第5話 24秒のプレッシャーと離間の計
バスケの試合はジャンプボールから始まる。
ジャンパーはハーフラインの中央にある円の中に立ち、審判がボールを上に投げればジャンプしてそれを叩く。
叩かれたボールは選手がキャッチしてそのままシュートまで行くことができる。
タイマーが動き出すのはジャンパーがボールに触れた瞬間だ。
「斎賀高校のジャンパーは桜井 隼人くんだ!! 身長は150cm前後、対する城ヶ崎高校のジャンパーは180cmもあります。身長差は30cmです!! これは城ヶ崎高校の先行か!!?」
桜井は小柄だが怪力、ジャンプ力も自分の身長と同等の跳躍力を持っている。
それを知っているのは上杉だけ、上杉は桜井を信じていた。
「な、なんということでしょう!!? 桜井選手のすごい跳躍力に先行は斎賀高校!!? 上杉選手が素早くパスを出せば氷川選手が走る!! 先取点は斎賀高校だ~~~!!」
意表を突く桜井と上杉、先取点を決めて上杉がベンチに居る神崎を指差す。
「お前が出る前に試合を終わらせてやるよ………」
この挑発に実況が盛り上がる。
「何と言う宣戦布告だ~~~!! これはもしかすると神崎選手が出てくれるのか? 我々も神崎選手のプレーが見たいぞ~~~!!!」
観客も一気にヒートアップする。
「うお~~!! 神崎!! 神崎!!」
しかし、神崎は動じない。
試合はまだ始まったばかり、上杉も即座に守りを固める。
斎賀高校は3人しか居ない。
攻撃も守備も人数不足、下がるのは当然だ。
違う。
上杉は神崎から目を反らしたのだ。
「な、なんて『プレッシャー』だ………この俺が睨まれただけで退いたのか!!?」
そう、神崎の異常な存在感に臆したのだ。
「どうやら、本当に奴が出る前に試合を決めねぇ~とな………」
しかし、城ヶ崎高校は攻めてこない。
「ピィーーーー!! 24秒!!」
24秒とは、攻撃側が24秒間、シュートを打ち、ボールがリングに当たらなかった場合、攻める気がないと見做されてボールを取り上げられ、相手側のスローインから試合が再開される。
疑問に思った上杉が氷川に尋ねる。
「これはどういうことだ? 俺達は3人しか居ない。相手は5人だ。人数では相手が優勢、なぜ攻めてこない?」
最もな理由だ。
しかし、攻めない理由はもう一つある。
「それは、『最強のレジェンズ』がいるからさ。下手に攻めて点差が着いてしまうリスクよりも24秒時間を削った方が確実、最強のレジェンズはいつも一人で5人を相手に戦ってきた。だから、余計な得点の変動を避けたいのさ………」
そう、それが城ヶ崎高校の狙い。
「は? そんな消極的な戦法でバスケット選手が名乗れるかってんだよ!!」
あっさりと得点を返す斎賀高校、しかし、城ヶ崎高校はまたもボールキープを始める。
「ぐッ………!!?」
なぜだろうか、『24秒』待つだけで攻撃の『権限』が貰える。
これほど『美味しい話』はないはずだ。
なのになぜか体が重くなる。
『プレッシャー』
何もしてないからこそ『不安』になる。
相手の『術中』、『何』もしてこない『敵』だというのに、なぜか、『不利』を感じ始める。
とても長い24秒だ。
なんとかしなければならない。
そう思って行動をすれば攻撃してこない相手はパスをして安全な場所にボールを移動するだけ、斎賀高校は3人しか居ない。
これほど『守りやすい相手』は居ない。
美味しいのは斎賀高校のはず、しかし、その『価値観』は『逆転』していた。
「ピィーーーー!! 24秒!! オーバータイム!!」
それを見て感心する上杉。
「へー、ちゃんと『チーム』してんじゃん!!」
再び、斎賀高校が得点を決める。
これで6点差、しかし、ここで上杉が仕掛ける。
上杉が謎のラインアップをする。
「おーっと、ここで上杉選手が少し前に出てくる!! しかし、この距離ではパスカットもドリブルカットも狙えない!! 一体、何を考えているんだ~~~!!!?」
