第2話 エイリアンVS雨(SF・コメディ)

 最初にそのニュースがもたらされたのはアメリカだった。

 アメリカ上空で発見された飛行物体がネット上を揺るがす頃には、既に円盤形から異星人達が降下してきたところだった。グレイ型と言われる灰色の小型の人型でもなく、映画「エイリアン」のような頭の長い人型の怪物じみた容貌でもなかったが、それでもとにかく怪物としか言えないその異星人たちを人類はエイリアンと呼んだ。

「いまのところアメリカに五機、カナダに三機、ヨーロッパ圏では確認できるだけで八機、ロシアでも三機確認されています。アジア圏内でも中国上空に四機、韓国と北朝鮮にまたがるように一機、まだまだ確認されています」

「ううむ」

 報告を聞いたとある国の国防長官は、苦い顔をした。軍隊を総動員して対処にあたっているが、その本物のエイリアン達も強い。悪戦ではないが善戦とも言い切れず、いまだ拮抗している。向こうの円盤からは次々とエイリアン達が降りてくるし、このままではじりじりとやられるだけだ。だが攻撃を仕掛けてくる以上、立ち向かわねばならない。

「本物の異星人との戦いがこんなことになるとは」

「はい。それから、これは懸念事項なのですが……」

「なんだ?」

「そのう、ネット上での論争を見ましたか」

 頭の痛いことに、いまだエイリアン達が姿を見せていないところでは、これは映画のワンシーンだとかよくできたCGだというのが信じられている場所もある。それらがすべて現実の出来事で、人々が殺されているのによく言えたものだ。

 だがそんなものはまだいい方だ。目の前で起きていることが信じられない気持ちはよくわかる。

 一部の人間の中には「降伏すればきっと悪いようにはしない」とか「エイリアンの人権を守ろう」とか「話し合えばなんとかなる」とか言い出して運動を起こしている人たちもいた。地球人が何かをしたのだろうと勘ぐっている識者もいる。いきなりやってきて攻撃を与えてきた怪物に地球人が何をどう出来たというのだ。どう話し合えばいいというのだ。

 それどころか「エイリアンは神であった」と言い出す新興宗教まで出来る始末。これが一つの国だけでなく、ネットの力を使って世界各地に広まりつつあるのだから余計に頭痛が酷くなりそうだ。

「そんなに言うんだったら、ぜひとも話し合ってもらいたいものだな!」

 国防長官は苛々して机を殴りながら言った。

 報告をした部下も苦い顔をしている。

「そういえば、日本はどうなったんだ。まだ情報が入ってきていないが」

「それが、いまはそれどころではないらしくて」

「なに? これ以上の何があるっていうんだ」

 国防長官は更に首を捻った。

 その頃、日本では未曾有の大災害に襲われていた。百年に一度クラスの台風が沖縄から九州を通過していたのだ。これがまたひどくゆっくりと通過していて、どこの堤防が決壊してもおかしくなかった。

「こんなときに日本観光しなくてもいいのに!」

「まさか台風のルートが日本縦断するとはなあ」

 もしいま、台風と一緒に世界を恐怖のどん底にたたき付けているエイリアン達がやってきたら、とんでもないことになる。そもそも自衛隊しか無い日本に、怪物と戦って勝てるだけの勝機があるのだろうか。いくらアメリカ軍の基地があるといっても、その肝心のアメリカも勝っているとは言いがたい。

 街中を歩いていた若者の二人組も、雨の様子を気にしていた。

「東京も今日の午後から雨だってさ」

「本当に午後からか? だいぶ暗くなってきてるぞ」

「もう降ってきてもおかしくないよな」

 ちょうどそのとき、ただでさえ暗かった空が急に暗くなった。

「なんだ?」

 人々が上を見上げたとき、そこにあったのは空ではなかった。雲の切れ間から、ばりばりと音をたてながら円盤が降りてきたのである。台風も来ているうえにエイリアンまでやってきたのである。

 円盤の下がゆっくりと開くと、ばらばらとエイリアン達が降りてきた。

「きゃーっ!」

 悲鳴があがった。

「う、うわあーっ! エイリアンだ!」

 悲鳴をあげて逃げ惑うのはまだいいほうで、ただただ声も無く動画を撮ることしかできない人もいた。腰が抜けて動けなくなったり、逃げ惑う人々に押されて倒される人もいる。

「助けてえ」

 地上に降りてきたエイリアンは、たしかに人型の怪物としかいえなかった。

 そのとき、ちょうど雨が降り出した。

 エイリアンが降りてきた上に雨まで降り出してくるなんて、最悪に最悪を重ねたような状況だ。人々は叫びながら、雨の中を駆け抜けていく。

「ぎしゃあああああ」

 ところが悲鳴をあげたのは人間だけではなかった。

 エイリアンからも悲鳴のような声があがったのだ。

「おい見ろ、奴ら溶けていくぞ!」

 その通りだった。エイリアンは雨に打たれたところから、どろどろと穴が空いて溶けていったのだ。痛みに耐えかねているのか雨から逃れるように腕でガードをしている。

「えっ、助かったのか?」

「あいつら、水に弱いんだ!」

「雨に弱いんじゃないか?」

「そんなのどっちだっていい、すぐに拡散しようぜ!」

 たちまち足を止めて動画を撮りはじめる。

「なんだかわからないが、雨に弱いなら室内に入れさせるな!」

 持っていた傘を武器に、逃げ惑うエイリアンをつついて雨の下へと追いやる。

 エイリアンが雨に弱いという話はたちまち世界中へと拡散していった。

 雨を降らそうと、ありとあらゆる地域でいろいろな雨乞いが執り行われた。中国やアフリカなど場所を問わず、古いものから現在まで続くものまで様々な儀式が行われた。科学者は人為的に雨を降らそうと、人工降雨装置を動かしたり、新たに発明したりした。

 だがそんな中、日本を沖縄から北海道まで通過していった台風はエイリアン達を次々と溶かして去っていった。「クレイジージャパン」「神風」「台風の奇跡」などとはやし立てられたが、台風によって決壊して流された家々もあり、その評価にも賛否両論が起きた。

 やがてエイリアン達にも「雨」の存在が周知されたらしく、円盤はあっという間に飛び去っていった。

「まあ、日本には天叢雲剣があるからね」

 ネット上の誰かが言った。

 ちなみに日本のネット上では、「天叢雲剣が雨を降らすなんて話はどこから出てきたんだ?」という話が再び持ち上がるまでがセットだった。

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