13 エピローグ①

2020年5月15日17時30分 三重第三高等学校 校門



 校門前では皆が待っていた。

 そして、俺たちの凱旋に歓声が沸く。


 「皆さん無事ですか!?」

 「えぇ、皆のおかげで無事生き残ることができました」

 「よかった……」

 その場に力なく座り込んでしまう三森先生。


 「とりあえず本鈴まで時間もないですし、学校へ入りましょう」

 「そっ、そうですね」

 マサ兄の言葉で皆校門を潜っていく。


 そんな中、樋本君は涼介にお礼を言っていた。

 「う……乗せてくれてありがと」

 「いやいや、なんか顔真っ青だし、そもそもその腕で運転とか無理っしょ?てか、早く薬塗りな」


 樋本君の左手は痛ましいほどにただれていた。

 おそらく、能力の代償だろう。

 あんなになってまで発動していたのだから、とんでもない精神力だと思う。

 涼介に付き添われて校門をくぐる樋本君の姿を見送りながら、そんなことを考える。


 


2020年5月15日17時33分 三重第三高等学校 校庭



 本鈴と共に、世界の崩壊が始まった。

 いつもなら早々に校舎へ帰還する面子も、今日ばかりは固唾を呑んで見守っている。


 なぜなら、今回判明した新事実があるからだ。

 それは、何かを取り込んだクラゲは、クラゲマーカーに引っかからないということだ。

 消えたはずの雷マーカーが急増した理由……あれはクラゲがでんでん太鼓を取り込んだためであった。

 逆にあの時クラゲをマーカー表記していたら、どんどんと減っていたはずだ。

 つまり、クラゲは何かを取り込むと、取り込んだモノになるわけだ。


 ここでひとつ問題が生じる。

 もし予期せぬモノをクラゲが取り込んでいたら?

 そうなってしまうと、百々さんの能力ではマーカーとして出せないのだ。

 そして、それがまだマップのどこかに残っていたら、あえなく校舎消失ペナルティだ。

 そのため、皆校庭で待っているというわけだ。


 まぁ、大変便利な百々さんの能力だが、穴はあるということだな。


 

 そして、それらの事実が何を指し示すのか……。


 あの日……9組の女子たちはクラゲに取り込まれたのではないだろうか。

 油断したのかどうかは分からない。

 しかし、9組の女子たちは戦闘向きの能力を持っていたのだから、一人取り込んでしまえば、あとは何とでもなっただろう。


 そして、樋本君は……そのクラゲを燃やした。


 それならば青いマーカーが消えたのも、樋本君が一人で帰ってきたのにも理由がつく。

 では、なぜ彼はそのことを周りに伝えなかったのか?

 きっとケイトが言っていた、彼の悪癖というやつなのだろう。

 疑われるのを恐れたのか。

 説明しても信じてもらえないと思ったのか。


 いや、おそらくだが……。


 あの日上がった火柱は今までで一番大きかった。

 燃やしたのは、日ごろから自身に嫌がらせしてくる女子たちを殺したクラゲ。

 彼はそのクラゲに最大限の好意を抱いてしまったのではないだろうか?

 そして、それを負い目に感じている……。


 もしかしたら、ツッパリも含め4人を殺したのは自分だと思っているのかもしれない。

 4人の絵を額縁に飾っていたのは、絵を描く際に自分が殺した4人のことを忘れないためなのではないだろうか?


 考えてみれば、あの日以降、樋本君は変わった。

 自分が傷つくのも顧みずに、果敢にバケモノに挑むようになったのだ。

 それこそ、まるで死に場所を探すように……。


 いや、全ては俺の想像でしかない。

 だが、そこまで的を外してはいないのではないかと思う。


 視線の先では、ベンチに腰掛けた樋本君の左手に薬を塗る三森先生。

 樋本君は、顔を茹でだこのように真っ赤に染め上げ、小声でお礼を言っている。

 いざ色眼鏡を外して見れば、とてもじゃないが人を平気で殺すような人間には思えない。


 いつか彼の口から真実が語られる日は来るのだろうか?

 その時に俺たちはどう思うのだろうか?


 そもそもの話、俺は彼のことを何も知らないのだ。

 この2か月一緒に生活していたというのに。


 もっと積極的にかかわっていき、仲良くなっていれば、彼も自分から真実を話してくれたのだろうか?一人で抱え込むこともなかったのだろうか?


 皆で仲良くやっていこうと偉そうにケイトに言っておきながら、何というザマか。

 俺たちはお互いに命を預けて戦う、運命共同体ではないか。

 いつまで続くかすら分からない、この不条理な世界で共に戦う、仲間ではないか。


 いや、まだ遅くない。

 なにせ、世界が開く3時間33分を除けば、時間などいくらでもあるのだから。


 そうだ、まずは飯に誘ってみよう。

 それで色々と話をするのだ。

 他愛のない話でいい。

 学校生活の思い出や好きなバケモノ料理の話や、それこそ絵の話を振るのもいいだろう。

 もしかしたら、本人は嫌がるかもしれないが、ケイトや涼介と一緒なら多少はマシだろうか?

 それで彼に負担のない方法を考えればいい。

 なに、時間はたっぷりある。

 それに行動を起こさねば、何も変わらないのだ。


 崩れ切った世界を見つめながら、そんなことを考える。

 校舎には異変はない。

 幸いなことに今回は討ち漏らしはなかったようだ。

 一同はほっと胸を撫でおろし、思い思いに行動を開始する。


 俺はケイトに絡まれている樋本君の元へ向かうのだった。



 まぁ……血生臭いからとケイトに追い払われたんですが。

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