02
……なぜか。それは、ハンクがすっかりべろべろに酔い潰れて気持ち良さそうに寝息を立てているからだ。
「イケメンなのに訳ありかぁ…。ハンクさん、もう起きてくださいな。近くまで送りますから、ほら足元しっかり…」
厨房にいる両親には「酔いつぶれた客を送ってくる」と伝えて、カーティアは糸の切れた凧のようにフラフラ覚束ないハンクを支えて夜道をゆく。
酔いつぶれの戯言でしきりに「エマ…」と呼ぶのが少し可哀想で、カーティアはハンクの想い人に苦い感情を覚えながらハンクの案内で貧民窟の
「着きましたよハンクさん、はい靴ぬいで…」
ほよほよと今にも倒れそうなハンクをベッドに座らせて靴を脱がすと、脱力した身体は仰向けに倒れた。
酒場で働く身だ。これよりもっと非道い酔っぱらいの相手だって経験しているカーティアにとって、ハンクの酔いっぷりはまだかわいい方だった。
「エマ……行かないでくれ……」
「こらこら、私はエマさんじゃないですって…」
酔っぱらいとはいえど存外に強い腕に手首を掴まれ、カーティアは目を瞠る。
行かないでくれ…と尚もしきりにねだる戯言がジン…と頭の芯…理性を痺らせる。
いつもなら放置する酔っぱらいの戯言なのに、何故か今夜ばかりは放っておけなくて、腕を引かれるままカーティアはベッドに雪崩れ込んだ。
…………………………………………………………………………その翌朝。
ゴリゴリと削るような頭痛と共に目を覚ましたハンクは一糸纏わぬ自身の格好、そして傍らで眠っている一糸纏わぬ美女の寝姿に思わず叫びそうになった。
………………間………………。
「すまない!!本っ当に、済まなかった。おまけに
「気になさらないで。寂しい時は、誰にだってありますから」
(もちろん服を着た)カーティアは、テーブルを挟んでしっかり着衣で立つハンクからの誠実すぎる謝罪を受けて瞳を潤ませる。
「だが…」
(俺は、エマに会いたい。会って、しっかり謝らなくては…)
へどもど混乱していると、ふいに白くて柔らかな腕がハンクの首に回される。
「私は好きですよ、真面目で誠実なハンクさんのこと…」
ギョッと目を瞠ると、頬染めたカーティアがうっそりと目を細めて唇を寄せてくるところだった。
「すまない。こればかりはどうにも譲れないのだ…」
だがハンクは、どんなに優しくされてもエマを諦めきれない自身の未練を悟ってカーティアをやんわりと拒んだ。
「ハンク、さん…。そうですね、明らかに“未練あります”って感じしますもん。あはは…冗談なんで、本気にしないでくださいね」
健気に笑って背中を向け、
「待ってろエマ、今いく…」
戻らない使い魔を気に病んで過ごすより、直にサナムを訪ねた方が断然有意義だとようやくケジメが着いたハンクは翌日すぐに上司に休暇届を提出し、受理を待たずにサナムへ向けて旅立った。
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