後編

 愛莉と山西がホテルに入って行ったのを目撃してしまった翌日。

 いつも通り楽しそうに談笑する三人を見て私は頭がおかしくなりそうだった。


 なんで愛莉は平然と佐藤君に笑顔を向けて笑っていられるのだろう。

 山西は親友の彼女とあんなことをしておいて、なんでいつもの様に馬鹿なんだろう。

 いや、馬鹿をしてられるのだろう。


 何も知らずに二人と楽しそうに会話する佐藤君を見て、この状況に耐えられなくなった私は、ちょっと怠いから、と言って三人から離れて、自席に戻って机に突っ伏した。


 愛莉はなぜ山西と?何か弱みでも握られたのだろうか。

 もしそうだったらなんで私に相談してくれなかったのだろう。

 昨夜から徐々に大きくなる愛莉と山西に対する怒りを感じながら、私はどうしたら良いかをずっと考えていた。


 初めは愛莉だけを呼び出して理由を聞こうと思ったけど、どんな理由があるにしろ二人が佐藤君を裏切ったことは変わらない。

 二人が真実を打ち明け、謝罪をするべきは佐藤君に対してで、私じゃない。


 佐藤君だけにこっそり教えようかとも考えたけど、彼の性格だと二人に真実を聞くのを躊躇って、苦しませる時間を長くするだけかも知れない。


 私だってこの一年間近く佐藤君と友達として付き合ってきて、彼が優しくて本当に愛莉の事を愛していることは知っている。


 だから、そんな佐藤君を何も知らないピエロのまま、いつまでも道化を演じさせることは出来ない。


 愛莉を応援して佐藤君に近づけたのは私だ。

 私には関係ない事だからって、知らない振りなんてできないし、それにこのまま私一人で抱え続ける事も出来そうにもない。


 私がこれからやろうとしている事は余計なお世話だろうか?

 今日で私たち四人の関係が全て終わることを充分理解した上で、私は今できる精一杯の笑顔を作って三人に言った。


「ねえ、昨日行けなかったから、今日の放課後カラオケ行かない?」


 ♢♢♢


 放課後、カラオケボックスの個室に入ってドリンクを頼んだ後に、今日は好きなアイドルの曲を全曲制覇するとはしゃぐ山西を睨みつけて黙らせた私は、覚悟を決めて三人に話があると切り出した。


「なになに?どうした?」といつもの様に空気の読めない山西と違い、私の表情から真剣な話だと察してくれた愛莉と佐藤君は、手に持った飲み物を置いて、真面目に話を聞く体勢をとった。


