第3話 落第勇者、チームで戦闘訓練をする

「さぁ此処がどんな攻撃、衝撃にも耐えられる『次元隔絶室』だよ! 此処でいつも俺は訓練してるんだ」

 

 そう言って矢上先輩に連れられてやって来たのは、『次元隔絶室』とか言う部屋がある建物だった。

 此処では重力負荷の自由切り替えや、部屋の広さを変えたり出来るらしい。

 誰が作ったのか知らないが、相当高度な部屋であることがうかがえる。


「それじゃあ早速始めようか!」


 矢上先輩がそう言うと、グッと体が重くなった。

 なるほど、これが重力負荷か。

 異世界でもあまり経験したことないな。


 因みにどうしてこの様な状態になっているかと言うと、事の発端は俺の一言だった。






「———矢上先輩」

「ん? 何だい?」

「俺はこのチームに入るので、皆さんの強さを知っておきたいのですが」

「なるほどなるほど……たいちょー! どうします?」


 矢上先輩はヘラヘラと笑いながら優奈さんに訊く。

 優奈さんは少しの間考える素振りをすると、


「確かにチーム内での実力の把握は大事ですね。最近はあまり集まって居ませんでしたし。丁度いいのでこれを機に4人の実力を把握しておきましょう」


 ———と言うことがあり、現在俺と矢上先輩が向かい合っていると言うわけだ。


「今の重力は5倍。僕は身体強化系の異能だから問題ないけど、隼人はどうだい?」

「俺も【身体強化】なので、全く問題ありません。と言うか———優奈さん、俺の重力を50倍にして下さい」

「ご、50倍!? そんなに重くしたらペシャンコになっちゃうよ!?」


 俺の言葉に矢上先輩が驚きの声を上げるが、優奈さんは俺の強さを知っているので、特に何か言うことなく50倍にしてくれた。

 

 一気に俺の体が重くなり、立って居られなくなって地面に膝を付く。


「や、やっぱり無茶だって! 止めた方がいいよ!」

「だ、大丈夫ですよ矢上先輩。———【身体強化:Ⅳ】」


 俺は身体強化でギリギリ立ち上がれる程度に体を強化する。

 やはり現在の俺の体は異世界の時の5分の1以下の力しかないらしい。

 異世界に居た時なら【身体強化:II】でも十分立てただろうからな。


 俺は何とか立ち上がると、拳を構える。


「いつでもどうぞ!」

「うわぁ……隼人は異次元じゃん……でも先輩の意地を見せてやろう! かかってきな後輩よ!」


 矢上先輩も同じく拳を構える。

 彼の周りには身体強化の影響か、若干水蒸気が出て居た。

 なるほど……俺の身体強化とは根本的に違いそうだ。

 これは初めて戦う相手だが……面白い!


「なら先手はいただきます———よ!」


 俺はいつもより断然重い体で地面を全力で蹴り、矢上先輩に接近する。

 そして拳を握りしめて振り抜く。


 俺のコンパクトで速度重視のパンチは、矢上先輩に当たる事はなく、最小限の動きで躱されてしまった。

 それだけでなく、矢上先輩は回避した動きのまま俺に蹴りを放つ。


 俺は片手で蹴りをガード。

 しかし思った以上に力があったため、数メートル吹き飛ばされた。


「え、いや速すぎない? 俺、隼人の10分の1しか重力掛かってないよ?」

「先輩も力がありますね! 人間に吹き飛ばされたのは久しぶりです!」


 それこそ異世界での師匠やその他のS級冒険者以来だ。

 矢上先輩は優奈さんのチームにいるだけあって相当な強さだな。

 A級下位程度……はないかもしれないが、その程度の実力だろう。


 体の動きも精錬されており、あのパンチを避けられるとは正直思って居なかった。

 実用的な筋肉を鍛えていると言っていたのは嘘ではなさそうだ。


「いやぁ……正直想定外だぜ。噂は本当の様だなぁ……」

「噂はどんなものか知りませんが、俺はもっと矢上先輩と戦いたいです」


 俺がそう言うと、矢上先輩がニヤリと闘争心をむき出しにして拳を構えたので、俺も同じ様に拳を構える。

 きっと今の俺も同じ様な笑みを浮かべているだろう。


「「———行くぞ!!」」


 俺たちはその瞬間にぶつかり合った。

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る