第5話 娘の結婚前夜

 明日、いよいよ結婚式を挙げる娘は、最後の夜を過ごす今夜、父親、母親にかける言葉を考えていた。


 娘は、その日、仕事を休んで準備をしていたが、ふと時計を見ると夕方の五時になっていた。


 父親は、娘の結婚式の前日もいつも通り職場にいる。


《今夜は、娘と暮らすのも最後の夜になるな》


 そんなことを考えると大きくため息をついた。


 壁に掛かった時計を見上げるともう夕方五時の退勤時間になっていた。


 母親は、スーパーで買い物に手間取っていた。


 最後の夕食だから、豪華に行くか、それとも、いつも通りの質素な夕食にするか迷っていたが、急くようにして時計を見ると夕方五時になっていた。


 三人がそろって夕食を終えると、もう八時を過ぎた。


 娘は、父親と母親を居間に呼んだ。


 両親は、いつもと違う雰囲気に、戸惑いを感じつつソファに腰掛けると、娘が正面に座るように言った。


「今まで二十五年間、お世話になりました。育ててくれてありがとう」


 父親は言いました。


「幸せになってな」


 母親はただただ涙を流しました。


 とまあ、いまどき、こんな話ってあるかなあ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る