第25話  キマイラ討伐部隊

 夜が明けた森の麓に、武装の統一された集団が現れた。

 それを、別の武装をした男が出迎える。


「君にも一緒に来てもらって悪いな」

「いえ、当然かと……」


 ケメは平然を取り繕っているが、内心ではとてつもなく驚いている。




 ふむ……。〈千里眼クレアボヤンス〉で状況は絶えず見ているが……。

 討伐隊の武装も、二パターンあるようだ。


 装備は十二人中、十人と二人に別れる。

 問題は……この二人だ。男が一人と、兜で顔を隠した者が一人。


 …………ケメじゃ手も足もでないだろう。

 私でも片方は潰せるだろうが……二人はさすがに厳しいか?


 そう思う理由は、今持つ魔法じゃ、決定的な一撃を決めることはできないからだ。

 それ以前に、まだ初級魔法ですら覚えきれていない。――そう、手札が少なすぎる。

 だから、勝てない。――今は。


 残りの十人は弱い。ケメよりも。

 ……しかし、十人が同時に相手では……ケメでも勝てないな。


「まさか聖騎士・・・様までもがおいでになるとは……」


 ほう。これが聖騎士――王国の切り札的存在か。

 なら、この十人は通常の兵士――騎士か。


 それにしても、ケメは騎士たちに囲まれている。

 警戒されているのか。


 ケメは何も言わない。

 わかっていたのか。自分が疑われている、と……。


「それでは、キマイラの討伐に出発する。まずは情報の擦り合わせだ。キマイラの特徴は?」

「は! 通常個体より大きく、色は少なくとも黒系。尻尾の蛇は三匹。以上です!」


 男聖騎士の問いかけに、騎士の一人が答える。

 おい、ケメ。……結構バレてるぞ。


「では向かうとしよう! 総員、警戒を怠るな! ここは魔獣の群生地! 気の緩みすなわち死!」

「「は!」」


 ふむ……。統率が取れている。


「む……?」

「どうされました?」

「視線を感じた。気を緩めるな。……では進もう」


 …………。

 完全にこちらを見られた。

 だが、その方角に私はいない・・・・・・・・・・。〈千里眼クレアボヤンス〉だ。


 しかし恐ろしいな、聖騎士。少し離れた地点に目を飛ばして、気取られにくくしていたのに……。





 ようやく討伐部隊は、山頂付近の件の洞窟に辿り着いた。


「ここか……。この洞窟に何か伝承はあるか? 些細なものでも構わん」

「強いキマイラがいる、としか……。みんな恐れて、近づこうとしないので真偽は不明ですが……」

「ふむ……。では、各々戦闘準備を整えろ!」

「……遅い! もう来ています! 各員、一度退き、戦闘準備を整え、再集合! 私たちが様子を見る!」

「「は!」」


 ようやくキマイラ・ゴーレムの登場か。


 洞窟の暗がりからぬるり、と何かが姿を現わす。

 漆黒の体、光り輝く瞳。……昨日のキマイラ・ゴーレムとは、まるで姿が違うな。

 蛇も二本増えている。増えた分は偽物か。


 ケメの思いが、ここまで本物に似たゴーレムを作り出したのか。

 本物には遠く及ばないが、それでも強い。


「……ゴーレム?」

「なるほど、見間違えるわけだ。毛まで再現されているとは!」


 聖騎士の一人が剣を抜き、薙いだ。

 豪風が発生し、木々が大きく揺れるが、キマイラ・ゴーレムはびくともしない。


 ただの剣風だ。しかし、ただの剣風であれとは……。

 ……あの剣、魔法が掛かっているな。波長は単純だ。……なるほど、物体を軽量化させるものか。

 付与魔法の一種……〈軽量化フェザー・オブジェクト〉か。


 今の私には必要ない魔法だ。

 私の剣にはアルティナが憑いているおかげか、重さがまるでない。


 しかし、これを超重い物に掛ければ効果は絶大だろうな。あの聖騎士の剣のように。


 軽々と振り回してはいるが、本当の質量は剣風を見ればわかる。大剣に匹敵するやもしれん。

 

人形ゴーレム風情がっ!」


 もう一人の聖騎士は槍を突き出した。すると直線状に衝撃が走り、洞窟の横に生えていた木がし折れた。

 これは魔法か。


 なるほど。

 〈ストライク〉……直線状に衝撃を飛ばす魔法か。


 ちなみに聖騎士は攻撃を外したわけではない。

 ゴーレムが避けたのだ。


 そして、剣を持った聖騎士の前にキマイラ・ゴーレムは右前足を振りかぶって立っていた。

 

 ――ドゴンッ!


 聖騎士は振り下ろされた前足を、剣を水平に構えて受け止めた。

 その衝撃で、地面が大きく陥没する。


「ぐっ……! ――やれ!!」

「――〈振動天地シェイク・ユニバース〉」


 槍を持った聖騎士がキマイラ・ゴーレムに槍の穂先を当てると、キマイラ・ゴーレムの体を衝撃が突き抜けた。

 

『ガァッ――!!』


 その一撃で、キマイラ・ゴーレムの体に罅が入る。


 ふむ……。この魔法は再現可能だが……波長が四つある。

 一瞬で記憶できるほど私は優秀ではないのだがな。

 大まかな形ぐらいしか覚えられない。まだ経験が浅いせいで、瞬間記憶能力はまだレベルが低い。


 しかしよく見ると、四つとも〈ストライク〉に似た波長だ。

 おかげで、すぐに再現できそうだ。大きな収穫だ。

 あとでまた解析だな。どうせ〈ストライク〉の派生だろうけどな。


「あとは私だな! ぬ……おぉおおおおおおお…………おぉっ!!」


 剣を持った聖騎士が咆哮を上げると、キマイラ・ゴーレムは押し返され、バランスを崩した。


 そして剣を持った聖騎士は剣を鞘に収め直し、柄を強く握り締めた。そして……


「ふぅぅ……」


 ――抜刀。


「――〈ワン〉」




 



 

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