血に魅了される剣崎

 剣崎を追いかけ、家に戻るも様子がおかしい。家に入るや真っ暗で日があるときとは違うダークな雰囲気。

 一階は剣崎。二階は狂と言われ、邪魔しないように狂はスマホをライト代わりに階段を上がるも静かすぎる室内にゾッとする。


「オレがパリピだからかな。静かなのやだ」


 リビングに向かうと太陽光で明かりつく小さなランタンをソファーの下に置き、腰かけては手で顔を覆う剣崎。気配を感じたのか。なんだ、と声かけるも不機嫌な声。


「そんなに美味しかった? オレにしちゃ糞つくほど不味かったけど」


 返事に返事を返すも間が空く。

 そして――。


「あの瓶、何処だ」


 やっと口開いたと思えば欲深き言葉。


「止めてきなよ。剣崎刑事の柄じゃない」


「黙れ、何処に置いた」


 吸血鬼にでもなったつもりか。

 舐めたくて仕方がないのか。

 腕を掴まれ振り払う。

 居座り初日で口論とは運がない。


「置き場場所決めてないから玄関にある」


「持ってこい」


 その言葉には嗤って返す。


「やだね。刑事さん、マジで堕ちるよ。オレそんなのやだもん」


「あぁ?」


「殺すなら“悪に染まった刑事さん”じゃなくて“正義感強い悪を滅する刑事さん”がいい。その方が生きてるって実感するし。ほら、あーオレ悪いことしてるんだぁってヤツ。分かる? 分かるよね?」


 瓶そっちのけの狂自慢のマシンガントーク。やや裏がえった声で続けて――。


「だってさぁ、こーんなに悪いことしてるのにぃ見逃されてるんだよ。いや、見てないだけで怯えてる奴らがごまんといる。それをさ、それをさぁ、刑事さんがあぶり出す。違う意味でゾクゾクするよ。来るッオレにも天罰がぁぁぁっ!! って感じで」


「意味分からん」


 一人芝地する狂に呆れる剣崎。


「つまり、刑事さんに例えるとこう言うことだよ。

 嫁を殺したのにバレないのかって感じる変な緊張感。たまらなくない?」


 狂はニヤニヤ、ヘラヘラと血に魅了され堕ちそうな剣崎を苛立たせ正気に徐々に戻していく。


「今回の件も本当は――処理に迷ったりして。行方不明、失踪、ククッ何にするんだろ」


 捜査報告のことを勝手に口にしからかう狂が嫌になったか。覆っていた手を下ろし、ギロリと悪ではなく正義らしい眼差しで睨む。


「うわっコワイコワイ」


 ヘラヘラと、怖くないですよ、と言いたげな明るい声と笑顔。剣崎を素性を知っているからか狂は一切怯える仕草すら見せない。


「ねぇ、刑事さん。ぶっちゃけどうなの? 飴」


 それに一度腰を上げ、座り直すと一言。


「美味かった。絶妙に」


「へぇー。なんでそう思うの?」


「嫁でもやったことあるんだが、美しいと殺し少し悲しくなると血を舐めるクセがあってな。体内で混じり合う感覚が嫌らしくも心地いい」


 少し変態じみた言葉に思わず笑う。


「刑事さん、それヤバイって」


「フッお前もどうだ?」


 銃を引き抜き、見せつける素振り“マジだ”と軽く手を上げ狂は言う。


「ご遠慮します」と――。


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