第34話 目指せ!リゾート

 僕のバッグから弁当を二つ出してしまったので、どこでその弁当を作ったんだ⁉ ってことなんだけど綺羅莉はこのことは見なかったことにしてくれるらしい。


 気を使わせてしまったようで申し訳ない。


 これが俊介だったらめちゃくちゃ弄られるところだった。


 噂をすれば影。心に思い浮かべただけで噂はしてないけど俊介がやってきた。


「おっす。あれ? 二人だけなのか?」


「おつかれ。水美と遊矢は裏の定食屋に行った。季里と凛ちゃんは自販機に飲み物を買いに行っているところ」


「ふ~ん。で、何で名前呼び? マコちゃん石築のことは苗字呼びだったよな?」


「いや、今朝ルール改正があったんだ。このメンバーは基本名前呼びになった」


 確かに不思議には思うよね。急に名前呼びになっていたら。


「へ~、じゃあ白石も名前呼びなん? 俺も呼んでいいん?」


「もちろんですよ……」


「そ。きらりちゃんよろしくね。俺は俊介、な」


「し、知っていますよっ」


 綺羅莉もせっかく慣れてきたのにまた俊介のせいで恥ずかしがっている。それにしても俊介はよく綺羅莉の名前を知っていたな。


「あれ、マコちゃんは今日も弁当なのか?」


「彼女さんが作ってくれるみたいですよ」


「へ~羨ましいね。そういえばさ、四月っからずっと弁当だよな、マコちゃん。もしかしてさ……」


「俊介……。参ったからそれ以上は言ってくれるな」


 このニヤついた顔、こいつ絶対に気づいている。弁当の出どころ見なくてもバレているなんて! もう気づかれた以上はこっちが頭下げるしかないじゃん。


 妙に勘のいいやつは嫌いだよ……。


「面白いことになってるな。こんどしっかり教えてくれよな」

「こ、今度な。機会を見つけたら、話すさ……」


 綺羅莉は僕たちが何の話をしているか分かっていないが、首を突っ込んで来ないでくれているのでありがたいです。心のなかで頭下げましたので許してね。


「あ、俊介さんお疲れ様です」

「季里ちゃんこんちはー。凛ちゃんもこんちはー」


「わぁ、もう名前呼びわかっているんですね~」

「適応能力高いからね。さ、飯にしよう」


 取り敢えず俊介も余計なこと言わないようだし、綺羅莉ももう弁当には触れてこないので安心していた。僕と季里の弁当の中身が同じことについては三人が三人顔を見合わせながらもスルーしてくれたからね。


「お前ら隠す気があるんだかないんだか分かんねえな……」

 俊介がなんか言っていたが聞き返さなかったよ。


「凛ちゃんも自分でお弁当を作っているんだよ」

「へ~凛ちゃんも料理は得意なんだね」


 僕が褒めると凛ちゃんもちょっと得意顔になっていた。かなり彩りもいいし、女の子らしい可愛らしいお弁当だったからな。


「綺羅莉先輩はご自身で?」


「私の弁当は家政婦さんに作っていただいたのよ。恥ずかしながらわたしはあまり料理が得な方ではないのでね」


 家政婦が家にいるのか。それとも家事代行サービスみたいなものなのかな?


「我が家は両親ともに仕事に忙しい人でね、住み込みでお願いしているのよ」


 家政婦さん、住み込みでした。すごいね! もしかして綺羅莉んちってお金持ちなお家なのかな?


「うちもさすがに住み込みじゃないけど偶に家政婦が来て掃除したり飯作ったりしてもらってるぞ」


 え? 俊介んちもかよ。俊介んちもまさかお金持ちなのか?


