第12話 食事と買い物

「念の為、着てみなくても良かったのかい?」


 俺はレイチェルに確認する。


「うん、大丈夫。ほら、やっぱり怖いし……」


 レイチェルは俺と繋いでいる手にギュッと力を入れた。

 今は『接着の魔法』を使っているので離れることは無い。


 でも、服を着替えている最中は何度か触れている場所を変えた。

 そんなことを何度もしたくないのだろう。


 俺も服を買う。

 俺の方は普段着ているような服を探し、サイズだけ聞いて購入した。


「さてと服は買ったし、次は食事かな。楽しみ」


 レイチェルは笑う。

 それを見て、俺はちょっと不機嫌になってしまった。


「急にどうしたの?」


「いや、何でもないよ」


「それ、何かある時のやつでしょ」


 レイチェルが俺の顔を覗き込む。


「…………いやさ、料理に少しだけど自信があったんだよ」


 野宿でもそれなりに旨いモノは作っていたと自負していた。


 でも、やっぱりちゃんとした店の方がレイチェルも良いのだろうか、とくだらない対抗心を抱いてしまう。


 俺が不機嫌になった理由を理解し、レイチェルはクスリと笑う。


「別にアレックスの料理の味に不満はないよ。不満なのは量の方、旅の最中はお腹いっぱい食べらないから」


「でも君はいつもおかわりをするじゃないか」


 毎食、俺の二倍は食べている気がする。

 まぁ、美味しそうに食べてくれるからこっちとしても作り甲斐があるんだけどさ。


「私があれくらいで満腹まで食べていると思わないでほしいな」


 レイチェルは「私の真の力を見せてあげる」とでも言いたげに笑った。




 とある食事処にて。


「この肉料理と魚料理、それからスープも追加で注文します」


「は、はい」と返事をする店員さんは驚いていた。


 まだ食うのかよ。


 すでに何度目のおかわりか分からない。

 何度も運ばれてきた料理の皿が空になって、回収されていく。


 確かにこれだけ食べるなら野宿での料理の量には不満があったのだろう。


 ちなみに俺はすでに食事を終えているので、レイチェルの太腿に手を当てていた。

 念の為、『接着の魔法』は使っている。


 それにしてもこのくびれたお腹のどこにあの量の食事が入っているんだ?


 どこかの異空間にでも繋がっているのではないとか思ってしまった。


「視線を感じるなぁ」とレイチェルは言う。


「気のせいだよ」と言うが、バレているだろう。


 でも、レイチェルが俺を追及することは無かった。

 運ばれてきた料理をまた食べ始める。


「ふぅ、食べた…………」


 レイチェルはテーブルの上の皿を全て空にし、やっと手を止めた。


 限界まで食べたのかと思ったが、

「この後もやることがあるから八割くらいに抑えておかないとだよね」

などと言う。


 確かにレイチェルが全力で食事をしたら、一食で旅の備蓄が無くなってしまうかもしれない。


「さて、次は馬だよね。今更だけどこの街で手に入るかな?」


「心配しなくても大丈夫だよ。君が食事に夢中だった時に店の人に聞いてみた。南の区画で馬が手に入るらしい」


「手際が良いね。さてとじゃあ、向かおうかな。夕暮れまでには街を出たいし」


「…………そうだね」


 何となくだが、レイチェルがこの街に滞在するつもりがないことは分かっていた。


 今は『接着の魔法』で手を繋いでいるが、寝ている時は布で縛っているだけだ。

 もし、布が緩んで手を放してしまったら、大惨事になる。


 街で魔王の呪いを発動させるわけにはいかない。


 だから俺たちは野宿をするしかない。


 俺たちは会計を済ませて、南部の区画を目指した。


 

 南部区画へ到着するとさっそく馬を取り扱っている店を見つける。


「二人で乗れる馬ですか?」


 店主は俺たちの提示した条件に対して、難しい顔をした。


 少しの間なら大抵の馬で二人乗りは可能だろう。


 しかし、旅の間、ずっと二人で行動しなければならないので、それを考えたら、強い馬でないといけない。


「正直なところ、センドまでは遠い。一頭の馬を二人で乗って移動するのは難しいでしょう。馬が潰れてしまいます。二頭では駄目ですか?」


「すいません、俺が馬に乗れないんですよ」


 さすがに士官学校で乗馬くらいはやったことがあるが、言い訳としてはこう言うしかなかった。


 店の店主はまた難しい顔をする。


 しかし、何かを思いつき、途端に明るい顔になった。


「そうだ、お二人さん、お金に余裕があるなら馬車を購入したらどうですか?」


「馬車ですか?」


 なるほど、そっちの方が良いかもしれない。


「馬車を引ける馬を二頭、ここで購入して頂ければ、馬車を扱っている私の友人を紹介します。私が仲介しますから、少しはお安くなると思いますよ」


 店主はちゃっかりとした提案をしてきた。


「どうする?」と俺はレイチェルに尋ねる。


 レイチェルは即答で「それが良いと思う」と言った。


「決まりですね!」


 店の店主は大きな契約が出来て満足そうだった。

 すぐに行動し、夕方には馬と馬車、馬具の一式を揃えてくれた。


「馬車の中には馬の餌になる干し草を入れてあります。おまけだと思ってください」


 それがありがたい。


 俺たちはやっと行動手段を手に入れた。

 さてとまずは予定通りに俺の友人、ジェーシに会う為、レーテ村へ向かおうか。

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