胸キュン戦隊イケメンジャー2023 ~裏切りの戦士、ヤンデレブラック!~

無月弟(無月蒼)

第1話

 皆さんはご存じだろうか。悪と戦う、5人のヒーローの存在を。


 ここはある学校の校舎裏。 一人の女子を、悪者達が囲うようにして立っていた。


「おーほっほっほ! わたくしは悪役令嬢ですわよー! ヒロインをいじめますわよー!」

「えーん、やめてー!」


 悪役令嬢の魔の手が、ヒロインにのびる。しかしそんな中、 色とりどりのヒーロー達が現れた!


 ドンッ!


「お前、コイツに手を出してんじゃねーよ」


 壁ドンをする彼の名は、俺様レッド!


 クイッ。


「やれやれ、あんまり手間を掛けさせるな」


 顎クイをしながら冷たげな眼をするのは、クールブルー!


 ぽんっ。


「そういう所も可愛いけど、ちょっとやり過ぎかな」


 頭ポンをしながら爽やかな笑顔を浮かべるは、王子様イエロー!


「覚悟してよね、おねーさん♡」


 身を屈めた状態で上目遣い。幼く愛くるしくい、ショタグリーン!


「さあ、悪い子にはお仕置きをしないとね」


 凛々しい顔をしながら悪役令嬢をひょいとお姫様抱っこしたのは、女性メンバーの宝塚ホワイト!


「「「「「天下御免の胸キュン戦隊、イケメンジャー!」」」」」


 5人はいずれも、目を見開くほどのイケメン揃い。

 彼らは悪役令嬢からヒロインを守るために戦う、乙女ゲームの攻略対象キャラをモチーフにしたふざけた戦隊ヒーロー。 『胸キュン戦隊イケメンジャー』なのである。


 そしてもう一人。彼らをサポートするヒロインがいた。

 今回はそんな、ヒロインに悪の魔の手が迫る……。



 ◇◆◇◆



「あれ、ここどこ?」


 真っ暗な部屋の中で目を覚ました私は、キョロキョロと辺りを見る。


 私の名前は披露院桃子。このお話のヒロインで、普段はイケメンジャーのサポートしているんだけど、気がつけば見知らぬ部屋で眠っていたの。

 いや、部屋の中と言うかここは……。


「どうして私、檻なんかに閉じ込められているだろう?」


 そう。何故か私は鉄格子で作られた四角い檻の中に、閉じ込められていたの。

 この状況、どう考えても普通じゃないよね。いったい何がどうなっているの?


 ──ガチャ。


「おや、目が覚めたかな。俺のお姫様」


 不意に部屋のドアが開き、入ってきたその人を見て、息を呑んだ。

 私と同じ、高校生くらいの男子。そして注目すべきは、そのお顔だ。


「い、イケメンだ!」


 思わず声を上げる。

 さらさらとした黒髪に、どこか妖しい色気のある目。それは紛れもないイケメンだった。

 こ、この人格好いい。私は普段イケメンジャーの皆を見慣れているけど、彼らと比べたってひけをとらないよ。

 って、あれ? ちょっと待って。この人どこかで……。


「えっ? ひょっとして、黒彦君!?」

「思い出してくれた、桃子ちゃん♡」


 彼はニッコリと笑って、胸の奥がズキューンってなる。

 やっぱり、黒彦君なんだよね。


 黒彦君は、昔よく一緒に遊んだ幼馴染みなの。小さい頃から格好良かったけど、小学校の途中で転校していって、それから会っていないんだよね。

 けど、そんな黒彦君がどうして……まさか!?


