第14話  アドベンチャラー

 私は受付に戻り、Bランクのアドベンチャラーカードを受け取った。

 大きく『B』と書かれ、右上には私の顔写真が乗せられている。……仮面を着用している?

 私は仮面を外したはず……と思ったら、写真の中の私も素顔になった。

 なるほど、波長の一つがこれか。


 波長がいくつか見えるが、どれも単一の魔法だ。


 おそらく、偽装不可、顔写真、不燃、所持者認定……といったところか?

 カードと持ち主の安全性を保障するうえで大切な条件だ。


「これまでの、Bランク最年少記録が十六歳。六歳も更新とは……さすがだな、レスク!」


 ガイオスがそう、私を褒める。

 ここまで来ると、なんだか申し訳ないな。

 しかし、十五歳でBランクか……。すごいな、そいつ。


「さて、と。一度、屋敷へ……」

「――待ちたまえ!」


 帰ろうとしていた私たちを呼び止めたのは、支部長だった。





 私は一人、アドベンチャラー・ハウスの支部長室に呼び出されていた。

 ガイオスは受付で待機中だ。


「まあ掛けなさい」

「……失礼します」


 私は支部長の指示に従い、支部長室に置かれたソファに腰かけた。向かい側に支部長が腰を下ろす。

 すると、部屋にいた受付嬢がコーヒーを持ってきてくれた。私のはココアだが……気が利くではないか。

 受付嬢は一礼すると、静かに部屋を出て行った。


「さて、と。改めて名乗らせてもらおう。アドベンチャラー・ハウス、エヴァンス支部支部長、アレオ・ピァンスだ」


 ほう……。今更ながら、この都市はエヴァンスというのか。

 ワーグナーの家名がエヴィデンス。私に与えられたのはエヴァンテール。そしてエヴァンス。

 ……エヴァンテールはどこから来たのだ?


「そして、エヴァンテール。お前がその姓を名乗るということは、お前がワーグナー殿の客人になったとみていいのだな?」

「ええ、そうですが……なぜ、わかったのですか?」


 ちょうどいい。

 エヴァンテールはエヴィデンス家の客人、という意味があると言われたが……何か由来があるはずだ。


「ふむ……。知らなくても無理はないか。貴族というのは、自身の家名の他に、もう一つ、他人に与える家名を持つ。伯爵以上となると、よくあるケースだな」


 ほう……。分家とでもいうものを増やすためのものか?

 ようするに、権力拡大の一方法。


「エヴィデンス家が有するものが、エヴァンテール。それは分家にも等しい。……わかったか?」


 なるほど、読めてきた。

 養子一歩手前なのか。伯爵ともなれば、養子など作れないだろうしな。


 ちなみに今の「わかったか?」には、事の重大さが、という言葉が前に来るのだろう。


「はい、もちろん。それで、本題は?」

「いや、特にないさ。ただ、強者とはこうして面談しているんだ」


 なるほどな。精神鑑定か。

 私は別に精神異常者じゃない。普通に受け答えして、問題はない。





 三十分弱の精神鑑定……もとい、お喋りを済ませ、私は受付で待っていたガイオスとともに、ワーグナー邸へ帰って行った。

 地平に見える太陽は半円状になり、茜色に染まっていた。




 晩餐の席で、私たちは食卓を交わしていた。ガイオスもいる。この屋敷の従者でもあるからだ。 

 山賊討伐の日にはいなかったが、実は切り札として待機していたらしい。

 あそこで山賊を殲滅するつもりだったらしい。ギリギリセーフだったな。


「まさか最初からBとはな……。出発はどうする?」

「できるだけ早めに行きたいですね。名残惜しいですけど」

「そうか。では、一週間後。それまでに、必要そうな物資を用意させよう。それまで、いつも通りに過ごすといい」

「ありがとうございます」


 私はそう言って礼をした。


 名残惜しいと言ったが、それは事実だ。利益・不利益の面で、だが。

 衣食住はなかなか手放せるものではないし、人間、豊かなものを追い求めてしまうものだ。

 一度、豊かさを知ってしまえば、それ以上下がるのは嫌がるものだ。誰でもな。

 それもまた、人間の性。





 私は一週間、ガイオスを相手に体を動かしつつ、魔法の習得に励んだ。

 おかげで、闘技場にあった魔法の障壁の再現、応用に成功した。


 結果として、〈障壁バリア〉と〈防護膜プロテクション〉の二つを得た。


 習得の最中に、反魔法を使えるようになったのは幸運だった。

 反魔法とは、敵の魔法の威力を減少させることができる。実力差が開き過ぎれば、無効化できる。

 世界共通だ。


 支部長の使った〈妖精演舞フェアリー・ダンス〉から〈空中歩行エア・ウォーク〉と〈浮遊フロート〉の波長を発見した。

 これで〈閃撃〉が、本来の姿にかなり近づいた。


 それに、〈空中歩行エア・ウォーク〉は四つ波長を持つだけあって、かなり優秀だった。

 

 支部長との一戦は、私を大きく強化することとなった。




 あとは、この赤い剣か。

 なかなかどうして、想像以上に優秀だ。


 切れ味はすさまじく、精霊がついていることもあり、劣化もしないようだ。

 アルティナの意識も残っており、ある程度自由に出入りしてくる。


 なぜ、私の剣に宿ったのかを聞いてみた。


 すると、私がエヴァンテールであること、私が強いから、だそうだ。

 たったそれだけで? と私は思ったが、アルティナ本人がそう言うのだから、それでいいのだろう。

 何より……魂の波長も近いそうだ。落ち着くのだろう。





 朝食後、私は玄関前でワーグナーたちに囲まれていた。


「必要な物は、この腕輪――次元ブレスレットの中に入っている。まだ容量はあるが……もう一つ、渡しておこう」


 ワーグナーは私に、二つの黄金色のブレスレットを渡してきた。

 一か所、青い宝石が嵌っており、片方の宝石は三分の二ほどが濃く染まっている。これが容量を表すのだろう。


「これが中に入っているものリストだ、あとで確認しなさい。いつでも戻って来ていいからね」

「はい! 短い間ですが、お世話になりました」

「冬だが、ここら辺は雪が少なく、気温もあまり下がらない。……が、獣は冬眠する。冬が開けるまではここら辺で過ごすんだぞ」


 ガイオスはそう言うが、元よりそのつもりだ。


「それじゃ……行ってきます!」

「「行ってらっしゃい」」


 そして私は、ワーグナー邸を出た。


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