒場に入った。この世界では飲酒は15歳から認められているので既に15歳のヘヴィメタさんが酒を飲むのは全く問題ない。でも・・・
「マスター、いつもの」
「また来たのかボウズ」
「あとこっちの少年にはミルク」
「まったく、うちはサテンじゃねぇんだぞ」
はっきりとは言えないけど、たぶんヘヴィメタさんはここの常連だ・・・。この人15歳になる前にここに来てるな・・・。そしてテーブルには上等そうな酒とミルクが運ばれてきた。
しかしそんな素行の悪さとは裏腹にやはりヘヴィメタさんには人を引き付ける魅力を感じた。時折冗談を交えながらも知性を感じさせる言動は常に心を鷲掴みにされる。俺はいつも以上に饒舌になってヘヴィメタさんとの会話を楽しんだ。デュエルの話だけじゃなく、なんでもない日常の話までしていても退屈には感じなかった。俺とヘヴィメタさんは今日初めて会話したはずなのにかなり距離を詰められたような気がする。だからこんな思い切った質問もできた。
「ヘヴィメタさんはスクールを卒業したらどうするんですか?」
「うーん、まだはっきり決まってないけどチームに所属しようと思ってる」
「チームですか?」
「ああ、なんかおかしいか?」
「いえ、てっきり一人でプロを目指すのかと思ってました」
「まぁ、俺がまじめな人間ならそれでもいいんだけどな。俺は勉強なんて全然できないし、壁にぶち当たったらすぐに不貞腐れちまうようなヘタレだ」
意外な発言だった。ヘヴィメタさんはてっきり自信に満ち溢れた人だと思っていた。
「だから誰かがそばにいてケツ叩いてくれるくらいが丁度いいのさ。・・・なぁ、ユーグ」
「はい?」
急に神妙な顔つきで俺に語り掛けてくる。
「お前は確かに優秀だ。でも一人の力には限界がある。お前のそばにいて支えてくれる人を作っておけよ」
「ありがとうございます。こんなに親身になって話をしてくれたのはヘヴィメタさんが初めてです。僕にはきっとあなたみたいな人が必要でしょうね」
「ははっ・・俺みたいな人、か。俺なんかよりも頼りになる奴が現れてくれることを願いたいな」
「そんな人いますかね?」
「きっと見つかるぜ、根気よく探してればな。ところで、もう2時間以上ここにいるけどそろそろ帰るか?」
「それもそうですね。今日は本当にごちそうさまでした。いくらお支払いすれば?」
「おいおい、俺が勝手に誘ったのに後輩に金払わせる訳ないだろー。マスター、ツケでたのむわ」
「ボウズ、いい加減金払わねぇと親にチクるぞ!」
「うう・・それだけは勘弁してくれよ!・・・なぁユーグ!金貸してくれないか!?」
えっ俺が払うの!?
「頼むよ!このままだと俺が13の時からここで飲酒してたことバレちまう!」
「は、はい・・・」
俺は渋々自分のミルク代とヘヴィメタさんの上等な酒の代金を支払った。ちゃんと金は返すって約束してくれたけど、この人信用していいのかな・・・?
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