北の聖女との協業

第21話 冒険者ギルドに行こう!

「ここがノースグレイスで一番大きい冒険者ギルドなの?」

「ああ、近くにダンジョンもあるし山にはドラゴンの巣があるって話だ」


 同じ辺境伯だから多少は交流があるとお祖父様には紹介状をいただいてきたけど、折角だから一般人の生活を見てまわりたいとチェスターさんとアレックスさんの二人でやってきていた。神獣のイリアステールもついているけど、周りからは三人に見えている。

 冒険者ギルドの出入り口を開くと、屈強な男たちが掲示板を眺めていた。待ち合わせでもしているのか、テーブルを囲んで話をしていたりする様子も見てとれる。物珍しさにキョロキョロと周りを見ながらカウンターに向かって歩いていると、アレックスさんがのんびりした様子で話しかけてきた。


「しかしお嬢も変わっていますね。こんな野郎ばかりのところなんて俺や隊長に行かせて、お嬢は素直にノースグレイス辺境伯の歓待を受けていればよかったんですよ」

「これから先の未来で重要な拠点となるところだし、冒険者たちの装備も見ておきたかったんです。あまり原始的な装備をしていたら、貴重な魔石採取要員がすぐ死んでしまうかもしれないし、心配じゃないですか」

「お前な、到着早々周りに喧嘩売ってんじゃねぇ!」


 私の百パーセントの本音にチェスターさんが注意を促してきたけど少し遅かった。ダンッと机に拳を叩きつける音と共に、私たち三人はあっという間に冒険者たちに囲まれていた。


「おうおう、小娘が言ってくれるじゃねぇか。どこの商会のお嬢様か知らねぇが、キツイお仕置きを……」

『サンダーボルト』

「「「アババババッ!」」」


 バタンッ……


「ふう、びっくりして神殿のお姉様を参考に組んでいた自動迎撃システムが作動しちゃったわ」

「しちゃったわ、じゃねぇ! どうすんだ、これ……」


 冒険者ギルドの広間に死屍累々と積み重なった冒険者たち。でも心配は要らないわ。


「大丈夫よ、神殿の防衛システムと違って気絶させるだけだから。そのうち何事もなかったように起き上がるわ。それより今のうちに受付を済ませてしまいましょう!」

「はあ、先が思いやられるぜ」

「まあまあ、チェスター隊長。こんなの冒険者ギルドでは日常茶飯事ですよ。むしろ、これで不用意に近づいてくる輩が減ると考えれば楽なもんです」

「それもそうか。まともな奴は最初から仕掛けてこないからな」


 チェスターさんとアレックスさんの言葉に周りを見渡すと、机でジョッキを傾けている人たちは我関せずといった風情で何事もなかったように振る舞っている。

 どういうことかと聞いてみると、ヴェルゼワースの家紋入りの剣と鎧を装備した一行に真正面から喧嘩を売ってくるなんて素人冒険者の証拠だと言う。


「辺境を守護するヴェルゼワースとノースグレイスの騎士の力量は他の貴族家とはわけが違う。ましてや俺たちの装備はどう見てもやばい魔剣だろうが」


 狐火で溶かされてしまったオリハルコンの魔剣。それをもう一度打ち直して仕立てた弱電のロングソードを掲げてみせるチェスターさんに、私は思わず首を傾げる。


「そんなに危険な魔剣じゃないです。さっきみたいに、少し電流が流れるだけですよ?」

「さっきのを少しというお前の感覚がおかしいんだよォ!」

「うーん、そんなものかしら……加減が難しいわ。まあ、それはおいおい覚えていくとして、今日は本題の魔剣のリース計画を進めましょう」


 そう割り切った私は、カウンターの受付のお姉さんをロックオンすると元気よく話しかけた。


「すみません、魔剣を貸与して見返りとして魔石を採取してもらう契約を交わしに来ました!」

「魔剣の貸与でございますか? ギルドで契約代行をするには貴族の紹介が必要となりますが……」

「あ、それは書状を貰ってきました。はい、これです」

「これはヴェルゼワース辺境伯の封蝋!? しょ、少々お待ちください!」


 受付のお姉さんは最初の落ち着いた様子から一転して脱兎の如くカウンターの奥に走っていった。


「あんなに急いで、どうしたのかしら」

「辺境伯当主直筆の手紙など持参したら、どこのギルド支部でもああなる。今時、家宝の魔剣を貸与する貴族なんていないからな」

「ふーん、そんなに大層な魔剣を貸すつもりはないんだけど大丈夫なの?」

「大丈夫だ。大抵の冒険者はお前が言うところの原始的な装備しかしていない」


 しばらくすると、カウンターの奥から禿頭の屈強な男性を連れて受付のお姉さんが戻ってきた。


「俺はノースウェスト支部のギルドマスターをしているガンドだ。西の辺境伯が家宝の魔剣を貸与してくださるんだって?」

「いえ、私が調整した演算宝珠で魔剣を作ったのでそれを使ってもらうつもりです!」

「ほう、その年齢で演算宝珠職人なのか。どんな魔剣を貸与するつもりなんだ?」

「それは、これから少しダンジョンに潜ってみて二人と相談して決めようかと」

「おいおい、威力も定まらないのに契約なんか……」

「ガンドさん、ちょっと待ってくれ。こいつが本気の魔剣を作るとこうなる」


 チェスターさんは最初に渡したヒヒイロカネとミスリルの合金をベースとした魔剣の鞘を抜いてガンドさんに見せた。バチバチと放電するその剣身は、紫色の光を放って超高速で振動している。


