第30話 明日の予定

「それにしてもレリアーナにこうやって、気軽に会話をする相手が出来たのだな。アレックス君、重ねてお礼を言わせてくれ」


「そんなに何度も感謝をされると恐れ多いです」


「どうだろう。その流れで、ヤッてしまっても構わないぞ?」


「……」


 娘の前でなんてことを言うんだよ!


 折角、良い感じの話になりそうだったのに……

 やっぱり、親娘だな。


「娘は性的なことにかなり興味を持っていなかったかね?」


「お父様!?」


「ええ、まぁ。理由を付けては俺の裸を見ようとしてきました」


「アレックス!?」


「そうだろう。レリアーナは子供の頃から性的なことに興味を持っていた。何しろ十歳の時には私の書斎へ入って、私の執筆した本を読みふけっていたくらいだ」


「お、お父様! それは言わないでください! …………アレックスはなんで笑っているの!?」


「君が普通の小説をすっ飛ばして官能小説を読むようになったか理由が分かって、すっきりしたんだよ。なるほどね、フリード様の執筆した小説で目覚めちゃったのか。で、こんな面白残念美少女に…………」


「アレックス、もう一回、ぎゅ~~、をされたい?」


 レイチェルは顔を赤くしながら、睨みつけた。


「ごめんごめん、許して」


「もう……そういえば、お父様、私が家を出る前に国王陛下と揉めていた件はどうなりましたか?」


 唐突にレイチェルが言う。

 それは俺が聞いてもいい内容なのか?

 王族の権力闘争というやつか?


 ゴシユア王国のフェルナンド国王陛下と王弟であるフリード様の仲は良好、と世間では言われているが、違うのだろうか?


「どうにか解決したよ。まったく、『国王の妃を私が寝取る』は傑作だったのにな。売れ行きも順調で、応援の手紙も山のように来ていたのに……」


 フリード様は残念そうに言う。


 …………何だか、碌でもないことの気がしてきた。


「アレックス君、聞いてくれないか。兄上は私が執筆した小説のことに気が付き、出版を止めなければ、辺境に追放すると言ってきたんだ。だから、仕方なく発禁にした」


「残念です。あの小説は本当に面白かったのに…………。あっ、アレックス、今話している小説の内容はね、王弟が国王様の若い妃を寝取るんだよ」


「それはタイトルから分かるよ。…………ん? 王弟!?」


 俺はフリード様を見てしまった。


「おいおい、さすがに私が無類の女好きだからって兄上の妃には手を出していないぞ」


 俺はそれを聞いて安心した。

 さすがにそこまではしていないか。


「まぁ、兄上が娶ったばかりの美しい妃を見て、私が一晩一緒にいたいと言ったら、『叶えてやってもいいが、次の日には処刑台へ送るぞ』と言われたがな」


 訂正、やっぱり、この人、ヤバいかも。


「でも発禁処分ってことは在庫は全て処分してしまったのですか?」とレイチェル。


「倉に残っているはずだ。アレックス君、一冊、持っていくかい? 自分で言うのもあれだが、傑作だぞ。王弟の心理描写がとてもリアルに表現できていたと思う」


 王弟あなたがそれを言ったら、駄目な気がする。


「遠慮します」


 俺は即答で断った。


 そんな発禁書籍を持ちたくない。

 どこかでバレて、厄介なことになるのは嫌だ。


「そうか、残念だ」とフリード様は落ち込む。


「あの、フリード様、そろそろ、レイチェルの呪いの話をしませんか?」


 少し失礼かと思ったが、この親娘のペースに乗っていたら、延々と下ネタに付き合わされる気がした。


「そうだな」


 フリード様は真面目な表情になる。


「レリアーナが受けた呪いはすぐに調べる手配をしよう。呪いに関する熟練者を数名屋敷に招き、解析がしたい。ブレッド、すぐに教会へ連絡をしてくれ」


「かしこまりました」と言い、ブレッドさんが部屋の外へ出て行った。


 どうか、ジェーシの出した結論と違うものを出て欲しい。



 ブレッドさんと入れ違いで、紅茶とお菓子を持って、クロエさんが戻って来る。


「旅の疲れもあるだろうし、レリアーナを救ってもらったのだ。相応しい謝礼をせねば、なるまい。まずは食事だ。特別なものは用意出来ないが、出来る限りのもてなしはしよう。準備が出来るまでは菓子をつまんでいてくれ」


 フリード様が言う。


 クロエさんはカップに紅茶を注いでくれた。


「どうぞ」


「ありがとうございます。いただきます」と言い、俺は紅茶に口を付けた。


 クロエさんの淹れてくれた紅茶は今までで一番美味しかった。

 茶葉が上質なだけではなく、クロエさんの淹れる技術も高い。


 お菓子を美味しかった。


 でも、この後、食事があると考えると加減をしないといけないな。


 などと考える俺の隣でレイチェルがおいしそうに次々とお菓子を食べて、紅茶を飲む。


「クロエの紅茶がやっぱり一番おいしい! それにこのお菓子もクロエの手作りでしょ?」


「はい、こうして、またお嬢様に紅茶を飲んで頂くことが出来て、嬉しく思います」


 クロエさんは微かに笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る