文句

「俺の中ではもっと大人かと思ったんですが、意外と童顔な子だったんですね。神っちが“面白い奴がいる”っていうから来たんですが」


 スマホを弄っている男は静かに口を開くと騒がしい男が「違う、お前に記事書かせて送り付けてる奴じゃない」とあっさり聞きたいことを言う。


「おや、この子ではないと」


「どう見たって刑事じゃないじゃん」


「確かにそうですね」


 二人は顔を合わせず会話を始め、スッと視線が狂に向く。


「お初ですよね。刑事さんには嫌がらせで送り付けている死亡記事オビチュアリーと言います。隣のギャンギャンしている人が神っちくん。戦えないオレの相棒的な人です」


 多少の礼儀はあるか突然始まる自己紹介。


「俺は“死んだモノが好き”で記事を書くんですが、どうも世間では受けないので裏で殺し屋やアナタ方が殺した人の記事を書いて掲載してます。ねぇ、神神神っちくん」


「オビオビの記事最高だろ?」


 なぜか始まる自画自賛。存在は知ってるが記事や新聞嫌いな狂は彼らの記事を見たことがない。見たと言えば剣崎の家で目にしたあの記事。たまに裏のSNSでバズって画面に出てくるヤツぐらい。経済や今流行りのものに疎い狂には耳が痛い話。


「サーセン。オレ、新聞とか読まないんでよく分からないです」


 勝手に進む話に空気を読まず閉ざそうとすると、ムッとする神っち。オビオビの記事を読んでないのは許せない、と言うや駆け出し躾のつもりか狂の視界に拳。ッ――、と反応はするも朝のせいで体が鈍り遅れる。殴られる覚悟で目を瞑るとパシッと乾いた音――。視界に影が掛かりゆっくり目を開けると仕事に行ったはずの剣崎が狂を庇う。


「俺の息子・・に何か」


 手のひらで包むように神っちの拳を掴み、グッと強く引き寄せ腹に向け膝を上げた。がら空きの腹に膝がめり込むと思いきや傷だらけの手が膝を包み、二人は手を離すや距離を取る。


「大丈夫か。家が変に静かだと追ってみれば……全く無茶してくれる」


「いや、無茶って言うか刑事さんのことを思って――」


 ポカンッと頭を叩かれ、イタッと手で頭を押さえると死亡記事オビチュアリーがハッとした顔で指を指しながら言う。


「おや、人殺しの刑事さんではありませんか。チミ、オレがよく現場に行くと取材の邪魔してくるので嫌がらせで記事を送り付けてるんですが反応なくて困ってるんですよね。なんでかな、と探ってみれば……罪持ち刑事。アレは驚きましたよ」


 知り合いか。剣崎は死亡記事オビチュアリーに顔を向けると目を丸くし「この死神が」と毒を吐く。


「ハイエナみたいに死の臭いを嗅ぎやがって。捜査の邪魔なんだよ」


「邪魔? いえいえ、アレは――俺の作品を作るためのコトですから。アナタこそ邪魔しないで頂きたい。


 “死体こそ生”。

 すなわち美しいモノ存在。


 それを理解しない人が糞なほど嫌いです。記事の何がいけないんですか。その人の人生から肉や骨の一つ一つ。何があって殺され、死因はどうなのか。


 “死体は人を語る”


 口煩い生者と違って良い。だって、その人が死んだとしても俺がもし生きている頃の姿を写真で撮っていたとしたら“その人”は写真中で生き。燃やされ灰になっても“記事”があるなら――永遠にその中に刻み込まれる。記事って良いですよ。人は三回死ぬと言われてますが、死んだ人を唯一死なせない。素晴らしいモノです」


 フフッと薄く笑う死亡記事オビチュアリー。神っちも釣られて笑うも狂と剣崎は美学や思考の違いから彼らのやり方を理解できなかった。

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人間アート 無名乃(活動停止) @yagen-h

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