理解しているのは、上杉と互角に戦った桜井のみ、氷川と神崎は全く理解していない。
無論、城ヶ崎高校のパスは通る。
当たり前だ。
あの距離からパスカットができるはずがない。
そう、上杉の狙いは『パスカット』でもなく『得点』を取ることでもなかった。
『チーム』の『破壊』だ。
上杉がドリブルカットをすると当然ボールは奪い取るまでいかず、コートの外に出る。
コートの外にボールが出るとボールを出してない方のチームにスローインの権限がもらえる。
最後にボールを触ったのは上杉さ。
上杉がボールを拾ってあげる。
礼儀みたいなもの、城ヶ崎高校の選手は礼を言って上杉からボールを貰おうとする。
だが、上杉は城ヶ崎高校の選手にボールを渡さない。
政府のように無能な人間には何もできない。
そう、無能な人間はいつでも殺されて当然だ。
バスケでも同じ話だ。
「ピィーーー!! 黒、斎賀高校ボール!!」
審判の『誤審』だ。
これには城ヶ崎高校も突然の出来事で状況の把握が追いつかない。
しかし、上杉はそんな彼らに時間を与えない。
ボールを拾いに行ったのは即座にスローインするためだ。
「斎賀高校即座に得点を返す~~~!! 城ヶ崎高校、一体どうしたんだ~~~!!?」
気付いたときにはもう遅い。
常に人の世とは破壊されるものなのだ。
どれだけ己を磨いても、無能な人間がそれを台無しにする。
無能な審判は『誤審』を『指摘』されて逆ギレ、職権乱用、城ヶ崎高校の選手に『テクニカルファール』を言い渡す。
無能に職務を全うする能力も無く、無能は権力でものを言わせる。
無能な審判も自分の判決にケチを付けられてご立腹だ。
正しいのは城ヶ崎高校で審判ではない。
審判と城ヶ崎高校を離間させる。
それが上杉の狙いだったのだ。
「くそ!! あの無能審判め!!」
城ヶ崎高校の選手が不平不満を口にする。
「なんだ城ヶ崎高校の選手は!! マナーの悪い奴らだ!!」
その不満そうな城ヶ崎高校の選手を見てご立腹な無能審判。
両者の関係に亀裂が走る中、更に無能な審判がこんな事を言う。
「俺は全国レベルなんだぞ!! もう許さねぇ!!」
己の肩書を棚に上げて、無能を執行する。
城ヶ崎高校は無能な審判に嫌がらせを受けることになる。
「ピィーーー!! 5秒バイオレーション!!」
スローインは5秒以内にパスを出さなければならない。
しかし、実際は4秒しか経過していない。
普通、審判は6秒まで見てくれる。
しかし、この無能な審判に『公平』という言葉は存在しない。
私利私欲で生き抜いてきた愚か者なのだ。
これには斎賀高校も城ヶ崎高校に同情する。
しかし、勝負は勝負、そして、この無能な審判は勿論、しずれは災いとなるだろう。
そう思う上杉であるが、今は勝つことに集中する。
一人無能が見つかれば、その上には100の無能が存在する。
毛利政権ではない今、クリスタル大会の運営は無論無能ばかりであった。
再び、上杉がドリブルカットをすれば迷いもなく審判が『誤審』を主張する。
「黒!! 斎賀ボール!!」
引き金は上杉の目を盗んだドリブルカットだ。
しかし、それを見抜けないで欲望に任せたまま判決を下す無能な審判が悪い。
脊髄に任せて笛を鳴らし、目の敵にしている城ヶ崎高校に対して不利なジャッジをする。
『破壊のレジェンズ』
その異名だけは『二人』に送られた。
上杉と桜井、無論、破壊力で言うなら、『物理的』な『破壊』は桜井の方が上手だ。
しかし、上杉は『精神的』に相手チームを『破壊』する。
城ヶ崎高校と審判を見事に『離間』させたのだ。
単純にクリスタルトロフィーを破壊したというだけで名付けられた名前ではない。
観客のオタクが男子生徒に言った。
「二人の試合がフリースロー対決になった意味がいずれわかるよ………」
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