土屋 愛の策略

第23話

 私はずっと、森本くんに謝る機会を探していた。



 1週間くらい前の数学の授業中、私は彼を凝視した上に鼻で笑ってしまい、彼を不快な気持ちにさせてしまった。

 その事実に気がついた日から、私は彼に謝ることのできるタイミングを探っていた。


 最初は、簡単に謝ることができると思っていた。

 なんて言ったって、彼は私の隣の席に座っているのだし、機会を作ろうと思えばいくらでも作れると考えていた。


 しかし、彼に謝ることは、想像以上に難易度が高いことだった。

 リアルの私と彼には、接点がどこにもなかったからだ。


 学校にいる時、私は常にクラスメイトに囲まれているし、1人でいる時間がほとんどない。

 森本くんも放課後はすぐにどこかへ行ってしまって、行動に隙がない。


 私と彼はまったく違ったタイプの人間であり、普段考えていることも、所属しているコミュニティも、全然違う。


 いざこうなってみて、改めてそれを実感した。

 

 たった一言、彼に「ごめんなさい」を言いたいだけなのに、私と彼との距離はあまりにも遠かった。

 すぐ隣にいるのに、その一言はいつまでも言えなかった。

 


 

 そんな矢先、誰も友達のいなかった彼に、妙に親しい人物ができた。

 その人物の名は、石田なつみさん。


 石田さんとは、私もクラスメイトだった。


 ただ彼女とはあまり話したことがなく、また彼女も積極的にクラスに関わろうとしない子で、彼女がどんな子なのかいまいちよく分からなかった。


 そんな彼女と、森本くんがずいぶんと親しげにしている様子を何度か目撃してしまった。

 それはまるで、10年来の友人かのようだった。



 私は動揺した。

 森本くんに石田さんという彼女ができたのではないか、と。

 この完全無欠完璧美少女である私が、出し抜かれたとではないか、と。


 だからゲーム通話をしている時に、TSUKAくんに問い詰めた。

 するとTSUKAくんは、彼女なんてできていないと主張してきた。


 私はほっと胸を撫で下ろしたが、危機感は依然として拭えなかった。

 私は、異性間の友情なんてものは存在しない、と思っている。


 たとえ今は恋人関係ではなくとも、森本くんと石田さんがいずれ恋人関係になってしまう可能性は、十二分にあると考えていたのだ。



 だから私も、うかうかしていられなかった。


 森本くんと親密になりたいと思うなら、まず私は彼の誤解を解くことから始めなくちゃいけなくて、多少強引にでも早急に彼の誤解を解きたかった。



 そして私が思いついたのが、体育祭の借り物競走を利用して謝ってしまおうという策略だった。


 借り物競走は、箱の中からお題の書かれている紙を1枚取り出して、そのお題に添った借り物を用意して走る競技だ。



 私はあらかじめ『謝りたい人』という紙を忍ばせて借り物競走へと臨み、箱から紙を取り出すふりをして、自分が用意した紙をお題とすることにしたのだ。

 

 だから競技が始まる前から、私のお題は『謝りたい人』と決まっていたし、借り物に選ぶ人物も森本くんと決まっていた。


 なので彼には借り物競走を見にきてもらう必要があったし、そこはaiの力も借りてなんとかした。


 すべては森本くんに謝るために。

 その目的を果たすための、この策略だった。




 ——そしてもし策略が成功すれば、それだけで終わるつもりもなかった。

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