味見
剣崎に怒鳴られ、テヘッと狂は舌を出す。
「お話しは終わりましたか」
席を立つや怒り気味のカニバルが二人に向けフォークを投げた。刑事さん、と剱崎の背に隠れる狂。ふざけるな、と文句言いつつ剱崎は左足に付いているレッグポーチから警棒を取り出し振り払う。
カランッと金属の音が室内に響き、嫌そうにカニバルが顔を歪ませる姿に狂は出入り口に駆け出し、置いていたキャリーバッグを勢い良くカニバルの元へ蹴り飛ばす。
「カニバル、あげるぅー」
嬉しさ溢れる声に「はい?」と向くが少し遅かったか。受け止められず、見事に
――弱ッ!!
見事なフォークの投げ方からして戦い慣れている。カニバリズム=戦闘狂かと思いきや――まさかの“最弱”。
「あ、ごめん。カニバル……大丈夫?」
「せ、青年くん。ボクはカニバリズムの中でも“平和主義”なので戦闘は専門外なんです。ですから、あまり苛めないで頂きたい」
痛がりながらも真面目な声。
「そうなの? フォーク投げてきたから得意かと思ってた。ほら、すごい軌道良かったし」
「必要最低限の護身術は身に付けてますからね」
股を押さえながら踞るカニバルだったが、キャリーバッグから漂う不快な香りにムクッと体を起こす。
「この匂いは――」
緊迫した空気が一瞬で消え去る。
キャリーバッグを全開に。敷き詰められた瓶を見て目を輝かせ「おぉ、これは女性の――」と釘つけに。
「子宮じゃありませんか!! 胸ッあぁ、柔らかい。実に触り心地がいい」
やはり女性が好みか。
「こちらはタマタマですね。しかも大きい。此方は子供でしょうか? 皮が剥けてませんね」
いや、そうでもなさそう。
ただ単に感想が癖あり。
「素晴らしい茶色の瞳。此方は……青? カラコンでしょうか。後で洗いましょう」
瓶を次々取り出す度に必ず一言添える。素晴らしい、美しい、美味しそうだ、好み。会話相手が『臓器』という奇妙なカニバルに剣崎は警戒しつつもカニ歩きで狂の元へ。
「ああいう奴なのか?」
「うん、そう言う人だね。取引する度に『(真似て)おぉ、これは』ってイチイチ丁寧に感想言われるからやや苛つくんだけど。価値が良いとそれなりにオマケ付けてくれるし」
チャリン、と口で言いつつ右手で“金”とジェスチャー。
「感想が変態過ぎて耳が痛いな」
剣崎は一人興奮するカニバルの背を見る。同じく狂も目をやり頷く。
「分かる。それ、全部取り出して味見するまで続くから剣崎刑事インカムあるなら付けてた方がいいよ。味見が始まると咀嚼音来るから」
無線を聞くためのインカム。それを刑事と隠すために外していたが、狂なりの気遣いなのだろう。お言葉に甘えて、と剣崎が耳に填めるとズルッズルルルルッと麺を吸うそうな音。
なんだ、と剣崎は気になるも狂が「見ちゃダメ」と目を覆う。狂の視界に入り込むはブラリと垂れ下がり啜られる腸。クチャリクチャリと味わい「あぁ」と溜め息。続けて――。
大小様々な目玉を飴のように転がし。
舌、肝臓、肺、を歯で喰い千切る。
心臓は形を楽しむよう舐め、ガブリと豪快に。
グチャリ、グチュッグチュッ、ゴリゴリ、ガリ。
クチャクチャ、ガリガリ、ゴックン。
昼食を食べたにも関わらず、それは見事な食べっぷりだった。
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