「も、もしかして黒彦君が、私を閉じ込めたの?」

「ピンポーン。ちょっと眠ってもらって、その間にね。本当はもっとスマートに拐うつもりだったのに、ごめんね」

「どうしてそんなことを?」

「決まってるじゃない。桃子ちゃんはこれから一生、俺と一緒に暮らすんだから」

「ええっ!?」


 言っている意味が分からない。

 久しぶりに幼馴染みと再会したら、檻に閉じ込められて一緒に暮らすって、どういうこと。


「いや! やめてよ黒彦君。私、帰らなくちゃいけないの」


 恐怖を感じながらそう言うと、黒彦君の目付きが変わった


「帰る? それはイケメンジャー達の所へ行くと言うこと?」

「う、うん。そうだけど……って、どうして黒彦君がイケメンジャーのことを知ってるの!?」

「当然だよ。だって俺は、本当ならイケメンジャー6人目。ヤンデレブラックになるはずだったんだから」

「ヤンデレブラック!?」


 何それ! 初耳なんだけど!


「引っ越した後も、俺はずっと桃子ちゃんのことが好きだった。だから強くなって、イケメンジャーになっていつか君を迎えに行こうと思ってたんだ」

「えっ! 黒彦君、私のこと好きだったの!?」

「そうだよ。だけど俺は、イケメンジャーになることはできなかったんだ」

「どうして? 黒彦君、他のみんなと比べても遜色無いくらいのイケメンなのに」

「アイツらが悪いんだ。みんなして、好きな子を檻に閉じ込めるようなヤンデレは、教育上良くない。良い子のみんなに見せられないって言って。俺はそれに納得がいかずに、イケメンジャーを抜けた!」


 そんな理由!?

 あ、でも納得した。だって黒彦君には悪いけど、確かに教育上良くないものね。

 良い子は絶対見ちゃダメ!


「だけどもう、そんなことはどうでもいいんだ。だってこうして桃子ちゃんという、俺の女神を手に入れられたんだから」


 黒彦君はニコッと笑ったけど、これって喜んでいいのかな?

 イケメンから笑顔を向けられるなんて、普通ならキュンキュンするシチュエーションなのに。


 なんて思ったその時。


 ──バンッ!


「そこまでだ! お前の思い通りにはさせないぞ、ヤンデレブラック!」

「なっ! お前は!?」


 突然勢いよくドアが開いて入ってきたのは──


「お、王子様イエロー!?」


 黄色いコスチュームに身を包んだ、優しそうなイケメン。

 イケメンジャーの一人、王子様イエローたった。


「バカな、どうしてここが?」

「披露院さんが行方不明になったから、メッッッッチャ探した! こんな形で再会なんて悲しいよ、ヤンデレブラック」

「ああ、俺もだ。しかし、もし来るとしたらてっきり俺様系レッドか宝塚ホワイトだと思っていたが。さては作者、本家が王様戦隊なんてものを放送するから、こっちは王子様にしようって思ってコイツを寄越したな!」


 黒彦君のメタ発言は置いといて、睨み会う二人。


「好きな子を檻に閉じ込めるとか、はずかしくないのか!」

「何を言ってるんだ。例えばそうだな、大切にしているぬいぐるみがあったとする。なくさないよう、箱に入れて鍵をかけようって思わないかい?」

「あ、そう言われればそうかも。私、クマのぬいぐるみを宝箱に入れてるもん」

「え? 桃子ちゃんそれって、前に誕生日プレゼントにあげたあのクマ?」

「そう、それだよ!」

「まだ大切にしてくれてたんだ。嬉しいよ!」

「そりゃあ大事にするよ。懐かしいな~」


 すっかりまったりムード。だけどそこに、王子様イエローがツッコミをいれる。


「和んでる場合? ぬいぐるみ扱いされて平気なの?」

「はっ! そういえば」

「とにかく、彼女は返してもらうから」

「そうはいくか、王子様イエロー!」


 いよいよ戦いが始まる。そして先に動いたのは黒彦くん……ううん、ヤンデレブラックだった。


「くらえ必殺、檻ぶつけ!」


 ヤンデレブラックが両手で抱えたもの。それは私が入ってるのと変わらないサイズの、大きな檻だった……。


 って、ちょっと待って! そんな檻、どこから出したの!?

 そしてヤンデレブラックは、その檻を王子様イエローめがけて投げつける。

 大変、あんなの当たったら、大怪我しちゃう!


