第24話 使う

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ああ・・っ!」


 俺の意識は球から、ああ・・へ移った。


 俺の魔力玉による球への包囲が消えた。


 その瞬間、球は脱兎のごとく口を開けている茎の切り口に飛び込んだ。


 俺に圧縮され削られていたために球は茎の直径より小さくなっていた。


 球は速度を落とさずに茎内を進むことができた。


 ぐるぐる回りながら球はコアを目指している。魔界へ逃げ帰ろうというのだろう。


 このまま茎の上に立っていれば球は俺の足の下を通り抜けてコアへ飛び込むはずだ。


 その前にコアを破壊せねば。


 ああ・・が撃たれた傷口を抑えて床でのたうった。


 俺はコアを破壊すべく『首絶ちクリティカル』を放とうとした。


 コアに巻き付いていた茎が俺の邪魔をするように起き上がった。


 見えていたコアは茎の陰に隠れて見えなくなった。


 コアへの『首絶ちクリティカル』の動線がない。


 球は起き上った茎の中を迷いなく進んでいる。


 自分で茎を動かしているのだとしたら当たり前か。


 床でのたうっていた、ああ・・が仰向けに止まって動かなくなった。


 胸は上下しているので死んではいない。


 球による、ああ・・への攻撃は絶妙な致傷具合だ。


 即死はさせず致命傷でもなく、すぐに適切な治療をすれば間に合うと思える塩梅だった。


 但し、一瞬の遅れが手遅れにつながる。


『仲間が死ぬぞ』


 球がご丁寧にも俺の頭の中に煽りを入れた。


 ああ・・か球か?


 どちらをとるか悩むまでもなかった。


 ああ・・だ。


 そもそもそのためにダンジョンへ潜った。


 クソっ! 俺は未熟だ。戦闘中に相手から意識を放すなんて!


 俺は、ああ・・に向かって駆けた。


 心の優位を取り戻した球が俺を嘲笑いながら茎を通り抜けコアへと飛び込んだ。


 俺は、ああ・・の脇にかがみこんだ。


 ああ・・の腹には、ぽっかりと大穴が開いてとめどなく血が流れ出していた。


 ああ・・は目を閉じてしまっている。


ああ・・!」


 俺は、ああ・・に声をかけた。


 ああ・・がうっすらと目を開けた。


「ポチ、無事だったか」


 ああ・・は、この期に及んでもまだ俺の心配をした。


「怖がんねえでいいだ。おらが助けてやるだよ」


 馬鹿、無事じゃないのはそっちだ。


 ああ・・は身を起こそうとしたが、もちろん起き上がれない。


「寝てろ。怪我してんだ」


「そうか。そうだな、こんな傷ちょっと寝たらすぐ治るだよ」


 ああ・・は再び目を閉じた。意識を失った。


 俺はリュックサックを下ろした。とにかく回復薬を。


 その時、ダンジョンコアが砕けた。


 魔界側から逃げ込んだ球の魔族が砕いたのだ。


 途端に茎が萎れて枯れた。


 ダンジョンがぐらりと揺れた。


 今にも崩れ出し生き埋めにされそうだ。


 過去にコアを破壊されたダンジョンは、ゆっくりと消滅に向かったという報告がある。


 だが、少なくとも今回は違うらしい。もっと性急そうだ。


 俺はリュックサックから『帰還』の巻物を取り出した。


 ああ・・をしっかりと強く抱きしめ『使う』という意思を込めて巻物を開いた。


 巻物は込められていた魔法の力を発現した。


 球の魔族の嘲笑の残響が俺の頭の中でこだましていた。

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