第6話 早すぎたタイムアウト
上杉の奸計は見事に決まった。
しかし、決まりすぎて上杉自身も憎悪を抱くくらいだ。
「はぁ………クリスタル大会ってこういうゴミが審判を務めてるのか………もうこの大会、ぶっ壊してやろうかな………」
上杉が思わず、声に出してしまう。
幸いにもそれは氷川にしか聞こえていなかった。
無能な人間が上に立てば国民が苦しむだけ、戦争もそうである。
戦争をすれば発展を得る。
それは無能が有能に頼り始めるからだ。
「冷静になれ上杉、俺たちは勝たなければならない。ここで問題を起こしてお前が退場になれば、俺たちのチームは『2人』しか居なくなる!!」
バスケのルールは選手が2人になった瞬間、敗北となる。
ここで上杉が欠けるだけでも斎賀高校の敗北となる。
重ねて氷川が言う。
「『主将』は俺だ。俺に『従う』と決めたんだろ?」
氷川の言葉に上杉が冷静になる。
「ちッ………確かに、あんな『無能』な『審判』の所為で、俺が認めた『主将』を困らせるところだった………すまない。」
上杉の言葉に氷川が方に腕を回して称賛する。
「偉いぞ!! それに、認めているのは俺も同じだ………必ず勝つぞ!!」
上杉は感服した。
氷川主将にはますます頭が上がらない。
会場の腐女子達が氷川と上杉のやり取りにドキドキする。
「せ、攻めは氷川くんで受けが上杉くん………す、すっごく興奮する!!」
誰にも聞こえてないが、女性陣の中に紛れて妄想をふくらませる者たちも現れ始める。
「よっしゃ!! そうとわかれば追撃だ!!」
斎賀高校は容赦なく城ヶ崎高校をたたみ掛ける。
審判が職権乱用する中で、城ヶ崎高校は精神的にも肉体的にも消耗が激しくなった。
肉体的の疲労は目で見てわかるかもしれない。
しかし、精神的な疲労はそう見極められるものではない。
「ナイスシュート!! そのまま行くぞ!!」
桜井が得点を決めると上杉が激励する。
斎賀高校の士気は天を突かんばかり、それに比べて、城ヶ崎高校の選手には居場所がどこにもなかった。
そんな中で、上杉の技術を見抜いた者がいる。
実況の隣りにいる解説者、霧江 祥子(きりえ しょうこ)だ。
「すごいわね………」
これに対して実況の浜崎 愛子(はまさき あいこ)が尋ねる。
「はぁ? 何がすごいのでしょう? 解説お願いします!!」
実況者が会場の皆に代わって質問する。
すると、会場の皆が解説者に注目する。
「上杉選手のドリブルカット、普通なら城ヶ崎高校のボールになるわ。でも、彼のカットは違う。審判や我々からも見えないところで相手のボールをカットしている。それだけじゃない。余りにも自然なカット故に、『審判』も『ボールカット』と『認識』ができていない。ドリブラーの『ドリブルミス』、総認識させているのね。まるで、『流水の極意』、素晴らしいわ………」
そう、審判が誤審していることを『実況者』の『席』から見破ったのだ。
そんな事ができる理由、それは、この実況者がクリスタル大会『優勝経験者』だからだ。
「詰まり、騙されていたのは『我々』と『審判』ということだったのですね!! 恐れ入りました!!」
見破ったところで無能の因縁ほど面倒なものはない。
無能は己のミスを決して改めたりしない。
無能が謝罪して己のミスを直し、皆に償い、有益を齎す。
そんなことができるなら無能ではなく有能というべきだろう。
無能は犠牲者しか出せない。
人を助けることもあるが、それは欲望から、その人間を助けたほうがマイナスを産むとわかっていても無能には選べない。
そして、無能は他にも存在する。
「これは、まずいわね。城ヶ崎高校は目で見てわからないけど異常なほど疲弊している。心身共に限界を見かえているわ。まともな判断ができなくなっている。審判があれでは仕方がないわね。ここはタイムアウトを取って立直さないと後半に大きく響くわ。」
そこまで見抜いていることに驚いた。
そんな説明がある中で審判が増えを鳴らす。
「ピィーーーー!! 『黒』、タイムアウト!!」
なんと、タイムアウトを取ったのは『斎賀高校』であった。
「馬鹿な!!? なぜこのタイミングで!!? 斎賀高校は何かもっととてつもないことを考えているの!!?」
霧江が驚くのも無理はない。
それに続いて実況も煽る。
「なんとなんと!! ここでタイムアウトを取ったのは以外にも斎賀高校の方だった!! 果たして、斎賀高校はもっと凄まじいことを企んでいるのだろうか!!?」
氷川が一応理由を聞く。
