第12話

 あれから3年の月日が経っていた。


 神音は心の平静を取り戻すために苦しみ入院と退院を繰り返していたが、ようやくコブシの花が咲くころ、ようやく復帰コンサートに開催に至ることが出来た。

会場には麗歌も来ていた。

(お父様、マミー、どうかお兄ちゃまをお守りください)


シャミナードが始まった。


第一楽章 森の精

第二楽章 牧神

第三楽章 水の精


 それぞれのパートが神の音のように美しく盛り上がり交響楽が演奏を終えた。素晴らしい歓声と拍手で包まれた。

 アンコールに応えてグルーンスリーブスが独奏され、誰もがその響きの美しさに涙した。


「お兄ちゃま、もう最高。涙が止まらないわ。シャミナードの曲をこんなに美しくフルート曲に生まれ変わるなんて。お兄ちゃまこそ牧神だわ。そして」

麗歌は続けた。

「グリーンスリーブスは、神の音色だったわ」


 あの日詩織ともみ合った末に刺されたのは牧田だった。詩織は動転してその場を逃げようとしたが思いとどまって救急車を呼んでいたが、牧野の意識が戻ることは無かった。詩織は東京駅まで来ると神音の姿を探し、一言告げるとどこかに消えるようにいなくなった。

その後消息は知れない。


 楡屋敷ではグリーンスリーブを静かに奏でる神音の姿があった。

彼の繊細な心を癒せるものは音楽以外なかった。

両親が亡くなった時も。詩織が姿を消した後も。


インターホンが鳴った。

「私よ。お兄ちゃま、いるでしょう」

フキが門を開けると、麗歌が入ってきた。


 観ると後ろに一人の少女を連れている。

白い襟に緑色のワンピースが神音の目に入った。

「沙織ちゃんよ」

小鹿の様な目をした少女がそこに佇んでいた。






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