「俊介んちの親って何やっている人なんだ?」


「ん~不動産業……? ビルとかマンションの賃貸やったり、ちょっとだけだけどホテル経営してたりするな」


「なんだって⁉ 俊介はご子息なのかよっ」

「なんだよそのご子息って」


 まさか俊介が社長ご令息のボンボンだったとはな。人は見かけによらないものなんだな。


「なんかマコちゃんから失礼な波動がぐわんぐわん流れてくるんだが⁉」

「ソンナコトハナイヨ……マコチャンイウナ」


「つったって、綺羅莉のほうがお嬢様だよな? な、きらりちゃん」


「わたしもお嬢様って言われるほどではないわよ。わたし自身はごく普通ですもの。親がただそういった仕事に就いているってだけだわ」


 聞いてみると綺羅莉のお父さんはIT系の社長さん。お母さんもエステティックサロンを数件経営しているとか。ホンモノのお嬢様ですよねぇ~


 うちの学園にはそれなりの人数の社長の息子や娘がいるってことは聞いていたけど、まさかこんな身近に二人もいるとは思ってもみなかった。


 ちなみに凛ちゃんのお宅も水美や遊矢のお宅もごくふつうのサラリーマン家庭だったので少しだけ安心した。

 俊介や綺羅莉の家もお金持ちなんだろうけど、漫画や小説に出てくるような大富豪って訳ではなさそうなのでそこでも少し安心できたよ。


 🏠


「水美さんたちが戻ったのでお話したいのだけれどいいかしら?」

「ん、どうぞ~」


 綺羅莉が話したのは、この宿題の勉強会が全部終わったあとの話。宿題が全部片付く、またはちょうど切りの良いところまで済んだら海に遊びに行こうって提案だった。


 以前僕が誘われたやつの話だな。


「うちの別荘が戸田にあるのよ。みんなで海に行かないかしら? 七人だったらその別荘に泊まれるのよね」


「ねえ、誠彦さん。ヘダってどこなの?」

「根っからの海無し県人で山奥に住んでいた僕に海のこと聞かれてもわからないよ」


 どうせ気軽に海にはいけないし、調べたところで虚しいだけなので海のことを僕はあまり知らないんだよ。


「あっは~ 誠彦君と季里ちゃんのコソコソ話丸聞こえwww」

「うっさい、そういう水美はヘダってどこだかわかるのかよ⁉」


「え? しらなーい」

 なんだよ、お前も知らなんじゃないか‼


「ここみたいだぞ。西伊豆」

 遊矢がスマホの地図アプリでヘダを表示してくれた。戸田と書いてヘダと読むんだな。トダじゃないんだ。


「俊介は知ってたのか?」

「ああ、知ってるし行ったこともあるよ。戸田を内陸に三~四〇分行ったところに修善寺温泉ってところがあって、そこに親父の会社の系列がやっている温泉旅館があるんだ」


 ねぇ、お金持ちって西伊豆に集まるの? 


「きゃー‼ じゃぁですね、最初に綺羅莉せんぱいの別荘にお邪魔して、帰りに俊介せんぱいの温泉に浸かって来ましょうよっ」


「凛ちゃん、ちょとはしたないよ~」


「ええ~いいじゃない⁉ リーマン家庭の小娘がブルジョアジーの一端に触れるなんてそうそうないんだからここはせんぱいに甘えちゃおうよ‼ ね、せんぱい」


 さすが凛ちゃん、こういうことには躊躇がないね。嫌いじゃないよ!


「いい出したのはわたしだし何も問題はないわよ」


「うちも温泉に入るぐらいだったら問題はないぞ。泊まるのは時期的に無理だろうけどな」


 送迎も綺羅莉んちの車を運転手付きで出してもらえるってことでこのバカンスの予定は決定した。すげーな海なんて何年ぶりだろう。



 餌(海でのバカンス)をぶら下げられた僕らは毎日学園に集まり夏休みの課題を片っ端から片付けていった。お陰で八割方の課題は終わらせることができた。


 残りは国語の小論文と英語の英作文で、テーマがそれぞれ”夏休みの思い出”だったので後回しって事になったんだ。

 無理めな工程表だと思ったけど五人プラス二人もいると結構捗るものなんだな。これ心置きなく遊べるってものよ。

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