クラス転移でもハブられた僕の元に『音無たま』があらわれた!▽油断している▽~勝ちに拘る割に全力で甘えてくる白黒つけたがりの灰猫、今日も猫なで声で「クッ殺」と呟く。……慣れない。

@masanorikun

0歩 たまの日常と、二歩の懊悩

吾輩は猫である。名前は音無たまだ。

実は今すごく追い詰められている。絶体絶命と言っていい。猫の手も借りたい状況とはこのようなことを言うのだろう。だから力を借りることにする――。

「にゃぁ~にゃ~にゃぁあああ」(血約に縛られし縁結びし盟友よ。求めし時なり。喰らえ我が魔力を、血肉を、魂を、全てを貪れ。そして汝のすべてを捧げよ! 召喚『主』!)


鳴き声を全力で吐き出すと同時に暗闇に一条の光が射し込んだ。

――これは『召喚の儀式』。(呪文は適当だ)

何かと世話焼きな『主』はこれを合図に一瞬で目の前に駆けつけてくれるのだ。


加湿器が轟々と白煙を上げ、床下から暖気が立ち昇り始める。

少しディレイでLEDライトが一斉に輝きを放ち、遮光率高めのカーテンに遮られて薄暗かった部屋が一気に全照モードに切り替わる。そして家電類はフル稼働状態。

――魔改造されたアレ〇サが応じたのだ我が輩の鳴き声に。


「にゃごおおおお」(お迎えの準備は整った。目覚めの時は近い。)


最近、非日常なファンタジーを味わう機会が多かったから今ではすっかりこんなお遊びが癖になってしまった。それに自然な目覚めなんて待ちきれなかった。時間は有限なのだ。

登校時間が差し迫っているし堪能する時間が圧倒的に足りない。

愛が足りないから今すぐに補給せねば――と。

だから『主』をこちらから召喚することにしたのだ。


「おはよう『タマ』、朝が早いね」

「なぁああ~」(おはようございます、愛しの主)


こんな朝のやり取りが『タマ』も『たま』にもたまらない。当初は『タマ』の暴走だけだったけど、もう『たま』にも止められなくなった。……私の全てが『主』に首ったけだ。


「にゃぁあ」(私はあなたに夢中です)


ねこ語がわからない『主』だから恥ずかしいことも口にできる。

ねこ姿だから気兼ねなく胸に飛び込んでいける。

これもイケメンっぽいけどそうじゃない甘やかしが過ぎる『主』がいけないのよ。


てしっ。ぺしぺし。


「にゃっ、にゃにゃ。にゃああ」(ここ、ここここ。毛くずがついてますよ)

「おっと。今日も毛並みが美しいね、惚れ惚れするよ」

「なぁあああ……」(また、お世辞ばっかり。まだらなぶち猫には過分な評価ですよ……)

「本当の事だよ。これが眼福ってやつかな。綺麗な琥珀色の瞳も素敵すぎて見つめられるだけで多幸感に襲われちゃうよ、参ったな」


私に降り注ぐ美辞麗句の朝シャンがまた私をダメにする。

この慣れきった手つきもイケナイ。

こんなにゴツゴツした大きな手なのに優しすぎる。


「にゃぁ……」(『タマ』はとろけそうです)

は、反則すぎる。撫でられるとついつい声が出てしまう。


「とろけてるねぇ……」

「にゃ、にゃあ?」(あの、言葉、わかってませんよね?)

「ああ、言葉がわからないのが惜しいなぁ」

「にゃ?」(本当に?)

「本当だよ。俺が君に噓を吐くはずがないだろ?」

「にゃぁ」(なら身の潔白を証明してください)

「それは悪魔の証明のようだね。儘ならないけど……目に見えない気持ちだから言葉にして証明しなくちゃいけないね。行動で示す方が好みかな? 君が満足するまで付き合うよ」

「……にゃにゃ?」(……本当にわかってないよね?)

「う~ん、対価は何にしようかな。一度で全部貪るのはちょっと勿体なくて……。逆に俺の全てを捧げるからとりあえず朝食を貪ることにしようか」

「にゃ!?」(引用された!?)

「朝ごはん食べ終わったら、俺も味わってくれるかな? 俺が君を愛してるってことを全力で証明しないといけないんだ。大仕事だよ。今日がお休みでよかった。あ、土曜ってこと忘れてたから朝が早いのかな?」

「にゃ、にゃ、にゃにゃ!」(愛してるって、愛してるって、愛してるって言われちゃった!)


◇◇◇


最近、我が家にお迎えした拾い猫。その正体はクラスメイトの音無たまさんだ。

虫干ししていたスキルスクロールで【変身】を身に着けて以降、毎朝どこからともなくベッドに潜り込んでくるようになった。そして登校時間になると去っていく。


最近は魔力量が増えたからか、変身時間が延びているのだろう。

昨日はお泊まりだった。


家の人は心配しないのだろうかと彼女の家庭環境が気になって眠れない、このままじゃいけない気がする。目を瞑っていても一睡もできない日が続く。

――それが最近もっぱらの悩み事だ。


ちなみに俺は【異世界言語理解】というスキルを授かっている。

地球のねこ語はさっぱりわからないが、それが異世界由来の能力ならば……困ったことに彼女の懸念通りである。

鳴き声で話されているから、全て日本語の同時通訳で理解できてしまうのだ。


一方的に悶絶させられるのは割に合わないから、彼女の良いところを褒めたりしている。

それとなく『わかっている』ことを伝えるついでだ……なかなか伝わらないけれど。

――それは最近の些細な悩み事だ。


そう、最近。こんな非日常な光景は、あの日クラス転移のあった学園祭の早朝から始まった。

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