「愛莉さ、昨日先生に呼ばれたって言ってたけど、その後どうしたの?」


 私はふつふつ湧いて来る怒りを抑えながら、自分に冷静になれと言い聞かせて、昨日の放課後に見た事を順を追って説明した。


 最近愛莉の様子がおかしいと気が付いたこと。

 佐藤君以外の人とファミレスに入る愛莉を見たこと。

 昨日愛莉の後をつけたこと。

 そして愛莉と山西がホテルに入るのを見てしまったこと。


 私の話が進むにつれ、愛莉は俯いて黙りこみ、両手で顔を覆って肩を震わせる。

 山西は「いやっ、それは!」なんて言い訳をしようとしようとして、私が睨みつけると黙る事を繰り返す。

 佐藤君は......私の言っている事が、事態が呑み込めないのかずっとキョトンとした顔で私の話に耳を傾けていた。


「これが証拠......」


 私は昨日見た事を全て語り終えると、二人がホテルに入る瞬間を収めたスマホをテーブルの上に置いた。


 佐藤君が私のスマホを覗き込んで数秒後、山西が突然床に手を付き、佐藤君に向かって土下座をして謝罪の言葉を口にし始めた。


 黙って俯いていた愛莉は次第に肩を震わせ始め「ごめんなさい......」と小さく呟くと、大粒の涙を零し始め、うわー-んと声を上げて泣き始めた。


 そんな二人の様子を見て、本当は何かの誤解であって欲しいという微かな望みを打ち砕かれた私は力なく項垂れた。

 泣きたいのは佐藤君と私だ。


 愛莉と佐藤君をくっ付けて、佐藤君にこんな思いをさせてしまった責任は私にもあると思う。今、私にできる事も佐藤君に謝罪する事だけ。


「佐藤君......ごめんね」


 私がそう言って頭を下げると、佐藤君は、ごめんなさいと繰り返して大声で泣く愛莉と土下座をしたままひたすら謝罪を口にする山西を呆然とした顔で眺めていた。


 そんな状況がどのくらい続いただろうか。

 ずっとあっけに取られていた佐藤君がついに口を開いた。


「いや......怒ってないから」

「......へっ?」


 佐藤君が泣き叫んで飛び出していく事も想定していた私は、彼の意外な言葉に思わず変な声が漏れた。


 飄々とそう言った佐藤君の表情はいつもの彼のままで、確かに彼が怒っている様子は見受けられなかった。


 ああ、これは一番ヤバい奴かも。普段温厚な人が怒った時が一番怖いって聞いたことがある。

 たぶん佐藤君は怒りが振り切れて逆に冷静になっているんだろう。


 佐藤君の発言を聞いて、一瞬泣き止んだ愛莉と顔を上げた山西もたぶん私と同じことを思ったに違いない。

 愛莉は更に泣き崩れ、山西は床におでこを引っ付けたままひたすら謝罪を続けた。


「二人とも止めてよ。本当に怒ってないから」


 佐藤君が二人に向けて何度もそう繰り返すたびに二人はますます謝り続ける。

 佐藤君が助けを求めるように困った笑顔を私に向けて来たその時、終了時間を知らせるインターホンが鳴り響いた。


「あっ...と......時間も時間だし、佐藤君、全員が冷静になってからもう一度話し合えないかな?」


 今この状況だと一向に話が進まないし、一晩経てば佐藤君の怒りも少しは収まって冷静に話し合いが出来るかもしれない。

 私がそう佐藤君に告げると、彼もこの状況から早く逃げ出したいのか、了承してくれた。


 その瞬間、山西は恐ろしい速さで立ち上がって部屋から出て行き、私は未だに泣き続ける愛莉を無理やり引っ張ってカラオケ店を出ると、近くの公園に入って彼女をベンチに座らせてから、自販機であったかい紅茶を買ってきて渡した。

 暫くヒックヒックとべそをかいていた愛莉だけど、紅茶を飲んで少し落ち着いたのか、こんな事になった原因を問う私に少しづつ答え始めた。


 結論から言えば愛莉がバカだったのと、愛莉の断れない性格に付け込んだ山西が卑怯なだけだった。さっきも真っ先に逃げたし。


 事の始まりは今年一月初旬の休日だったらしい。

 二週間後に控えた佐藤君の誕生日プレゼントを買おうと一人で町に出た愛莉だったけど、佐藤君が何を喜ぶか分からず困っていたそうだ。

 私に相談してくれればって思ったけど、私じゃ力になれそうにない事は愛莉も承知していたらしい。


 で、そんなときに運悪く友達と遊びに来ていた山西にバッタリと出会ったそうだ。

 愛莉の事情を知った山西はその場で友達と別れて愛莉のプレゼント選びに付き合ってくれたらしい。


 無事に佐藤君のプレゼントを買うことが出来た愛莉は、山西にお礼をしたいと言った。お礼といってもカフェでコーヒーを奢ることくらいを想定していた愛莉に、山西はカラオケに付き合って欲しいと言って彼女をカラオケに連れて行き、そこで山西にキスをされたそうだ。


 初めは抵抗したけど、友達と遊んでいた山西にわざわざ付き合ってもらった引け目もあり、半ば強引に迫って来た山西に抵抗しきれなかったらしい。


 その後、山西は執拗に愛莉を誘ってくるようになり、すでにキスをされてしまった事で佐藤君にも私にも相談できず、段々要求が過激になっていく山西に流されていつの間にかそういう関係になってしまったそうだ。


 何事も受け身で押しに弱い愛莉と、能天気でエロの権化のような山西は、愛莉にとって相性が最悪だったと言ってもいい。


 ただ、佐藤君が愛莉に一切手を出してこない事を彼女が悩んでいて、私も少し相談されたことがあった。


 私もそんな経験が無かったし、人それぞれペースがあるんじゃないかと思って、あまり気にしない様に言ったけど、彼女にしてみれば自分に魅力がないんじゃないかと結構本気で悩んでいたそうだ。