「くっ。ヤンデレブラック、檻の使い方を間違えてるよ!」

「知ったことか。俺と桃子ちゃんの邪魔をする奴は排除する!」

「そうはいかない──必殺、頭ボンボン!」


 劣勢かと思われた王子様イエローだったけど、必殺技が出たー!


 説明しましょう。『頭ボンボン』とは『頭ポンポン』とは似て異なる技。

 ボーンボーンって爆発しちゃいそうなくらいの攻撃を相手の頭に食らわせる、すっごい技なの。

 それを黒彦君こと、ヤンデレブラックがまともに受ける。


「ぐわぁぁぁぁっ!」


 相変わらず凄い威力。

 男同士の頭ポンポンはとても尊かったけど、ダメージは大きいはず。脳震盪を起こしたのか、頭をふらつかせながらバタンと倒れた。


「そんな……俺は桃子ちゃんと、一緒にいたかっただけなのに」


 これで終わった。だけど横たわる黒彦君を見ると、胸の奥がキュッて切なくなる。

 何だろうこの気持ち。彼のやったことは確かによくなかったかもしれないけど、不思議と悲しい気持ちが溢れてくる。


 そして王子様イエローは、私を檻から出してくれた。


「帰ろう、披露院さん」

「う、うん。でも、黒彦君は……」


 見ると黒彦君の頬を、涙が伝っている。


「俺が間違っていたのか。やっぱり、ヤンデレがダメなのか。ヤンデレは教育上良くない、ハズレ属性なのか?」


 ──っ! やっぱり、このまま帰るなんてできない!

 私は王子様イエローの側を離れて、黒彦君に駆け寄った。


「そんなことないよ! ヤンデレだって、立派なイケメン属性だよ!」

「桃子ちゃん……」

「そりゃあ、拐われて檻に閉じ込められたのは怖かったけど。ぬいぐるみ扱いされるのも嫌。でもヤンデレが出てくる漫画や小説を読んでると、怖いけど不思議な魅力があるの。この後どうなっちゃうんだろう。ヤンデレの彼にも、ちゃんと救いがほしいって。だからヤンデレは悪くない。黒彦君も、自分を否定しないで!」


 例え教育上良くなくても、仲が良かった幼馴染みのことを否定されたくはなかった。

 すると陰っていた黒彦君の目に、光が宿る。


「桃子ちゃん……ありがとう。それじゃあ俺はこれからも、君を拐って檻に閉じ込めてもいいんだね!」

「うんうん……って、え?」


 あれ、そうなるのかなあ? 私これからも、拐われちゃうの?


 疑問に思っていると黒彦君は、ひょいと飛び起きる。


「今回はここまでにしておく。だけどいつか必ず君を迎えに行くから、それまで待っててね。今度はぬいぐるみじゃなくて、ちゃんと人間扱いしたうえで、檻に閉じ込めるから」 


 結局閉じ込めるんかい!


「王子様イエロー、お前達イケメンジャーも覚悟しておけ。次ぎは絶対に負けないからな!」


 そう言って、黒彦君は去っていっちゃった。

 えーと、これって……。


「披露院さん、何やってくれたの。あの調子じゃヤンデレブラック、これからもイケメンジャーの敵として立ちはだかるよ」


 王子様イエローが、ジトッとした目で私を見る。


「あ、あはは……い、いいじゃないですか。だって裏切りの戦士なんて美味しいキャラですよ。1話で終わらせずに数話に渡って出した方が、盛り上がりますよ」

「それはそうかもしれないけど……。と言うかこのイケメンジャーシリーズ、まだ続くの?」

「当たり前じゃないですか。イケメンジャーは何故か毎年KACの度に書かれているシリーズ。KACが続く限り不滅です!」


 と言うわけで作者さん、今後もよろしくね。


「それでは皆さんまた来年。次回、『合体せよイケメンロボ!』でお会いしましょう!」

「ロボなんて出るの!?」


 To be continued ?

 KAC2024に続く?





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

胸キュン戦隊イケメンジャー2023 ~裏切りの戦士、ヤンデレブラック!~ 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