出生率低下

そうざ

The Birth Rate Drops

 粘度を有した雨が、全面硝子張りの壁面を滴って落ちて行く。

 安楽椅子に腰掛けた妻が、その腕にいだいた我が子に滔々とうとうと声を掛けている。

 夫は灯りも点けず、配信されたばかりの広報に隈なく目を通す。血眼の視線が或る記事の上で止まる。

 ――出生率が更に低下――

 これは、暗いニュースなのだろうか。我が子が誕生した頃の数値は0.53だった。それからまた僅かに下がったから何だと言うのか。0ではない。人類にはまだ希望がある。

 稲光が瞬き、冷えた室内を照らし出す。妻の腕の中で0.53の生命いのちが微かに身震いをする。例えそれが1でなくとも、人間であり、我が子なのだ。

 雷鳴が轟く。粘度を有した雨は降りしきる。

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出生率低下 そうざ @so-za

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