「こいつは……エンペラー級の魔石を三つも使ってやがる! それになんだこの魔法陣の展開規模……色々おかしいぞ、この魔剣!」

「こいつにちょいと魔力を加えるだけで、この建物はえらいことになる。どうだ、こんなのが流通しまくったら問題だろう?」

「ちょっと、チェスターさん。私は一度も本気の魔剣なんて見せて……モガモガッ」

「ははは、お嬢は虚言癖があるので気になさらず」


 アレックスさんに押さえ込まれる私を、信じられないものを見るような目で見つめるガンドさん。


「とにかく俺たちがごく一般的な魔剣になるよう注意するから、契約はそれができてから考えてくれ」

「ああ、よくわかった。ところでダンジョンに潜るなら冒険者ランクDが必要だ。ヴェルゼワースの騎士の二人はともかく、演算宝珠職人の嬢ちゃんは厳しくないか?」

「そんなことはないと思うんだが……アイリ、どうする?」


 ようやく解放された私は恨みがましくアレックスさんを睨みつつ、ガンドさんに冒険者ランクの目安について尋ねる。


「……Dランクの冒険者になるにはどうしたらいいんですか?」

「そうだなぁ、剣士なら試合。魔法使いなら魔法を的に撃ってもらって判断する」

「それなら魔法使いで登録します」

「おいおい、本気かぁ? じゃあ俺が直接判断してやるから、裏の試技場に来てくれ」

「わかりました!」


 私たちはガンドさんに案内されてギルドの裏庭にある試技場にやってきた。遠くに白い的が六つほど設置されているのが見える。


「おい、ガンドさんよ。俺としては、こいつに魔法を撃たせるような真似はやめておいた方がいいと思うんだが?」

「いや、駄目だ! ギルドは公正でなくてはならない。言っとくが、生半可な威力じゃ合格できないぞ。あの的には強力な魔法抵抗がかかっているからな!」

「わかりました、それでは全力で行きますね!」


 私は胸元の演算宝珠に魔力を流し異空間から百二十八個の演算宝珠を呼び出し、魔力を充填しながら各サブコアを同期させて上空に巨大な三次元魔法陣を描き出す。私を中心としてサブコアの演算宝珠が輝きながらゆっくりと周回するのに合わせて、上空の三次元魔法陣もゆっくりと回転を始める。


「こ、こいつはまさか伝説の!」

「行きますよ! 百二十八コア完全同期、最大出力! プロミネンス……」

「やめい!」

「アイタッ!」


 ズドドドドドーン!


 途中でチェスターさんに頭を小突かれて、集約されず中途半端な状態で散発的に打ち出された最上級魔法が試技場の的をまとめて薙ぎ払った。


「何をするんですか、お陰で威力が半減以下です!」

「それはこっちのセリフだ! お前は試技場を完膚なきまでに破壊するつもりか!」

「……いや、すでに破壊されていますけどね」


 アレックスさんの指摘に的の方に目を向けると、後ろの壁が崩れて風通しがよくなっていた。


「あれ? 強力な魔法抵抗はどうしたのかしら……」

「そんなの焼石に水だろ。それでガンドさんよ、Dランクの資格は取れそうか?」

「Dランクなんてもんじゃねぇだろォ! どこの世界に最上級魔法をぶっ放す駆け出し冒険者がいるってんだ!」

「だよな……俺もそう思っていたところだぜ」


 肩を竦めるチェスターさんを見て落ち着きを取り戻したガンドさんは、こちらを振り向いて合格を告げた。


「やったわ! 次はCランクに挑戦よ!」

「ダァー! お前ら二人と嬢ちゃんはギルマス権限で強制的にAランクからスタートだ! よって、もう試験はなぁーい!」

「ええ!? いけませんよ、ガンドさん! 公正なギルドはどこに行ったんですか!?」

「そんなものは幻想だ! それよりギルマスとしては試技場の修繕費を請求させてもらう!」

「そんな! 私は言われた通り全力を尽くしただけなのに!」

「ギルドマスターは時には汚い判断も下さねばならんのだ! さあ、出すものを出してもらおうかァ!」


 結局、試技場の修繕費は魔剣のリース契約で得る利益から差し引くことで決着し、私は無事にダンジョンに潜る権利を得たのであった。

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