第38話  神剣アルティナ

 ……ぐっ……まずい。押されている。


 言い訳のように聞こえるかもしれないが、一応、言わせてほしい。

 私の肉体は十五歳の少年のものなのだ。一応、肉体は最適化、最効率化されているとは言え、結局は、十五歳の少年でしかない。

 十五歳の少年の中では理論上、最高の筋肉、体というだけ。

 筋肉に関して詳しく言うと、その性質は『剛』ではなく『柔』だから、見た目の筋肉量は少ない。

 その分凝縮されているのだが、追及したのはしなやかさ。パワーで押し切るタイプではないのだ。


 ――だが所詮、成長途中。最高ではない。


 これでも、全身の筋肉を総動員して攻撃を受け流している。

 しかしこの剣は、私が創造クリエイトしたものだ。

 もちろん、核にライアル鉱石をふんだんに使っているため、そこらのなまくらよりも鋭く、硬く、私に合っている。


 最も鋭く、硬く、私に合っているのはこの、アルティナ付き……憑きの剣だ。

 紅い刀身が派手だがな。かっこいい。


 私はブレスレットからアルティナ・ソードを取り出す。

 それと同時に、創造クリエイトした剣を消す。核のライアル鉱石は手首に戻す。


 ディヴィアルの爪が私の横を通り、地面を切り裂く。

 入れ違いに、私は剣を振り下ろす。


 剣は紅い軌跡を描き、ディヴィアルの漆黒の左手とぶつかり……そのまま切り裂く。

 ディヴィアルの中指から小指の三本の指が切断された。


「な!? まじか……」


 ディヴィアルは、確かに〈鉄爪アイアン・クロー〉を発動させていた。

 それを切り裂けたのは……シンプルだ。この剣が強すぎるのだ。


 この剣に宿っているのはアルティナ……人の魂だ。

 この五年近くで、私とアルティナのリンク深度が深くなり、私の強さとアルティナの強さがニアリーイコールで結ばれるようになった。

  馬鹿にもわかるように一言で言えば……私が強ければこの剣も強くなる、ということだ。


「その剣……精霊が宿ってるんかいな!? 精霊……いや、違う? なんやおかしいわぁ」


 私は質問に答えず、代わりに剣を三度振るった。

 その際に生じた風で、地面に切れ込みが走る。


 何度見ても、凄まじい切れ味だ。

 こんなだからあまり使ってこなかったのだ。剣風だけで人が斬れてしまうから。

 私も加減を覚えていないしな。


「ヒトの魂が宿ってんのかいな。…………神剣の域にまで達しとるんかぁ」


 神剣……か。

 確かに一度、すれ違った聖職者らしき人に呼び止められて『聖なる気配がする』とか『神の気配がする』と言われたことがある。

 アブナイ宗教の勧誘かと思い、〈転移テレポーテーション〉で逃げたが……本当だったのか。

 まあ、他人を騙そうと画策する波長も僅かに見えたから、勧誘の意志も少しはあっただろうが……聖職者なら当然か。


 しかし、神ねぇ……。

 あれか。『付喪神』というやつか。


「……まあええ。そんなんでやられるわしでないわ!」


 ディヴィアルは地面を蹴り、私の前でかかとを振り下ろした。

 ふむ、砂煙で視界を遮る戦法か。

 しかし、私の前には何も変わらない。


 上級の魔法の仮面を着けているのだ。

 眼の穴が守られていないとでも思ったのか?

 例え視界が遮られようとも、仮面の〈生命探知ディテクト・ライフ〉で常にディヴィアルの姿は見えている。

 悪魔とはいえ、生き物だ。まあ、生き物でなかった場合は〈魔眼マジック・アイ〉でディヴィアルの魔力を追えばいい。


 まあ、仮面に頼らずとも、ディヴィアルの波長を追えば早いんだけどな?

 砂煙に魔力が含まれていたら、仮面の魔法に頼らざるを得ない。


 ふむ……。後ろか。


 背後から振り下ろされる、ディヴィアルの右手。

 私はそれを屈んで避け、体を回転させ、剣を振るう。


 ディヴィアルは翼を広げ、後方に飛んで避けた。


 素早しさだけはある奴だ。

 しかし、頑丈ではないようだ。封印から解かれた直後だからなのか?


 封印から解かれた直後は体が鈍っているため、本来の力の半分も出せないというのが、全世界共通の理なのだが……。

 この世界でも適用されているとは限らない、か。今までがそうであっただけで。

 封印前と直後を比べるか、体験するしか、確かめる術はない。


「ほんま、油断ならんわぁ。後ろにも眼ぇ付いとるんかいな?」

「私に死角はないということだ」


 私は剣の切っ先をディヴィアルに向ける。

 剣に魔力と気を込め、引き絞る。


「ほんま、夢でも見てるみたいや。ここまで気を使いこなせる人間は……いや、悪魔すらおらへんかっ――」


 私は悪魔の言葉を聞き終わる前に〈ポイント〉を放った。

 威力は控えめにした代わりに、範囲を最大にした。

 この一撃から逃げるには〈転移テレポーテーション〉を使うしかない。


 ディヴィアルを呑み込みんだ〈ポイント〉が、ディヴィアルの後方にあった壁に当たる直前で〈ポイント〉に込められた魔力と気を融合させた。

 結果として……まあ一言で言えば、大爆発が起きた。


 気の中に管を作り、そこに更に気を通した。

 その中の気を押し出し、魔力と融合――結果として、大爆発を起こしたのだ。

 大分緻密な気の制御術を必要としたが、戦闘に入って時間が経っていたおかげで、すぐに超集中状態ゾーンに入れた。


 宙に浮いていたディヴィアルは爆発の衝撃に抗えず、私の方へ流されてきた。

 こちらに流れてくるとは、運がよかった。手間が省けた。


「くっ……!」


 さすがに馬鹿ではないか。

 ディヴィアルは翼を前に集め、身を守る。


 ここまでは予想通りだ。


 ディヴィアルは今、翼で隠れた右手に魔力と気を集中させている。

 間違いなく、ディヴィアルの必殺の一撃。


 気の練り具合は私に劣るとはいえ、込められた魔力と気の量は、私の〈ポイント〉の二倍近くだ。

 大分無理をしているのか、容量ギリギリのようだ。放ったら自分もただでは済まないだろうに。


 私は剣を振るい、ディヴィアルの翼を斬り落とした。

 その下には予想通り、硬く握られたディヴィアルの右手があった。


「――〈悪魔の一げデビルズ・ハン――」


 

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