第46話 自宅作戦会議

「で、真菜。嫌われる女子の条件ってなに?」


 足立さんと別れ、帰宅した両助は、テーブルをはさんだ正面、自宅のソファでくつろぐ居候へと声をかけた。


 ショートパンツから露出したみずみずしい太腿を、みやびに組みかえて、スマホから視線を移した彼女は、


「いきなりどうしたの?」

「いいからいいから」


 最初は前のような口調で話していたが、数言だけ口にしたら、「マジでやめて」とガチギレされたので、現在は普通に話している。


 リフォームされた、新設されたようなリビングで、

 暖色の明かりが、一日の疲れを癒すように、ふたりを包む。


 居住まいを正して、普通に腰かえた真菜は、ひし形のガラステーブルに置かれたグラスを一口煽る。注がれた薄緑の液体が、彼女の首元をこくこくと下る。


「え?なに?学校のこと?」

「知り合いがね」


「え~、難しいな~」と苦虫を噛みつぶした顔を浮かべた真菜だが、突き放すことなく真剣に考えこんで、


「その人、変に悪目立ちしてる?

 それか周りとは関係なく汚く騒いでるか?」


 質問に、首を振る両助。

 少なくとも足立さんは進藤の手前、おしとやかで通しているし、普段もそこまで明るい性格ではない。

 表情は慈愛に満ちた微笑で、吐き出す言葉は、発信する以外では、耳心地の良い囁き声だ。


「じゃあ、その人はモテる」


 それには、肯定も否定、憚られた。


「モテるけど、彼氏?役の男がいる。一緒にいるのがほとんど」

「……男子はモテる?」

「………はい」

「それ完全に地雷じゃん」

「ですよね」

「日本人は陰湿なんだから、嫌がらせなんて当たり前だよ」


「それはもう仕方ない」と一蹴した真菜。

 背もたれにばふんと埋まった彼女に、両助は、


「でも、他にもなにかあるんじゃないかと……」

「もう決まったようなもんじゃん。意味ないよ」


 手を左右に、まとわりつく意見を払うように、告げた。


 体中で伸びをした真菜は、彼女にとっては当たり前な、常識であることなのか、欠伸と共に両助を諭した。


「正義にとって悪は悪、悪にとって正義は悪。

 視点が違えば敵も変わる」


 勢いよく立ち上がった真菜はそのまま歩き出し、吹き抜け奥にある冷蔵庫に向かう。


「不思議なことなんてなにもない。この世の摂理だ。

 そう、このアイスがわたしのものであるようにね」


「おいマテ、それは俺が買ってきたアイスだ返せ」


 冷蔵庫の下段を開けた彼女は、そのままひょいっと、チョコ味のハーゲンダッツを取り出して、満面の笑みで両助を見ながら言った。

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