 ここからは私の勝手な想像だけど、そんなタイミングで山西に強く迫られて、愛莉も心の何処かで嬉しかったんじゃないのかとも思うし、一切手を出してこない佐藤君への当てつけも少しはあったんじゃないかと思う。


 二月の終わりには愛莉と山西はそういう関係になっていたそうで、何度も今日で最後って断ったけど、結局山西に誘われるままズルズルと関係が続いていたらしい。


 私がファミレスに入って行く愛莉を見たときも、ホテルの帰りだったそうだ。

 だから私が春休み前に愛莉の変化に気が付いた時には既にどうしようもなかった訳で、私としてはもっと早く愛莉の変化に気が付いてあげればって悔やまれる。


 まあ、しでかした事を今更色々考えても後の祭りだし、二人とも悪いのは変わらない。

 明日はどんな話し合いになるか分からないけど、今日の佐藤君の様子から、彼が言った”怒っていない”と言うのは、もう怒るのを通り越して二人を赤の他人と考えているのかも知れない。


 愛莉は事の顛末を語ったあと、佐藤君と別れたくない、好きなのは彼だけ。なんて私に何回も訴えて来たけど、私に言われても困るし、それにもう愛莉と佐藤君の仲を取り持つつもりも無かった。


 大好きな彼女が親友と浮気していた事実を彼が許す事は無いだろうし、佐藤君とバカな二人の関係は修復不可能だろう。

 愛莉が今、佐藤君の為に出来る事は、真実を話して彼の望むようにすることだけだろう。

 冷たいようだけど、それだけのことをしたんだから。


 私はその後、愛莉を駅まで送り届けてから家に帰った。

 夜遅くになってから、愛莉と山西からこれからどうしたら良いか助けを求めるメッセージが届いたけど、二人とも自業自得だ。私は二人のメッセージを無視して布団に潜り込んだ。


 当然眠れる訳もなく、次の日は寝不足だった。


 ♢♢♢


 翌朝、眠たい目をこすりながらもいつも通りに登校した私は、教室の入口で大きく深呼吸してからドアを開けた。


 愛莉と山西はまだ来ていなくて、「おはよう!」と言って最初に挨拶してくれたのは佐藤君だった。


 驚いたことに佐藤君の様子はいつもと全く変わらず、寝不足のような感じもしないし、顔色もいつも通り健康そのものだった。

 一瞬、昨日の事は夢だったんじゃないかと思ったけど、辛うじて佐藤君に挨拶を返すと、そそくさと自分の席に着いた。


 次に登校してきたのは愛莉で、おずおずと教室に入ってくると、何も言わずに自分の席に着いた。

 顔色も悪く、未だに目の周りが腫れぼったく赤くなっていて、昨日あれからもずっと泣いていたんだろう。


 愛莉は佐藤君が既に登校しているのを確認すると、彼からサッと顔を反らして俯いた。が、驚いたのは次の瞬間だった。

 愛莉が登校したのを見た佐藤君は、すたすたと愛莉の所まで歩いて行き、いつも通り普通に「おはよう!」と、元気に挨拶したのだ。

 愛莉も彼が声を掛けて来るなんて思ってもいなかったのか、驚いたまま固まってしまったけど、私も当然驚いた。


 もしかしたら佐藤君は壊れてしまったんじゃないか。

 昨日の事を心が受け入れられず、彼の中で全てなかったことになっているのでは?


