竜の生贄からの成り上がり
鈴木土日
第1話
最初から、少しおかしいとは思った。
「
朝、いつもの様に冒険者ギルドを訪れると、僕は、グレンからそう声を掛けられた。
彼の事を、ここダウノアの町で知らない者は、まずいないだろう。駆け出しといえる僕ですら、その名前は幾度も耳にした。
彼らは、驚異的なスピードで等級を駆け上がったらしく、まさしく飛ぶ鳥を落とす勢いの集団だ。
今、この町を拠点とする冒険者で、彼らより上、即ち、
そんなパーティーを前に、ボクはひどく緊張した。
「ぼ、僕がですか?」
問い返したくなるのも、当然だ。なぜなら、僕の等級は、
同時期に冒険者を始めた人たちは、大半が
グレンは、やや言い難そうにこう切り出した。
「実は、バルキネに潜るつもりなんだ」
「それって、たしか……」
バルキネ洞窟。通称、<竜の穴>。文字通り、竜が棲む洞窟だ。
「安心してくれ、竜と戦うつもりはない」
あくまで目的は、洞窟内の調査だという。
「剣に、手は出すつもりもないさ」
そう言ったのは、パーティーメンバーの一人、回復術師のルース。銀の短髪で、眼鏡を掛けた痩身の彼は、理知的そうなルックスをしている。
彼の言う<剣>とは、洞窟最深部に突き刺さっていると言われる
これまで、いく人もがそれを引き抜こうと試みたらしいが、未だ成功者はいない。途中で諦めたか、さもなければ竜の餌食になったのだろう。
あそこに棲む竜は、
洞窟内で、強力な魔法を用いると、必ず竜が現れるという。
竜に見つからずに探索するには、魔法の使用を控えなければならない。そのためには、回復薬などを大量に持参せねばならず、
ただ、
「失くしちまったんだ。コイツがドジしたせいで」
名指しで非難されたバルドは、むすっとした顔をしている。
褐色の肌の、二メートル近い巨躯の持ち主の彼は、無言でも威圧感があった。
彼らには、現在、新しく購入するほどの手持ちの資金がないという。たしかに、マジックバッグは、かなり高価な品である。
事情は飲み込めた。
けど、なぜ、僕なんだろう?
その疑問は、まだ解消されていなかった。
「あなたの仕事ぶりは、聞いているわ」
そう言ってくれたのは、魔術師のマリンだ。<暁の雷鳴>の紅一点。
ピンク色のボブヘア。瑠璃色の大きな瞳。華奢な体のわりに、大きな胸。直視するのを躊躇うでくらい、綺麗だ。
僕は、伏し目がちになり問い返す。
「だ、誰に、ですか?」
「他の冒険者からよ。とてもマジメで信頼がおけるって」
「いや、けど……」
それでも、数多いる冒険者の中から、僕を選ぶのは不自然だ。
けど、この時の僕は完全に舞い上がっていた。飛ぶ鳥を落とす勢いの冒険者パーティーから声を掛けてもらえて。
報酬も破格で、受けない手はないと思った。
「よろしくね」
マリンのとびきりの笑顔に、僕は撃ち抜かれた。
「よければ、今すぐにでも出発したいんだけど」
グレンに言われ、僕はちょっと驚く。
「え、今からですか?」
「ムリかな?」
「いえ。だいじょうぶです」
僕は、力強く応じた。
約一時間後、僕は、<暁の雷鳴>の四人と共に町を発った。
出発前、町で、大量の
当然、それらの運搬は僕の担当だ。かなりの重量を覚悟していたのだが、思ったほどではなかった。パンパンに膨れたリュック一つぶんである。
「重くない?」
マリンが、そう気遣ってくれる。
「ぜんぜん。これの倍くらい運んだ事もありますから」
「へえ、すごぉーい」
目を丸くするマリン。
思わず、てへへ笑いが出てしまう
辻馬車の客車で、互いに自己紹介し、身の上についても少し話した。
グレンたち四人は、いずれも上流な家柄の出らしい。グレンとマリンにいたっては、子爵家のご子息、ご息女だ。幼少のころから、恵まれた環境の下、剣術などを学び、かつ発現させた【スキル】もそれぞれ優れているのだろう。
でなければ、短期間で
片や、僕は、田舎の貧しい農家に生まれ、そのうえ……。
「
僕の【スキル】について打ち明けると、ルースは思い切り眉根を寄せた。
普通、自らのスキルを、知り合ったばかりの相手に、気易く教えたりはしない。
ただ、僕の場合は問題がなかった。使用方法が、わからないからだ。
概ね、十一、二歳くらいまでに、誰しもが何らかの【スキル】を発現させる。
スキルは、生来の性質や、育った環境により決定される。僕の生まれ育ったような農村では、農業や、牧畜関連のスキルを獲得する子がほとんどだ。
【
僕が発現させたスキルに、村の誰もが首を捻った。聞いた事もないスキルだったからだ。かつて、村で、そんなスキルを得た者は一人もいないという。
つまり、ものすごくレアなスキルという事だ。ただ、レアだからといって有用とは限らない。珍しいけどゴミなスキルは、いくらでもある。
「初耳だなあ」
スキルに精通しているというルースでも、聞いた事すらないらしい。もし、知っていれば、使用方法のヒントが得られると期待したのだが、あてが外れた。
グレンとマリンも、首を捻っている。
バルドは、あまり興味のなさそうな顔をしていた。
やはり、【
せめて、農業系のスキルでも発現してくれていれば、村での仕事にありつけたはず。
十五の誕生日を迎えた僕には、村を出る以外に選択肢がなかった。
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