第26話 湯上りの会話

「……ここは?」


 次に気が付いた時、俺は心地良い風を感じた。


「私の部屋だよ」


 レイチェルの声がする。


 頭上からだ。


「え? ええ!?」


 俺はどうやらレイチェルに膝枕をされているらしい。

 それと風はレイチェルが魔法で発生させていた。


 手は……繋いでいる。


 俺はそれを確認して、体を起こした。


「大丈夫?」


「まだ少しボーっとするけど、大丈夫。それにしても女の子に膝枕をされたのなんて初めてだ」


「私も誰かを膝枕をしたのは初めて」


 レイチェルはなぜか嬉しそうだった。


「でも、どうして? 手を握っていれば、ここまで密着する必要は無かったでしょ?」


「そういう気分だった、かな?」


 レイチェルは恥ずかしそうに言う。


「そ、それより、さっき、ブレッドから『フリード様が帰宅されました。すでにレリアーナ様と会う準備が出来ております』って、言われたの。……だからね、一緒に来てもらっていい?」


「君と手を離すわけにはいかないだろ。大丈夫だよ」


「本当に大丈夫? もう少しゆっくりしても良いよ」


 レイチェルは俺を気遣ってくれたが、王族を待たせるなんて、恐れ多いことは出来ない。


 俺は立ち上がる。

 

「…………あれ?」


 俺はあることを思い出した。

 そして、血の気がサーッと引く。


「……なぁ、レイチェル、俺って大浴場で倒れたから裸だったよね?」


 今は服を着ていた。


 レイチェルがビクンとなる。


「だ、大丈夫! アレックスの、アレックスが、アレックスしていた、なんてことを私は気にしないから!」


 レイチェルは顔を赤くした。


 ……って、アレックスを連呼するな!

 だから、意味が分からない!


 感情に任せて、突っ込みを入れてしまいそうだったので、俺は深呼吸をする。


「……いや、さすがにあの状況で裸を見られた、って怒るつもりは無いよ。むしろ、色々と面倒かけてごめん、と思っている」


 俺が言うとレイチェルは笑った。


「そんなこと、私がアレックスにしてもらったことを考えたら、些細なことだよ。それにのを初めて見れたから、ありがとう」


「…………」


 あのさ……「ありがとう」じゃないよ!?

 でも、今回は俺が倒れたのが原因だし、不問にするしかないか…………


「まぁ、君に見られてところで今更、って感じがするかな。他の人に見られていなければ、良いか」


 俺が恥ずかしさを隠す為にそう言うと

「あ……うん……そうだね」

 レイチェルは視線を逸らす。


 嫌な予感がした。


「……レイチェル、他の誰かに見られていなかったよね?」


「う、うん、誰にも見られていないよ! アレックスの服は私が頑張って、着せたの! 誰にも手伝ってもらわなかったよ!」


 レイチェルは力強く宣言する。

 それに手はぎゅ~~~と痛いほど握っていた。


「そっか……」


「そう!」


「……クロエさん」


「!!?」


 言った瞬間にレイチェルは身体をビクンとさせる。


 レイチェルが何も言わなくても、それが答えだった。


「クロエさんにも見られたんだ……」


 大浴場でを勃たせた状態のまま気を失い、女の子二人に服を着せてもらったと知って、とても恥ずかしくなった。

 次に会った時、どんな顔で話せばいいんだ……


「だ、だって、気を失ったアレックスに片手で服を着せるのは難しかったんだもん!だ、大丈夫だよ! アレックスのことをクロエは褒めてたよ!」


「褒めてた?」


 また嫌な予感がした。


「だって、アレックスの、アレックスが、アレックスしているのを見て『ご立派ですね。これは避妊具を大きいサイズにしないといけません』って、褒めてたよ!」


「そんな風に褒められていたなら、聞きたくなかったよ!」


 最悪だ。

 クロエさんが真顔で俺の息子をまじまじと見ているのが、容易に想像できてしまう。


「…………ところでアレックス、あんなものを本当に挿れられるの?」


「…………」


 レイチェルはとんでもない質問をしてきた。


「あっ、『あんなもの」なんて言ってごめんなさい。分からなかったよね。アレックスのアレックスのことだよ」と言いながら、レイチェルの視線が俺の股間に向く。


 別に俺は分からなかったから、沈黙したわけじゃないよ!


「…………さてとフリード様のところへ行こうか」


 俺は会話が終わってくれ、という願いを込める。


 でも、そんなものは無駄だった。


「ちょっと、待って! 答えてよ。アレックスのそれ、本当に入るの?」


 単語を言うのは恥ずかしいらしく、レイチェルは俺の股間を指差した。


「俺に聞かないでくれ。ど、童貞なんだからさ!」


 宣言してから悲しくなった。


「でもさ、他の男性のは見たことあるでしょ? 比べてどうなの? 少なくともクロエは大きいって言っていたよ」


 レイチェルはズイッと顔を近づけた。


「知らないよ! だってさ、あの状態のを比べることはないって!」


「あの状態? ああ、えっと、勃……抜剣した状態のこと?」


 レイチェルは直接的な表現を言いかけて、途中で表現を変えた。


 にしても抜剣って……


「それは君の好きな小説に出て来た表現なのかな? よく咄嗟に単語が出てくるね」


 俺は言うとレイチェルは恥ずかしそうだった。


「だ、だって、子供の頃から小説を読んでいたから…………あっ」


 俺はまだ知らなかった情報を知ってしまった。


「子供の頃から官能小説を読んでいたせいで、こんな風になっちゃったんだね」


「こんな風になっちゃった、は流石に酷くない!?」


 レイチェルは抗議するが、俺に発言を撤回するつもりは無かった。


「まったく……さてとそろそろ行こうか」


「だから、話を逸らさないで。アレックスのが入るか、って、聞いているの」


 今度こそ会話が終われ、と願ったが駄目だった。


「だから知らないって! それにさ、俺じゃなくて自分で確かめたらどうだい?」


 あと少しで「挿れられるのは君だろう」と言いそうになってしまった。

 さすがにそれは一線を越えた発言な気がして、思い留まる。


 まぁ、レイチェルは簡単に一線を越える発言をしているけどさ…………


「えっ、私に野菜で処女を喪失しろ、っていうの?」


 ほらね。

 飛躍してとんでもないことを言ったよ。


「…………さてと行こうか」


「待って、完全に無視をしないでよ!? 今のは突っ込み待ちだったんだよ。あっ、突っ込むっていうのは性的な意味じゃないよ。……って、そんなに手を引っ張らないでよ!」


 今度は完全に対話を拒否する。


 俺はレイチェルを引っ張って、部屋を出た。



「随分と楽しそうですね」

「…………」



 部屋の外ではクロエさんが待機していた。


「…………」


 クロエさんが俺の股間をジッと見る。


「童貞とは思えないほど、ご立派なものをお持ちですね」


「やめてください!」と言う俺の顔は多分、赤くなっていると思う。



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