第13話  ランク

 支部長の身のこなし、剣の構え。そして、剣に宿る風の精霊。

 何一つとして、油断できない。


 右足を軽く後ろに引き、右手に持った細剣レイピアは軽く下を向いている。

 刺突――細剣レイピアの扱いに特化した戦士か。


 剣の薄かった緑色の光が強くなり、支部長の周りに風が吹き始める。


 ふむ、身体強化系の魔法か。いや、魔法ではないな。

 剣から、支部長に力が流れ込んでいるのか。精霊の力か、精霊剣の特性か。


 風の精霊が後押しし、刺突特化の武器の特性を性能以上に引き出している。


 だが同時に、風の魔法を学べる良い機会だ。

 まずは攻撃を躱しながら、魔法を見させてもらおう。


 詠唱は……そうだな、模倣コピーとでも唱えておけばよいだろう。

 声に魔力を……波長を乗せなければ魔法は発動しない。


 模倣コピーの魔法はこの世界に存在するし、波長も見つけている。

 しかし、その効果は“受けた魔法を一度だけ・・・・、八割の威力で返す”というものだ。

 使い勝手が悪い。躱しては効果がないのだから。


 しかし、これ以上に言い訳に適した魔法がないのも事実だ。仕方あるまい。

 もちろん、魔法攻撃は寸前で躱すなり消すなりするつもりだ。


「――開始!!」


 その瞬間、闘技場全体を、薄紫色の半透明な膜が覆った。

 

 これは……魔法の障壁か。


 私は剣を構え、動かない。

 しかし、魔法戦に持ち込みたい。だが、初手は相手に譲ってやろう。


「まずはご挨拶……――〈風突ピアス・ウィンド〉」


 範囲こそ狭いが、効果は絶大か。だが、細剣レイピアが飛んでくるのと何も変わらん。

 波長も一つ。初級か。


 しかし、ご挨拶にしては威力が高くはないか?

 精霊が後押しする、支部長の細剣レイピアの技術。


 そんな支部長だからこそ、ご挨拶程度でも……強すぎる。


 当たったら、私の体にはいとも容易く風穴が開くだろう。

 掠るだけでも傷ができる。……当たり前か。


 ……そんなものを私の顔に向けて放つかね?

 一応、私は年端もいかない少年なのだがな。まあ、一人の人間として見られていると考えたら悪い気はしないが……。


 私はしゃがむ。

 頭上を〈風突ピアス・ウィンド〉が通過していった。


 ああ、観客席に人がいるじゃないか。

 すまない、尊い犠牲と……障壁バリアが張られているんだったな。波長は……少々複雑だな。

 三つか。解析はあとだ。三つとはいえ、少々ややこしい。

 波長同士が互いに干渉し合っているようだ。


「今のを躱すか……。なら、まだまだ行くぞ!」


 次々と〈風突ピアス・ウィンド〉が発射される。

 私は闘技場内を駆けまわり、攻撃を避ける。だが、だんだんと避けるのが難しくなってきた。


 ついに完全に私を捉えた〈風突ピアス・ウィンド〉に、私はまったく同じ魔法を放つ。

 風の渦は逆向きにすることで、完全に相殺することに成功した。

 剣の形状と魔法は、ほぼ・・無関係だからな。


「私の魔法を、同じ魔法で相殺したのか。……やるじゃないか」


 口パクで魔法詠唱は誤魔化した。


「しかし、君は詠唱していなかったね?」

「さあ、どうでしょう?」


 私は剣に風を纏わせ、振り下ろした。

 斬撃のような風が、キザったい支部長に迫る。


 波長は〈風突ピアス・ウィンド〉となんら変わりはない。風の吹く向きを変えるだけでいい。

 ……本当は〈風突ピアス・ウィンド〉を放つつもりだったが、焦った結果、波長を若干ミスって〈風斬ブレード・ウィンド〉になった……なんて言えない。


「であれば……――〈風斬ブレード・ウィンド〉」


 支部長は細剣レイピアを横に振るった。私が今使った魔法。


 しかし……ふむ、大して学ぶことはなさそうだ。

 やはり、本気でやらないとな。


 私は右足を大きく後ろに引き、上半身を前に落とした。

 右足が地面を削る音に魔法の波長を乗せる。


 ――〈閃撃〉だ。


「なんだ……その魔法は?」


 支部長がようやく焦りを顔に浮かべた。

 疑問の色合いの方が強いか。

 

 私は姿を眩ませる。

 ふむ……もう少し、遊んでやるか。


 私は高速で移動しながら、ところどころで〈閃光フラッシュ〉を発動させる。

 私が方向転換する際、地面を削る音が発生する。その音に乗せて発動させている。


 まだ〈閃撃〉は発展途上だ。

 空中で方向転換をできるようにしないとな。それができてこそ、本当の〈閃撃〉となる。


「そうかそうか……ならば、速さ比べといこうか! ――〈妖精演舞フェアリー・ダンス〉」


 支部長の体が風で包まれ、姿が掻き消える。


「――どうだ?」


 そして、私の背後に現れた。私は今も移動中だ。それを……追い付いてきた?

 私と違い、空中で走っているのか。ふむ……。


 体を浮遊させる波長、空気を蹴る波長。

 どれも一つではないだろうな。波長は全部で五つ。五つの中から二つか三つ選んでようやく完成といったところか。

 どちらか一方を消すことはできないだろう。二つあってこその魔法に間違いない。

 これも後日、要検証だな。


 しかし、どうしたものか。

 私たちは高速で移動しながら剣を交わす。


 最後に、闘技場の真ん中で全身全霊の剣をぶつけ合い、互いに闘技場の端へ吹き飛んだ。

 魔法の障壁に当たり、地面に膝を着く。やはり、未成熟の肉体ではこれ以上の負荷の大きい戦闘は厳しいか。

 対し、支部長はすぐに威力を殺し、着地に成功している。


 ――勝てない。


 今の私では、これ以上のスピードは出せないし、力でも勝てない。

 剣術だけなら勝てる。


「――終了です」

 

 ……終わったか。

 さて、私のランクはどうなることやら。


「ふむ……。魔法の腕、剣の腕はともに悪くない。十歳の少年かどうかは疑わしいところだが……まあいい。年は関係ない」


 すぐにランクを発表するのか。

 戦いを見ていた審査員たちとじっくり吟味し、後ほど発表……とかではないようだな。


「おめでとう、最年少記録を大幅に更新したぞ。――Bランクだ」


 あの酔っ払いと同じかよ。


 

 


 

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