第14話 閉鎖扉

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「スタンピードだぁ!」


 聞こえた瞬間、俺は部屋を飛び出し声の主の元へと走り出した。


 ギルドマスターと担当職員も後をついてくる。


 声の主がいるのは探索者ギルドの受付の前だった。


 ああ・・と一緒にミスリルスライム遭遇確約ツアーに行った案内人の男である。


 男は受付のカウンター前にへたり込んで、ぜいぜいと荒く息をしていた。


 その様子から全速力でここまで駆け続けてきたのだろうという状況が察せられた。


 スタンピードという言葉を聞いた観光客たちが我先に逃げ出そうとして辺りはごった返していた。


 ギルドの職員たちが緊急時のマニュアルに従い何とか観光客たちを安全に誘導しようと試みている。


「何があった?」


 ギルドマスターが、へたりこむ男に詰め寄った。


「地下六階へ降りる階段の扉が下から破られました。奥で見たこともない数と種類の魔物がひしめいています」


 男は絶え絶えの息の中、何とかそう口にした。


「まだ地上には出ていないのだな。閉鎖扉へいさとびらは?」


「閉じている途中です」


 一般的にダンジョンは開口部が横穴であるタイプと縦穴であるタイプに二分される。


 横穴式は山に対して横から入っていくタイプ。縦穴式は地面に対して降りていくタイプだ。


 どちらの場合も万が一のスタンピード発生の可能性を考え人工的に入口を閉鎖するための巨大な扉が設置されている。


 発見されたばかりの、まだ新しいダンジョンの場合は簡易的なバリケードがあるだけだが、ここのように歴史のあるダンジョンの場合は入口を完全に閉鎖できるような扉が必ず整備されていた。


 新しいダンジョンの場合も内部の調査と並行して必ず入口には完全閉鎖式の扉が最優先で整備される。


 横穴式の場合は入口の前に巨大な門と観音開き式の扉と閂。


 縦穴式の場合は入口の横の地面に巨大な蓋となる扉が置かれていて万が一の場合には巻き取り機で扉に結ばれた綱を巻き取って扉をスライドさせダンジョンに蓋をして閉鎖する。


 縦穴の入口が大きすぎる場合は事前にスライド式の巨大な扉で入口を閉鎖しておき蓋の一部に人が通れる大きさの小さな扉を別に設けて普段はそこから出入りできるような構造としている。


 横穴式であっても二重扉方式にする工夫は同じだ。


 観音開きの巨大な扉に、さらに小さな人が通れるサイズの扉を設けている。


 ここのダンジョンの場合、入口は完全な縦穴式だった。


 開口部もそれほど広い穴ではない。


 せいぜい十メートル四方だ。


 だから、縦横二十メートル四方の鉄板と木組みで作られた巨大な四角い扉が、いざという時にダンジョンの蓋となるよう縦穴の脇に置かれていた。二重扉方式ではなく一重式だ。


 扉は入口の上下に敷かれたレールの上に載せられレールの左右には巻き取り機、巻き取り機と巻き取り機に挟まれる形で入口の穴と扉がある。


 どちらか一方の巻き取り機を動かして綱を巻けば扉がスライドして穴を塞ぎ、もう一方の巻き取り機を動かせば穴が開放される仕組みだ。


 ダンジョンの入口に蓋をしてから蓋の上に、さらに様々な物を重りとして載せれば下からどれほどの魔物の突き上げを喰らっても簡単には蓋は外れない。


 横穴式より縦穴式の入口の方が閉鎖は頑丈にできるとされていた。


 ギルドマスターが口にした閉鎖扉とは、そのようなスタンピード対策の扉である。


ああ・・は?」


 男に俺は訊いた。


 男は顔をゆがめながら俺に応じた。


「地下六階へ降りる階段の扉を抑えさせた」


「置いてきたのか!」


「こんな時、盾になるのが、あいつの仕事だ」


 言い訳するように男は言った。


 働かざる者食うべからずだよ、と言っていた、ああ・・の言葉が思い起こされた。


 性格上、自分の仕事を、ああ・・まっとうしようとするだろう。


 俺は案内人の男を殴りつけた。


 首絶ちクリティカルしてしまわなかった自分を褒めてやりたい。


 俺はダンジョンの入口へ向かって走り出した。

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