第四話 『人攫いと双剣の剣士』

 

 「あのクソ野郎ッ! 何って馬鹿力してんだァ!」


 カラシアの街から少し離れた草原で眼帯の男は外套の下に着込んだ鎧が破損した事に気づき、怒りを露にする。


 「防御魔術が付与された代物だぞ、幾らすると思ってんだ!」

 「に、逃げないと……」

 「――何、逃げようとしてんだ!」


 眼帯の男は気付かれず逃げようとするアリサに気付き、捕まえて馬乗りになる。


 「こうなったのはテメェのせいだ! 嬲り殺してや――」

 「……え?」


 突如、眼帯の男の首が胴体から離れて地面に落下した。

 そして、黒い外套に身を包んだ人物がいつの間にかそこいた。




 ◇◇◇

 

 「アリサは何処だ!」

 「し、知らない! 本当だ!」


 鬼神の酒場ジークハウスからアリサと眼帯の男が姿を消した後、すぐさまアリサを探しに出ようとしたジークとノア達だが酒場の外に大勢の野次馬で溢れており、冒険者が暴れていると通報を受けて駆けつけたギルド職員に事情聴取を受けていた。

 

 「落ち着いてください! ジークさん! アリサさんの捜索は我々ギルドが進めていますから!」


 冒険者を問い詰めるジークにギルド職員のレイシアが慌てて止めに入る。

 ノア達は酒場の端の方で事の成り行きを見守っている。


 「すいません、兄さん。私がちゃんと周囲に気を配っていればアリサさんが連れ去られる事も無かったのに……」


 アイリスは申し訳なさげな顔をして、悔しそうに下唇を噛み締める。


 「いや、あの状況は仕方ない。俺もジークを止めるのに必死で、周囲を見て無かった……」


 ノアは剣の柄を強く握り締め、アルバートは意気消沈して床に座り込んでいた。


 「貴様らなんだろ! 人攫いは! 何が目的なんだ! 言え!」

 「違う! 俺らは金でアイツに雇われただけだ! 人攫いなんてしたら、冒険者資格剥奪されちまうだろ!」

 「ジークさん! 人攫いの件を私に話してくれませんか!」


 レイシアの言葉はジークには届いておらず、時間だけが過ぎていく。

 暫くすると外からレイシアの名前を呼ぶ声が聞こえて、勢いよく店の扉が開いた。


 「先輩! 眼帯の男を発見しました! 死体で!」

 「「「え?」」」




 ◇◇◇


 場所を移動し、街から少し離れた草原で眼帯の男が死体となって地面に倒れていた。

 レイシアは死体の外套を取り、鎧が破損している事に気づく。


 「うーん。これは、相当な手練れですね。この防御魔術が付与された鎧をこんなにするなんて……しかも見てくださいよ、この首の切断面、一振りでスパッと落とされてます」

 「いや、この鎧はジークがやったヤツだ」

 「え! これをですか! ジークさん! これ鎧が無かったら確実にこの人死んでましたよ!」

 「殺すつまりでやったからな。それより、アリサが連れ去られた事の方が重大だ、大丈夫なのか!」

 「それは、問題ありません! 使い魔で追っています。で、大事なのは人手ですが、誰か知り合いとか呼べますか?」


 ジークとノア達は首を横に振る。


 「そーですか。んー誰か居たかな〜? あ! 一人思い当たる方がいるので声かけして来ます!」


 レイシアは急いで街に戻って行く。


 「アリサ、頼む無事でいてくれ……クソッ」


 ジークが焦燥感に苛まれるのを見て、アルバートがなんとか安心させようと言葉をかける。


 「アリサなら大丈夫だ! だって、だって……僕たちが助けに行くからな!」

 「…………あぁ、そうだな」


 ジークはアルバートの言葉を聞き、少し落ち着きを取り戻す。

 

 「ノア、儂は武器を取り替えて来る。この武器じゃぁ、全力の力で振るえんからな」

 「そうか、分かった」



 ◇◇◇



 ジークが街に戻った少し後に、レイシアが二本の刀を腰に刺した銀髪の男を連れて来る。

 

 「こちらがSランク冒険者のヴォルフ・ルークさんです! とても強い人なので頼りになります!」


 ヴォルフの首にはSランク冒険者の証である、黒い白金プラチナのプレートを身に付けており、傷一つない青い鎧を身に纏う。


 「ノアだ、よろしく」

 「アイリスです。今回は協力お願いします」


 ヴォルフはノアとアイリスを睥睨し、鼻で笑う。


 「レイシアちゃん。コイツらが期待の冒険者? あんまりガッカリさせないでよ。見るからに雑魚っぽいけど?」

 「ヴォルフさん! やっぱ酔ってるんですか? ノアさんとアイリスさんはちゃんと――」

 「今は時間が無いんだ。俺たちの実力が知りたいなら一戦交えよう」

 「そうか! じゃあ、早速ッ」


 ヴォルフは刀を一本抜くと、ガラッと雰囲気が変わり殺気全開でノアに攻撃を仕掛ける。


 「――!」


 ヴォルフの攻撃を剣で受け止めるとノアの手に電流が流れ、少し怯む。

 その隙に、ノアの首を狙い攻撃する。

 

 【光球ディル・ポース


 首を狙った刀にアイリスの光の魔術が当たり、次に腕、肩、頭と順番に着弾し、ヴォルフの体制が少し崩れる。

 ノアがすかさず攻撃を仕掛ける。


 【剣技・双緋撃けんぎ・そうひげき


 上段から剣を振り下ろす、ヴォルフはもう片方の刀を抜き、ノアの攻撃を受け止める。

 剣を受け止めた後に二撃の衝撃が発生し、刀が下に下がる。


 【光の衝撃ポース・シュラーク


 光の粒子が1箇所に凝縮し一直線に発射され、ヴォルフの顔に直撃する。


 「なかなかやるじゃねーか。流石はレイシアちゃんが期待するだけの冒険者だな」


 アイリスの魔術が直撃した顔は傷一つなく、効いた様子も全く無い。


 「全く効いてないって感じですね……」

 「まぁ、落ち込むな。俺の闘気は防御面では他のSランク冒険者よりも別格なだけだ。で、依頼主は?」

 「武器を買いに行ってる」

 「武器? 依頼主も同行するのか? まぁいいか……コイツがバカやった冒険者か」


 ヴォルフは死体に気付いて、近寄り破損した鎧をじっと見つめる。


 「あ! ジークさん、Sランク冒険者の方に来てもらいましたよ!」

 

 レイシアが街から出てきたジークに声を掛ける。ジークは腰に妻の形見である無骨で赤い剣を携えている。


 「そうか、宜しくな。報酬は時間が惜しいから後払いになるがいいか?」

 「それは全然構わないが……アンタ龍殺しのか?」

 「いや……まぁ、昔の事だ」

 「謙遜すんなよ、あの鎧に付与されてる防御魔術はアイツには分不相応な代物だ。それを一撃で粉砕したアンタの実力は試さなくても分かる。よし、レイシアちゃん早速捜索始めようか」

 「あ、はい! そうですね。では、【出ておいでクーちゃん】」


 レイシアの前に魔法陣が現れて、そこから五体のブラックウルフが現れる。

 レイシアが一番大きい個体に乗り、ノア達が他の個体にそれぞれに乗る。

 アルバートはノアのお腹にしがみつく。


 「シーちゃんの下に向かって!」

 「ワン!」

 

  レイシアを先頭に北西に向かって走り出す。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る