第16話  〈成長〉~15

 六日後の昼。


 私を覆う緑色の光が消え、私は意識を取り戻した。


「……成功か。しかし…………腹が空いた」


 私の腹の虫が猛獣のように唸っている。狩りに……行く体力もない。

 しかし! ちゃんとこういった事態を考慮し、魔法を習得していたのだ。


 重い腕を動かし、手で乾いた鳴らし、魔法を発動させる。


『……僕は君のパシリじゃないんだけど……』


 そう言いながら、アルティナは壁をすり抜けて行った。

 私の新魔法、〈精霊使役せいれいしえき〉だ。

 元の魔法はワーグナー邸の書庫で見つけた〈精霊召喚サモン・エレメンタル〉の魔法だが、それをアルティナのために・・・・・・・・・改良してやった。


 具体的な違いを上げるなら、精霊を呼び出すか、使役するかだ。

 私はいまある精霊アルティナを使役するため、アルティナを召喚し直す・・・・・ことにした。


 召喚された精霊は、召喚主の命令に逆らえない。

 これが基本だが、アルティナは特別ケースだ。強制力は働くが、無視できる。そういう契約を結んだからな。

 今回は状況が状況のため、文句は言いつつも従ってくれた、というわけだ。


 それに、これを使わなければ、アルティナは姿を、存在を完全に人前に現すことができない。

 まあ使わなくても、私と、あとは波長が合う者には見えるがな。


 一度、ワーグナー邸で実験したら、ワーグナーの目に映ったらしい。 

 ワーグナーが明確にアルティナの方を見ていたため、ワーグナーが眼を擦った瞬間に魔法を解除した。

 波長は血も関係しているのでは、という仮説が立てられたが、そうそう検証できるものではない。一応、件の精霊は死者なのだ。


『……取ってきたよ。血抜きも済んでる』


 おお、もう帰って来たか。


「すまないな。ありがとう、戻っていいぞ」


 アルティナは剣に吸い込まれるように戻った。

 血抜きをしてくれているとは……なかなか気が利くな。


 〈念動力サイコキネシス〉でアルティナを動かし、〈斬撃スラッシュ〉を発動し、私は指を鳴らして肉を一口サイズにカットする。

 そして再び指を鳴らし、火を起こし、肉を焼く。

 中までしっかり、かつ、早めに焼く。寄生虫の危険性もあるが、空腹には勝てない。


 焼けたそばから皿(盗賊の遺品)に置き、更に肉を切り、焼く。その間、私は肉を食べる。

 幸い、猿たちが果物と香草、水を用意してくれていた。





 ふぅ~~。ようやく一息ついた。

 なかなか美味しかったな、この肉。香草もなかなか質がいい。


 火の波長を発見できてよかった。

 アルティナを待っている間、爆発の波長から導きだすことに成功した。

 火を起こす道具は用意していたが、使う必要がなくなってよかった。


 しかし、今世の体は文句の付け所がないな。

 柔軟トレーニングは大して行っていないが、長座体前屈をすると、軽くつま先に手が届く。

 踊り向きな筋肉だが、それは変則的な戦闘を可能とする筋肉ということだ。


 さて、と。

 想定より早く〈成長マチュアル〉は完成したが、成長期は終わらせた。


 まだ生後七か月だが、二次性徴まで終わらせてしまうとは。

 ここまで急成長したのは初めてだ。

 ……山に捨てられたのがすべての異常事態の始まりだな。


 さて、この世界の五月半ばに私が生まれて……たしか、二週間前に新年を迎えた。

 つまり、今は十二月の半ば……というところか。

 二月までは山に籠ろうか。時々顔を見せに下りればいい。移動手段は豊富だ。


 最悪、〈念話テレパシー〉で会話すればいい。


 残りの一か月と二週間は、魔法の波長の解析を続けようか。

 魔法の大小を決める波長もあるはずだ。もしくは、波長そのものを弄れるかもしれない。

 魔法の応用範囲は広いに越したことはない。


 とりあえず、今は四大元素の発生は可能となった。

 ここから、他元素へ派生させたり、魔法を形作ればいい。


 今は……最優先事項は、火属性の探求。

 次に土、次いで風。最後に水だ。


 火は、普通に発生させるか、爆発させるか。これらは魔法と呼べるほどのものではない。

 とりあえず……火の探求と並行して、魔法の波長そのものの探求もせねばな。

 同じ魔法でも、大小等の微調整ができなければ面白くない。


 精神系魔法は〈魅了チャーム〉から近い波長を徐々に見つけていけばいい。

 身体強化系魔法は〈閃撃〉から。


 …………ああ、私そのものの波長をさらに細かく調整できるようにしないとな。

 波長の些細な揺れから、感情が察知できてしまうからな。


 私以外にできている者は見たことないが、現にこうして私が行っている。

 他にもできる者がいるかもしれない。……いや、できる者がいると思って行動した方がいい。

 そうしないと、いずれ足元をすくわれる。


 さて、と。

 まずは火の波長を弄るとしようか……。


 火から熱を。熱と水を組み合わせて氷を作る。これが第一ステップといったところか。

 四大元素は、応用の幅が大きい。ほとんどの魔法は四大元素から派生する。


 おっと、まずは……。〈防護膜プロテクション〉で私の体を、薄い膜で覆う。

 そして、小屋の壁に〈障壁バリア〉を張る。


 魔法を維持してくれる波長を見つけるには、こうして同時に様々な魔法を展開するのが手っ取り早い。

 波長が自動的に生まれることを待つ。こればかりは、他に方法がない。


 さて、と!

 冬が明ける頃には私はどこまで行けているかな?

 

 



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