 私は、更に愛莉に話し掛けようとする佐藤君の所に慌てて駆け寄って、詳しい事は放課後にしようと伝えると、彼は不思議そうな顔をした後、分かったと言って自席に戻って行った。


 こんな所で揉めたり、また愛莉が泣き出しでもしたらクラス中どころか、学校中の噂になってしまう。


 そうして暫くすると、昨日真っ先に逃げた山西が遅刻ギリギリに登校してきた。

 奴は佐藤君から隠れるようにこそこそと自席に向かったけど、佐藤君が山西に声を掛けようと立ち上がったのを見た私は、さっきの愛莉の時と同じように慌てて佐藤君を止めに入った。

 そして、放課後に別棟の空き教室に集まって欲しい事を三人にメッセージで伝えた。


 私の言う事を理解しているという事は佐藤君は昨日のことを分かっているはず。

 なのになぜいつも通り平然としてるのか。


 私はこの時初めて佐藤君に違和感、というか少し恐怖を感じた。


 ♢♢♢


 お昼は久しぶりに愛莉と二人だけで食べた。

 愛莉は朝の佐藤君の反応を見て、ワンチャンあると思ったのか、幾分か元気を取り戻していた。

 そんな事を考える暇があるんだったら、心から反省して欲しいところだ。


 私は佐藤君が愛莉や山西に声を掛けたりしないか一日中目を光らせ、クタクタになりながらやっと放課後を迎え、愛莉を連れて待ち合わせの空き教室に向かった。


 四人が揃い、気まずい沈黙が流れた後、私が愛莉を促すと、愛莉は小さい声で謝罪の言葉を繰り返し、それに釣られて山西も、土下座こそしなかったが佐藤君に謝罪を述べた。


 そしてその後は、愛莉が昨日私に話してくれた内容を佐藤君に説明し始めた。

 細かい部分は多少山西の証言と食い違う部分もあったけど、半べそをかきながらも愛莉が語った内容はおおむね間違いなさそうで、全てを語り終わった二人は再び佐藤君に頭を下げ、もう二度と二人で会うような真似はしないと誓った。


 まあ、二人が自発的に出来る事と言えば今はこれくらいだろう。

 後は佐藤君が下す審判を黙って受け入れるだけ。


 こんな事で佐藤君が許すとは思えないけど、彼の性格からして、二度と自分に関わるなって事で一旦は決着がつくのではないかと予想した私は、佐藤君が口を開くのを待った。


 だけど私の予想は間違っていた。


 頭を下げる二人を苦笑して見ていた佐藤君は、


「だから、僕は何にも怒ってないから謝る必要なんてないんだけど」


 と、いつもの優し気な笑顔で言ったのだ。


 愛莉と山西は再びキョトンとしていたけど、私は昨日や今朝の佐藤君の様子を見て、何か違和感を感じていた。


「......佐藤君さ、怒ってないっていうけど......本当......に?」


 私の問いに佐藤君は大きく頷いて、驚きの発言をしたのだ。


「うん。だって愛莉と山西が二人きりで会っている事は前から知ってたし」


 その発言に愛莉も山西も目を見張ってぽかんとしている。

 私も驚いたけど、もし佐藤君が知っていたのなら、昨日からの彼の態度も理解は出来ないけど納得出来る。


「......知ってた......の?」

「知ってたよ」

「知ってて.......何で?」


 知っていながらなぜ止めなかったのか、何も言わなかったのか、なぜ注意しなかったのか。


「だって愛莉と山西が楽しくて自分達がやりたい事をやっているのに、僕に止める権利なんてないよ」


 権利?権利ってなんだ!


