第33話 宿題討伐隊

 終業式を無事に終えて、山のような夏休み中の宿題を持って帰る。一年生のときも多いとは感じていたけれど二年生になったら課題の量が倍になった。


 国英数理社の基本五教科の各系統が冊子になって五冊ある。重ねると昔見たことのある電話帳ってやつぐらいの厚さになっている。

 どう見ても生徒の夏休みを潰しにかかってきているとしか思えないが、僕は負けない。今年の夏は季里がいるので絶対に遊ぶことに集中するつもりなのだ。


 🏠


「手分けしてやっつけるのはいいとしてどこでやるん?」


「図書室か自習室でいいんじゃないか? お盆期間中以外は学園の門も開いているらしいし」


「んっじゃあ決定だね~」


「おっけ。それで明日から集中的に、できれば七月中に全部終わらせてしまおう」


 上から俊介、遊矢、石築、僕の順で話は決定された。


 この分厚い宿題を討伐すべく結成されたパーティーだ。魔王宿題を倒すべくいざ進め!


「面白そうね。わたしも加えさせてくれないかしら?」


「ふぇっ、白石さん⁉ 白石さんもいっしょに勉強するのぉ?」


 急に現れた白石さんに今回は石築がびっくりしている。僕と俊介は耐性ができた。遊矢はまぁいつも通り動じないのでね。


「駄目かしら?」


「んにゃ、かまわないぜ。いいよな、マコちゃん?」


「僕はまったく構わないが、なぜ僕に聞く、俊介?」


 こいつまさか僕と白石さんが一緒に買い物したとか知っているんじゃないだろうな? さすがにそれはないか。


「だってよ、どうせマコちゃんは彼女さんも連れてくるんだろ?」


「あ、ああ。それね。うん、大丈夫」


 🏠


「夏休みの初っ端から学校に通い続けるとは思わなかったよ」


「この宿題の量だからな、みんなで協力しないと遊びに回す時間が全くなくなってしまいそうだからね」


 学園には季里も一緒に宿題をやりに行く事になった。ちなみに櫻井さんも来るらしい。一年生が季里一人でなくて良かった。


 予定では朝九時から午後三時までの予定。図書室と自習室が開放されているのがその時間なのだ。いつまでこの宿題討伐イベントを続けるかはこの進捗具合次第になる。


 つまり頑張ればがんばった分だけ遊べる時間が長くなると言う寸法なのだ。


 昼飯が手弁当か近所の飲食店に行くしかないので季里には申し訳ないけど弁当をお願いしている。


「ねえ、今日は誰が来るの?」

「以前に学食で会った三人と……白石さんも来るよ」


「あ、ああ。氷姫さん、ね。へぇ~ 楽しみだね」

「あんまり噛みついたりしないでくれよな」


「私そんな事しません! 誠彦さんの私の評価ってどうなっているの??」



 自習室に到着すると一番乗りだったようで七人分の場所を容易に確保できた。七人ってなかなかの大所帯になったな。



 ぼちぼち集まってきたところなので、まず白石さんに季里と櫻井さんを紹介する。


「よろしくね。毒島さんに櫻井さん」


「あー、私のことは季里って呼んでください。よろしくお願いします」


「ではあたしのことも凛ってお願いします」


 よかった。普通に会話できている。いきなり「あんたが私の彼氏を弄んだ女か⁉」的なことにならなくてほんとホッとしたよ。


「では、わたしのことは綺羅莉きらりって呼んで……やっぱり白石でお願い」


「えっ!? 白石さんって綺羅莉ちゃんて言うんだ! カワイイ! ウチも綺羅莉って呼びたい!」


 石築が白石さんの名前に食いついた。それにしても白石さんって綺羅莉って名前だったんだな。意外だ。


 白石さんは真っ赤な顔になり、下を向いてしまった。髪の間から見える耳まで真っ赤っかになっている。珍しいもの見せてもらったよ。



 すったもんだがあり、結局全員下の名前で呼びあうことになった。だから僕も白石さんのことは綺羅莉って呼ぶし、櫻井さんも凛って呼ぶ。石築は石築のまんまでいいじゃないかと思ったけど、例外は認めないってことで水美って呼ぶことになった。


「綺羅莉、これってこうやって解けばいいの? 解き方教えてくれないか?」

「ぅぐ、誠彦くん。これはね教科書のここに書いてある公式を使うと答えは出るわよ」


 白石さ……綺羅莉は名前を呼ばれる度にダメージを負っている気がするが、それに関わらず分からないところは教えてくれるのでありがたくお願いしている。

 俊介も学力上位者だから偶に教えてもらっているのだけど、あいつは教え方が独特なので教えてもらってもよくわかんないんだよね。


「なぁ、誠彦。この”なのめならず”ってなんだ?」

「遊矢は古文やってんのか? それは、『並ひととおりでない』とか『格別だ』みたいな感じだな。源氏物語か?」


「さすが誠彦だな。国語だけはトップクラス」

「うっさいわ。余計なことは言わない」


 国語はできても他がてんで駄目なのをこれでも気にしているんだから指摘しないでおくれ。



「う~ん、頑張ったぁ~! おっ昼~ おっ昼~ ご飯っご飯っ」

「いしづ……じゃなかった、水美は飯ってなったら途端に元気になったな」


「あったりまえじゃ~ん‼ マコちゃんとは違うんだよ~」

「お前までマコちゃん言うな! 水美と遊矢は外で飯か?」


 夏休みなので学食も購買も休みなので、水美と遊矢は学園の裏門そばにある定食屋に行くようだ。


 もうそろそろ部活終わりの俊介も合流してくる頃だと思う。あいつはどうせコンビニでパンでも買ってあるのだろう。


「僕らも片付けてご飯にしようか」


「はーい。誠彦さん、自販機に行ってくるけど何がいい? あ、綺羅莉先輩の分も買ってきますよ」


 季里と凛ちゃんで買ってきてくれるとのこと。綺羅莉の分まで買ってきてくれると言う季里にはわだかまりはなかったようで安心した。


「ではわたしはお茶でお願いできますか」

「あ、僕もお茶で」


「わかったぁ。お茶二本ね。じゃいってきまーす。凛ちゃん、行こっ」


 僕たち以外の自習室利用者も昼にするようで皆片付け始めた。僕は持ってきたバッグから僕と季里の分の弁当箱を取り出す。


「当たり前のように同じバッグからお弁当が出てくるのね」

「うぐ……ま、まあね。季里に僕のお弁当は作ってもらっているんでね」


 おっと少し迂闊だったかな。目撃者は最少だからまだましか……。


「ふ~ん。でもそのバッグ、誠彦くんのバッグよね?」

「ぐぬぬ……」


「はぁ……。わたしも余計な詮索はしないことにするから安心して」

 ありがとうございます……。

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