三十三話 早めの誕生日プレゼント

 放課後、俺はああでもない、こうでもないと駅前のデパートを回っていた。

 同じ店を何度も来店しながら、頭を悩ませている。


「どうせだったら残るものがいいよな……」


 もうすぐ、楽々と沙羅の誕生日なのだ。

 二人とも双子なので当然同じ日付ということもあり、相談することができない。


 修を連れていきたかったが、野球の試合が重ねっているらしい。


 女性へのプレゼントTOP10みたいなのも調べてみたが、化粧品やアクセサリー、果ては服と書いている。


 ……そんなの買えるわけがないじゃないかあああああああああああ。


 無難に入浴剤? もしくは雑貨とか?


 うーん、出来ればちゃんと二人が欲しいだろうと思うものを選んであげたい。


 一息つくために椅子に座って、二人のことをよく考えてみる。


 楽々は活発で、いつも明るい。それでいて気配りが良く、食べるのが好きだ。

 楽々は大人しいが、しっかり者だ。それでいて優しく、甘い物に目がない。


 あれ? 食べるものが良い?


「いや、初めから諦めるのは良くないな……」


 当初の予定通り、残るものがいい。となると、やはりアクセサリーだ。

 

 前に服屋の店員さんに助けてもらったりもしたので、今回もお願いしてみよう。

 

 ……よし、行くぞ。


 ◇


「こちらが今人気のレディースネックレスですね。ハート形で、可愛らしくデザインされています。後はこのブレスレッドも人気です」


 アクセサリーショップに移動、ドキドキしながら訊ねると、綺麗なお姉さんが色々と教えてくれた。

 しかしその数が桁違いで驚く。今人気のものから、過去人気だったもの、更にはイヤリング、指輪、想像もつかなかったブレスレッドまで。


 二人だからお揃いがいいのか、それとも別々にしたらいいのか、わけがわからなくなってしまう。


「な、なるほど……」

「色はシルバーやゴールドが人気ですが、最近は七色から選べたりもするので」

「な、なるほど……」

「後は頭文字を打刻することもできますね。裏側とか、日付を入れることも」

「な、なるほど……」


 頭がパンクしたところで、ひとまず脱出。

 再び椅子で項垂れてしまう。


「俺には……まだ早いのか……?」


 スライムを地道に倒してからじゃないと、このミッションはクリアできないのかもしれない。

 諦めかけたその時、楽々と沙羅が、目の前を通った。


「……え?」

 

 二人は大きな袋を持っている。どうやら買い物の後のようだ。

 今日は確か、二人とも用事があると言っていたが、このことだったのか。


 近くの椅子に座って、幸せそうな笑顔で笑い合っている。

 いつものと楽々と沙羅だが、遠くから見ているとまた違う雰囲気を感じた。

 

 本当に綺麗で、可愛くて、それなのに良い子だ。


 ……よし。二人の顔を見ていたら、勇気が出てきた。


 経験値がないから諦めるなんて、弱虫なことを言うのはやめよう。


 ◇


「では、こちらの二点でよろしいですか?」

「はい、それで頭文字もそれぞれつけたいんですが、いいですか?」

 

 再びアクセサリーショップに戻ると、一時間、いや二時間かけてプレゼントを選んだ。

 お姉さんは嫌な顔一つせず、ずっと寄り添ってくれた。


 値段はそれなりにしたが、満足のいく買い物ができた。


「ありがとうございました。こんなに想ってくださるのなら、きっと喜んでもらえますよ」

「あ、ありがとうございます! だと嬉しいです」


 優柔不断で不安そうにしていた俺を見かねてか、去り際にお姉さんが優しく言ってくれた。



「喜んでもらえたらいいな……」


 自宅近くで、右手の袋を眺めていた。

 どうやって渡そうかなと考えていると、後ろから背中をどんっと押される。


「わ、わあああ!?」


 驚いて声をあげ、振り返るとそこにいたのは嬉しそうに笑う楽々、そして沙羅だった。


「楽々! 驚いてるじゃないですか!」

「ふふふ、驚かせようとしてたんだもーん」

「びっくりした……二人か……」


 その手には、ついさっき二人が買い物していた袋がある。

 俺はサッと後ろに隠したが、楽々が首を傾げる。


「ん? 律、どうしたの?」

「あ、いや!? 何もないよ。というか、偶然だね」


 俺の言葉に、二人が顔を見合わせる。「どうする?」「せっかくだし、いいですよね?」


 なんだろうと思っていると、沙羅と楽々が大きな袋を手渡してきた。

 さっきまで持っていたやつだ。


「え、これはどうしたの?」

「誕生日プレゼントです。少し早いですが、これも縁だなと思いますし」

「うんうん、というか渡したくてうずうずしてたんだよね!」


 まさかだった。いや、本当に驚いた。思わず身体が固まってしまっていると、二人から開けてと催促される。

 忘れていたが、俺ももうすぐ誕生日だった。


「……凄いお洒落だ」

「でしょー? 二人で結構悩んだんだけどね、あともう一つも!」

「はい、律くんにきっと似合うと思います」


 袋から出てきたのは、綺麗なストライプの入ったブラックのシャツ、そして俺ではとても買えないようなお洒落な帽子。

 これからの夏にぴったりだろう。


「ありがとう、めちゃくちゃ嬉しい……」

「ふふふ、喜んでもらえると私たちも嬉しいよ」

「そうですね、それを着てもらえるの是非楽しみにしています」


 嬉しかったのは、別の意味も含まれていた。俺は二人のプレゼントを考えていたのだ。

 それが同時だったことが、本当にうれしかった。


 そして少し早いが、俺も渡そうと決める。


「あの、これ……」


「え?」

「なんですか?」


 ドキドキしながら開けてほしいと頼む。出てきたのは、俺が選んだブレスレッドとネックレスだ。


「楽々がブルーのブレスレット。運動が好きだから、邪魔にならない方がいいと思って、色も青色が多いから好きかなって」

「ブルー好きだよ……そこまで考えてくれたの?」


「沙羅は時計をいつも身に着けているから、ネックレスがいいかなって、色はピンクが似合うと思ったんだ」

「はい……私、ピンクが好きです」


 二人の表情は固まっている。喜んでいるというよりは、驚いている?

 もしかして……失敗したかな? と思っていたら――。


「ありがとう律ー!」

「嬉しいです、律くん!」


 二人が、思い切り抱き着いてきた。え、ええええ!?


「嬉しい、嬉しいよおおお」

「はい、最高の日です! まさか同時になんて」

「た、たしかにそれは俺もびっくりした」


 どうやら喜んでくれていたらしい。涙を流す勢いで、二人は笑顔だ。


「これRってもしかして……私の?」

「私のところにはSって書いてます」


「ああ、二人の名前を付けれるってことでつけたんだけど大丈夫かな?」

「律うううううううう」

「律くん!」


 再び、ぎゅーされる。幸せだけど、恥ずかしい……。


 でも、喜んでもらえて嬉しい。やっぱり勇気を出して良かった。後、綺麗なお姉さんありがとう。


「ねえ、ここで身につけるのもあれだし、家でお披露目会しない? 律も服着てほしいし」

「いいですね、律くん良かったらどうですか? 一緒にご飯も食べましょう」

「え? べ、別に大丈夫だけど……ちょっと恥ずかしいな」


 しかし二人は俺の両腕を掴む。


「では、れっつごー!」

「はい、いきましょー!」


 いつも通りの楽々と、いつも以上にテンションが高い沙羅を見ていると、頬が緩む。


 少し早い誕生日プレゼントだったが、最高の日となった。




 

 


 

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