「権利って......あんた愛莉の彼氏でしょ!」

「そうだよ。彼氏として、親友として二人が楽しんでるのを見ていて僕も嬉しかったし」

「......嬉し......かった?」

「うん、だから愛莉さえよければこれからも僕の彼女でいて欲しいし、山西にも君にも今まで通り友達でいて欲しいと思う」

「......」

「あっ!もちろん二人きりで会うななんて言わないよ。今まで通り愛莉と山西には仲良くしてもらいたい」


 佐藤君はいつもと変わらない優しい笑顔で私たち三人にそう告げた。

 頭が付いてこなかった。佐藤君の言った事を理解しようとしても、全然心に入って来ない。


 佐藤君の様子から仕返しとして言っているんじゃない事は分かる。


 私の中の常識でかろうじて思ったのは、佐藤君は愛莉の事なんて本当はどうでもいいと思っているんじゃないかってこと。

 じゃなきゃ、自分の彼女に今まで通り他の男に抱かれていいなんて言えるはずない。


 愛莉も同じことを感じたらしく、大きく見開かれた愛莉の瞳から大粒の涙がぽろぽろと零れだした。


 さすがの山西も理解できないらしく、親友だったはずの佐藤君を驚愕の目で見ていたけど、こいつはどうでもいい。今すぐそこの窓から飛び降りて欲しい。


「だからこれからも僕の彼女で居て欲しいんだ」


 曇りのない優しい笑顔で愛莉に手を差し出した佐藤君を見て、私は心から怖いと感じた。


 ♢♢♢


 今回の事は四人の秘密ってことで、絶対に他の人にバレる事が無いように皆で確認した。山西も親友の彼女を寝とったなんて噂されたくないだろうし、愛莉も同じだ。


 唯一心配なのがそもそも彼女を寝取られたという認識が無い佐藤君だけと言うのは私的に理解できなかったけど、元々山西以外の友達もそんなにいない佐藤君なら大丈夫だろう。


 そして、その翌日から佐藤君は愛莉にも山西にも私にも今まで通りに接してきた。


 愛莉はあんなことを言われても、佐藤君の事が好きで別れたくないらしい。


 だけど、何事もなかったように今まで通りに接してくる佐藤君を見ると心苦しいらしく、佐藤君がいると俯いて縮こまって憔悴しているのが分かるし、見ているこっちが苦しくなる。


 徐々に元気が無くなっていく愛莉を見て、さすがに佐藤君も愛莉が苦しい事に気が付いたらしく、数週間後に「愛莉が僕といても楽しくないなら別れよう」と言い出した。

 すると、今度は愛莉が絶対別れたくないと言って泣き出す。

 その時の佐藤君は本当に困っていた。


 私は別れた方がいいと愛莉に忠告したけど、彼女は頑として聞き入れなかったし、私も二人の事については理解不能だし、もう余計な事......佐藤君に関わりたくないと思っていたので、半ばやけになってどうにでもなれって思って放置した。


 山西も自分の親友がこんな男だったとは思ってなかったらしい。

 お調子者でガキっぽくてエロくて、親友の彼女を欲望のままに寝取る、人として最低な奴だけど、さすがに佐藤君の事を気味悪いと思ったのか、佐藤君から距離を取り始めた。


 奴も人並みに罪悪感はあるらしく、今まで通り普通に接してくる佐藤君にかなり居心地が悪いのか、今までのような能天気な明るさは影を潜めた。


 もちろん山西もあれ以降は愛莉に手を出すような事はしていない。


 佐藤君に「最近愛莉が元気ないから山西が遊びに連れて行ってくれないか?」って本気でお願いされて逃げ出した山西を見て、ざまあみろと思ったのは内緒だ。


 私は愛莉とは今まで通り付き合っている。

 しちゃいけない事をした彼女の事を今も心から親友って思えるかは微妙だけど、私には彼女が今も罰を受け続けているように見えたし、彼女がちゃんと反省して今度は間違わない様に、出来る範囲で見守ってあげたいと思う。


 山西とはあまり関わりが無くなった。

 あのエロい視線を向けられることが少なくなってすっきりしたし、愛莉も同罪だと分かっていても、押しに弱い彼女を強引に誘惑した奴を許す気にはなれない。


 佐藤君とは......一応普通に接しているつもりだ。

 もちろん今まで通りの距離感で接する事は無くなったけど、話しかけられれば普通に会話するようにしている。


 だけど私はやっぱり佐藤君が怖かった。


 あれ以降も佐藤君が愛莉を心配したり、気に掛けたりしてるのが、とても形だけの態度とは思えなかったし、彼の愛莉に対する愛も嘘だと思えなかった。


 もし愛莉が別れたいと言ったら彼は喜んで別れるだろう。それが愛莉の望むもの、幸せだと思うなら。


 だから愛莉があんな間違いを起こさなければ、彼女は今も幸せだったに違いない。



 愛莉が体調不良で休んだある日のこと、私は佐藤君が愛莉の机を見て心配そうな顔をしているのをたまたま目にした。


 心から心配しているような佐藤君に、改めて得体の知れない化け物を見てしまった気がした私は、心底佐藤君が怖くなって慌てて彼から目を逸らした。



 完

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佐藤君は神か悪魔か マツモ草 @tanky

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