五線譜の墓標

岸亜里沙

五線譜の墓標

これは、ノルウェーのベルゲンという街に誕生したあるメタルバンド、『Devil in God』というバンドグループが引き起こした、前代未聞の事件です。


このメタルバンドは、悪魔崇拝や宗教批判などの過激な曲で注目を浴び、強烈すぎるライブパフォーマンスが度々問題となっていました。

しかし、その疾走感あるパワーメタルに魅了されたファンたちは、彼ら『Devil in God』を熱烈に支持しました。


事件が起きたのは、2007年の2月21日。

その日、彼らはノルウェーの首都、オスロの郊外にある小さなライブハウスでパフォーマンスをしていました。

狂信的とも言える『Devil in God』のファンたちが集まり、ライブは熱気と興奮に溢れていました。


ライブ開始から40分程が経過した時、ボーカルのバンスが唐突に、ファンにこう語りかけました。


「お前らはオレたちの信者だ。そうだろ?」


ファンたちは、バンスの言葉に大歓声で答えました。

そして、バンスは更に続けました。


「今夜、オレたちは伝説になる。オレたちと共に地獄へ来たいヤツはいるか?」


ファンたちはまた大歓声で答えました。


「なら、ついてこい。この曲をお前たちに手向たむけてやる」


そして彼らの最新曲、『Road to Hell』の演奏が始まると同時に、スモークが焚かれファンたちは大絶叫したのです。



しかし異変が起きたのは、そのすぐ後でした。観客たちが急にもがき始めたかと思うと、次々と倒れ始めたのです。

観客だけではなく、バンドメンバーであるベースのグリアンも倒れ、ギターのキールも次々と倒れていきました。そしてドラムのベルバトフも前のめりに倒れました。


会場の全員が倒れる異様な情景の中、ボーカルのバンスは歌い続けていましたが、しかし途中で膝から崩れ落ちると、激しく痙攣し始めたのです。

数分もしない内に、会場の誰もが意識を失ってしまいました。



翌日、関係者からの通報により、駆けつけた救急隊員と警察が見たのは、折り重なり倒れた観客たちと、ステージ上で倒れたバンドメンバーたち。そして舞台袖では、待機していた会場スタッフまでもが倒れていたのです。

死者の数、636人。

その様子はまるで地獄絵図だったそう。



警察の調査で判明したのは、ライブ中に焚かれたスモークの中に、猛毒のVXガスに似たような成分の有毒物質が含まれていたらしいとの事でした。

当初、警察はイスラム国などによるテロ攻撃かと考えたそうですが、数日後に驚愕の事実が判明しました。


それはバンドメンバーの楽屋にあったUSBの中に、ボーカルのバンスが残したメッセージが残されていたのです。

以下、その内容になります。



「俺たちは明日、地獄へと旅立つ。ファンを道連れにしてな。この腐った世の中から、おさらばするんだ。そして俺たちは伝説になる。最高の演出だと思わないか?死を取り入れたパフォーマンス、斬新だろ。このメッセージが読まれる時、俺たちはもうこの世にはいないだろう。大々的に報じてくれ。これは音楽を通した、俺たちからのメッセージだ」



その後の調査で、『Devil in God』のメンバー全員が鬱病を患い、治療をしていた事も判明しました。


この事件の全容は、観客を巻き込んで、バンドメンバー全員がライブ中に自殺するという、近代音楽が引き起こした、最大級の殺人事件だったのです。



その昔、ハンガリーで発表された『暗い日曜日』という曲を聞いた人たち、数百人がその陰鬱な歌詞と曲調により、この曲を聞いた直後に自殺をしたそうです。


音楽とは、我々に死を迫る事があるのかもしれません・・・。








This novel is fiction.

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五線譜の墓標 岸亜里沙 @kishiarisa

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