桜井は理由を聞かないほうがいいのでは、と思う。
「その………みんなが遠いところに行っちゃうんじゃないかって………寂しくなって………」
それを聞いた上杉は案の定、感情を露わにする。
「てめぇ!! 俺にはクリスタル大会を強要しておいて―――!!?」
氷川が上杉を止める。
それを言われたマネージャーの彩音は大泣きしてしまう。
「ちッ………まぁ、このまま勝ってしまうのも面白くないか………」
氷川が彩音を慰める。
「ナイスタイムアウトだ………御蔭でゆっくり休めたよ。」
神崎が慌ただしい相手チームのベンチを見て複雑な気持ちになる。
「神崎主将!! もう限界です!! 出てください!!」
選手の助けに戸惑う神崎、しかし、神崎の横にいる選手が『ハッ!?』と何かを悟る。
「もしや、神崎主将を早めに出して、体力を削り、後半戦で逆転を狙っているのでは!!?」
無論、そんなことを考えてはいない。
上杉はこのまま気付かれないでいてくれと願う。
「例え、相手が『離間の計』からの『虚々実々の計』であっても、『挑発』だとしても………私が出る『時』だろう………」
逆効果というべきなのだろうか、或いは、野性的勘というやつなのだろうか、このまま審判が信用できず、城ヶ崎高校の選手がプレイすれば、ゲームにならない。
詰まり、ここは『エース』が登場する場面といえる。
時の勢い、即ち、『時勢』………
それとも、天の導きだろうか………
もし、それが『天意』だとすれば、『神』は『城ヶ崎高校』の『勝利』を『願っている』。
「メンバーチェンジをお願いします。」
神崎が体を冷やさないように羽織っていたジャージを脱ぎ捨てる。
その姿に男女共々なぜか注目する。
「流石は『最強のレジェンズ』だ!! 会場が注目しています!!」
そういう意味ではないと思われる。
神崎の登場に審判も見とれているようだ。
「あの無能な審判は平気で不公平なジャッジをする。今度は神崎贔屓になるかもね………」
桜井が冗談で言うと上杉が答える。
「笑えない冗談だぜ………」
しかし、序盤の有利は稼いでいる。
後は、神崎一人にどれだけ負担をかけることができるかが勝敗を決するだろう。
「で、どっちから行くの?」
桜井が上杉に言うと上杉の血が騒ぐ。
「決めようぜ………」
ジャンケンで勝負をすれば桜井が勝ってしまう。
「それじゃあ、僕が相手だよ!! 神崎くん!!」
そういうと桜井が神崎に勝負を仕掛けた。
「遅い………」
神崎が呟くと桜井は反応することもなく抜き去られてしまう。
「え………?」
その様子に上杉が言う。
「馬鹿!! 簡単に抜かれるな!!」
上杉が構えると『流水の動き』で神崎を止めようとする。
神崎が上杉を崩そうとすれば、上杉が崩れてもそれを利用して態勢を立て直す。
しかし、神崎からすればどうでもいいこと、上杉が反応できない速度で抜き去って行く。
桜井と上杉では戦うことすら許されていない。
最後の砦は『疾風のレジェンズ』である『氷川 翔』だけだ。
神崎がスピードだけで抜き去ろうとすれば、氷川はそれについていくことができた。
「いや、違う………!!」
あの上杉や桜井を一瞬で抜き去ってしまう神崎、しかし、氷川はそれ以上に速かったのだ。
「な、なんてことだ………氷川主将があんなにもすごかっただなんて………!!」
予想以上に速い氷川に、あの神崎が驚愕している。
「さ、斎賀高校まさかの27点め!! 城ヶ崎高校は未だ0点!! ま、まさか、神崎選手でも斎賀高校を倒すことはできないのか!!?」
まさに疾風、しかし、氷川の昔の異名はそんな生ぬるいものではなかった。
「神崎、俺は逃げも隠れもしない。何か誤解し――――」
神崎がいつも後半から出る理由、それはスタミナに問題がある。
城ヶ崎高校には問題が山積みだ。
優秀なコーチもいなければ監督も居ない。
バスケを教える人間も居ない。
それでも、神崎はチームのためにバスケを教えた。
己の練習時間を削り、スタミナ強化も許されず、神崎以外の選手も弱い。
そんな弱いチームが優勝を飾る。
「ふざけるなよ………力をセーブしてただけだ………」
神崎の闘志に火を着けてしまった。
「ちッ………流石、最強だぜ………」
一瞬、上を行く氷川だったが、あの氷川が反応できなかった。
城ヶ崎高校の初得点である2点が、斎賀高校にとって余りにも大きすぎる点数であった。
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