第二十九話 三人でお買い物だったはずが
「はうう、甘くて冷たくて、新作アイスクリーム美味しすぎます♡」
「沙羅は、ほんと甘いものが好きだねえ、そんな私はかつ丼だーっ!」
放課後。
学校から少し離れた場所に、大型ショッピングモールが出来たので、三人でやってきた。
フードコードにて、少し早めの夕食を頂いている。
沙羅は大きな苺とバニラのアイスクリーム、楽々はたっぷり衣の付いたカツ丼。
対照的だが、二人とも満面の笑みを浮かべている。というか、沙羅は足りるのか……?
ちなみに俺は大好きな蕎麦だ。
ずるずるとコシを楽しんでいると、二人がじっと見つめてくる。
「どうしたの?」
「いや、律らしいなーと思ってね。何か、凄く似合う」
「ふふふ、確かに似合います」
「え、うーん、うーんそれって褒められてる……?」
蕎麦が似合う男……日本男児感はある……か。
「それにしても人が凄いですね。学校から遠いので、同級生はいないみたいですが」
沙羅の言う通り、周囲は人でいっぱいだった。
他校の生徒の学生服が目立つ。おそらくだが、近くに学校があるのだろう。
「ふおおだねえ、ふおおごいねえ」
はふはふと男勝りにカツを頬張っている楽々。「そうだねえ、すごいねえ」と言っているらしい。見た目はもの凄く可愛いのに一目をまったく気にしてないところが楽々っぽい。
だって、さっきから周囲の人たちの視線が凄い突き刺さっている。
二人はまったく気にしていないが、今も後ろの男子学生たちが、明らかにこっちを見ている。
「おい、あの二人可愛すぎねえ!? 双子天使!? てか、あの男誰だよ、そば食ってんぞ!」
「彼氏……? いや、蕎麦だし、弟じゃね? なんかちょっと地味じゃない?」
「流石に彼氏ではないだろ。まあでも、顔は割とイケメン……か? でも、そば食ってるもんな」
おいおい、蕎麦関係あるか!? 日本の最古たる食べ物だぞ。
と、言いに行くことはできない。
髪型を変えてから褒められることは多くなったが、沙羅と楽々に太刀打ちできるほどではない。
実際、ここへ来るまでに二人は何度も芸能界の人からスカウトされていた。
もらった名刺が家に山ほどあるらしく、興味もないので、出来るだけその場で断っているらしいが。
ほんと、どうして俺と仲良くしてくれてるのか不思議だ。
「律くん、お蕎麦がほっぺに付いてますよ」
沙羅が、俺のほっぺの蕎麦をひょいと掴み、ぱくり。
それを見ていた遠くの男子たちが、叫ぶ。
「ぬおおおおおお、なんだ。なんだ!? あいつ、あの子と付き合ってるのか!」
「ちきしょう! ずるいぞ! 両手に花をしながら、一人とはそれ以上の関係を!?」
誤解しているゾ。そして沙羅はいつものように、「は、やってしまいました……」と恥ずかしくなって肩を竦める。
「あーだめ、お腹いっぱいー! 律、あーん」
「え?」
「あーんして? あーん」
一口だけ残ったカツとご飯を食べさせようとする楽々。口元まで運ばれてしまったので、反射的にぱくっ。
当然、また男たちが叫ぶ。
「ちきしょう! あいつ、あいつ絶対許さねえ!」
「双子姉妹丼だあ!? くそお、世の中不公平だ! 俺も蕎麦食べるぜ!」
「あー! 俺は天ぷらも付けてやる!」
蕎麦は全く関係ないと思うが、さすがに声が大きかったので、なんだろうと沙羅と楽々が気付いて振り返る。
男たちは恥ずかしさと嬉しさで興奮して手を振りはじめる。けど、俺に対しては睨んでいた。
「あの人たち、律の知り合い?」
「手を振ってますよね?」
「うー、うーん? し、知らないような、知っているような」
不思議ですね、と首を傾げる二人。
もう少しだけ、自分たちの可愛さを理解したほうがいいのかもしれない。
◇
ご飯を食べ終え、モールをぐるりと回っていると、二人が洋服を見に行きたいと足を止めた。
「じゃあ俺はちょっとお手洗いいってくる」
「はーい! 終わったらお店に来てもらってもいい? それか、後で合流してもいいけど」
「そうですね。待たせるのも申し訳ないですし、後のほうがいいですね。大丈夫ですか?」
特に見たいのもなかったので後で店に行くよと伝えた。
お手洗いが終わって外に出ると、喫煙所で騒がしくしている高校生たちがいた。
(凄いな……よくもまあ堂々と)
男女五人ほど、通りすがりに視線を向けたら、一人の男が目が合った。
「嘘だろ……」
心臓が、鼓動を早める。すぐその場から離れようとしたら、ガラリと扉が開く。
「おい、千堂。止まれよ」
聞きなれた声、何度も、何度も、何度も聞いた声。
クソみたいな思い出が、脳裏に過る。
『こいつ、きっしょ』
『はっ、いいから黙って殴らせろよ』
その場から離れようとしても、足が――動かない。
まるで脳に焼き付かれたかのように、体が言う事を聞いてしまう。
「なに? マサキの知り合い?」
後ろから肩を掴まれる。
名前は
身長は俺より遥かに高く、短髪は金髪で、体格も良い。
俺は過去の記憶が蘇り、身体の震えが止まらなかった。
昔――中学生のころに俺を虐めていた主犯格だ。
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