第17話 ジャイアントオーク戦

 正面に立つとジャイアントオークの大きさに圧倒される。


 情けない話、足が震えた。


 駄目だ……


 これじゃ、レイチェルに動きを合わせるどころか、一歩も動けない。


 それに比べて、レイチェルは平然としている。


「アレックス……?」


 繋いでいる手が震えていることにレイチェルが気付いたらしい。


「情けないと思ったかい?」と言いながら、俺は俯いてしまった。


「思わないよ。だってアレックスはこうやって戦ったこと、無いでしょ?」


 庇ってくれたのか、素直な言葉なのかは分からないけど、情けないことには違いない。


「でも、その足じゃ転びそうだね」


 レイチェルは震える足を見て言う。


「ごめん……」


 謝っている場合じゃないのは分かっている。

 この情けなく震える足をどうにかしないと…………


「こういうのはどう?」


 レイチェルはいきなり俺の自由になっている左手を掴んだ。


「な、ななっ!?」


 そして、自分の胸に俺の手を持っていく。


 その感触はとても柔らかい……って、感想を思っている場合じゃない!


「何のつもりだい!?」


「びっくりすることをすれば、アレックスの恐怖とか、緊張が緩和されるかな、って思ったの」


 レイチェルは少しだけ恥ずかしそうだった。


「なんて短絡的で、単純な行動なんだ…………」


「でも、足の震えは止まったね」


「えっ? あ……」


 どうやら俺は単純らしい。


「うん、私、アレックスをちゃんと立たせることが出来たよ」


「…………」


 多分、深い意味はないけど、普段のレイチェルの言動を思うと「立たせる」が別の意味に聞こえてしまう、と連想する時点で俺も大分、毒されているのかな?


「ヴォオオオ!」


 ジャイアントオークが咆哮し、襲い掛かって来た。


 レイチェルが俺というハンデを背負って、どう戦うのかと思っていたら、

「アレックス、飛ぶよ」

と宣言して、ジャンプした。


 レイチェルが引っ張ってくれたのもあるが、俺は自分の能力では出来ないほど高く飛躍する。


「これがレイチェルの力か……」


「アレックス、絶対に手を離しちゃ駄目だよ」


「分かってる」


 というか、すでにレイチェルが『接着魔法』を使っているので、手が離れることは無い。

 それでも万が一に備えて、俺は手に力を入れた。


「すぐに終わらせるね……」


 レイチェルは剣を抜く。

 声がいつもより低い。。

 雰囲気も普段とは全く違う。

 

 こういうものを〝殺気〟と表現するのだろうか?

 近くにいる俺まで気圧されそうだ。

 

「ヴォオオオ!」


 再びジャイアントオークが叫んだ。

 そして、丸太のような腕を振り回し、俺たちを攻撃しようとする。


 空中で身動きが取れない。

 レイチェルはどうするつもりなんだ?

 今の彼女はかなりの軽装だ。


 オークの一撃を受ければ、無事では済まないだろう。

 少なくとも俺は死ぬ。


 そう思っているとレイチェルが剣を振った。


「えっ?」


 レイチェルは一振りで丸太のようなオークの腕を両断する。


「グァアアアア!」


 ジャイアントオークは怯んだ。

 レイチェルはその隙を見逃さない。


 次の一振りでジャイアントオークの首を斬り飛ばす。


 一瞬の出来事だった。


「凄い……これが勇者の力なのか……」


 普通なら熟練の冒険者が複数人で討伐するジャイアントオークをたった一人で、しかも俺というハンデを背負いながら倒してしまった。


「あっ!」


「アレックス!?」


 感心し、気が緩んだ俺は空中でバランスを崩してしまった。


「えっ、あっ、アレックス、このままだと着地出来ない!」


 レイチェルの口調がいつも通りになる。


 俺はどうにか着地をしないといけない、思って、体勢を立て直そうとする。


 しかし、慌てるほど視界がグルグル回って、地面が迫っていた。


「わっ!?」

「きゃっ!?」


 俺たちは地面に激突する。

 

 でも、幸いなことに畑で地面が柔らかかったので怪我は無さそうだった。


 それにしても俺は背中から落ちたはずなのに、なんで視界が真っ暗なんだ?


「レイチェル、ごめん、大丈夫だった」…………と俺は言ったつもりだった。


 しかし、俺はうまく発声を出来ず、含み声になってしまった。


 それに息も酷く苦しい。


「ひゃうん!」


 レイチェルの嬌声が聞こえる。


 真っ暗な視界。

 言葉を発することの出来ない口。

 そして、息苦しさ。


 

 ――嫌な予感がした。



 直後、俺の視界を遮っていた原因が俺の頭部から退いて、視界が回復する。

 息も無理なく、出来るようになった。


 

 ――で、レイチェルが顔を真っ赤にし、俺の胸部で馬乗りになっていた。


 

 何があったか理解するのは簡単だった。


「アレックスが私の股間に顔を埋めた……小説みたいなことをされた」


「言葉にしないでくれ! これは事故だったんだ!」


 というか、早く退いてくれ!

 みんなが戻って来たら、一体どうするつもりなんだ!?

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