#53 被害者の苦悩




 ミキがまだ戻っておらず、「盗聴器のことを知られずに助かった」と思った。


 前に3人で相談してて盗聴の話が初めて出た時、ミキは怯えていたし、ベッドのすぐ傍に設置してあったということは、毎週末泊まりに来るたびにセックスしていたので、それも全部盗聴されていたと思われ、そんな話をミキに知らせたくなかった。


「ヒトミ、盗聴器の詳しいことはミキに内緒にしてほしい。きっと凄いショック受けると思うから」


「うん、わかった。キャビネットの裏に設置してあったことにしようか?」


「うん、そうしようか」


「それで飯塚さん。 他にも盗聴器仕掛けてませんか?」


「いえ、1つだけです…」


「兄ちゃん、その受信機貸して」


 手に持ってた受信機を電源入れたままヒトミに渡すと、ヒトミは立ち上がって室内をウロウロしながら受信機のツマミやチャンネルみたいなのをいじっては耳に当てたりして確認する作業を始めたが、しばらくすると諦めて、「使い方とかよく分からないから断言出来ないけど、本当にその1つだけじゃないかな」とヒトミなりの結論を出した。


 ここまで判明した所で、これまで俺が把握している侵入された時の情報を踏まえて、飯塚シズカに事実確認をした。

 

 その結果、これまでの犯行の全容が判明した。

 これまでに合計で4回忍び込んでいた。


 1回目は5月下旬で、トランクスを盗んでいた。

 2回目は6月上旬で、この時に盗聴器を仕込み、帽子を盗んでいた。

 3回目は6月下旬で、ジョギングシューズ他を盗んでいた。

 4回目は8月上旬で、キッチンの掃除だけをしていた。

 侵入方法は俺達が推理した通りで、俺が不在になる日を把握してて、金曜日を狙ってベランダに入り込み、窓の鍵が掛かってない時に室内に忍び込んでいた。


 そして今日は、俺の部屋がここ数日静かだったから、留守なのか確かめようとベランダに忍び込み、窓の鍵が掛かってたので中に入れず外から様子を窺っていたら、急に俺達が玄関から入って来て、慌てて逃げようとしたけど逃げきれずにミキに確保された、ということだった。



 そして改めて理由も聞いてみたが、やはり運命がどうのこうの言ってて、俺にはよく理解が出来なかった。




 しかし、参った。

 次々と衝撃的な事実が判明して、今後どうすれば良いのか更に俺の頭を悩ませた。


 飯塚シズカ本人は、今日のところは母親に連れて帰って貰うとして、それ以降はどうする?

 今すぐ引っ越す?引っ越して貰う?

 警察は?

 大学へは?


 自分の手に負えない程の事案であることは理解しているが、だからと言って警察や大学などに全て任せて罰を与えたところで、何だかモヤモヤしそうだ。


 それと、「自分は被害者なんだ」と改めて自覚してから思ったのが、学校や周りに知られたくないというもの。

 いくら俺は被害者側だとは言え、好奇の目に晒されるのは避けたかった。

 いつものメンバーの鈴木・三島・山田の3人は実際に心配してくれて色々と相談に乗ってくれたり協力してくれてたからそんなことは無いが、事件が明るみになれば大学では直ぐに噂が広まるだろうし、他の学生たちから興味本位で色々聞かれたりもしそうだ。

 それに俺だけでなく、ミキやヒトミ、そして実家にも何らかの迷惑が掛かる可能性もあるし。


 そして、ミキの家族にも知られたくなかった。

 盗難被害ってことにでもして、ストーカー被害にあってたことは秘密にしたい。

 ミキも盗聴など被害者であるのは間違いないわけで、そんなことを知られてしまえば、俺との交際に否定的になるだろうと思えた。



 胃が痛くなるほど悩んでいるとミキが帰って来たので、遅い昼飯を食べることにした。

 飯塚シズカにも俺達と同じ弁当とお茶を渡した。

 後で、監禁されただの言われても面倒なのでそうしたのだが、流石にこの状況では受け取っても食べようとはしなかった。



 食事をしながら、気になっていたことをミキに確認した。


「ミキに確認なんだけど、お母さんとか家族に俺がストーカーの被害受けてた事を話したことある?」


「無いよ!ないない。そんな話したら絶対お泊りの許可して貰えなくなるし」


「そっか。これからもそうして貰えると助かる。 俺がストーカーの被害にあってたなんて知れたら、交際自体反対されるだろうし」


「うん、そうだね。 でも警察に通報すれば事件がニュースとかになって流石にウチの家族にも知られると思うけど、やっぱり警察には通報しないってこと?」


「そのつもり。 飯塚さんのお母さんとの話し合いの結果にもよるけど、俺は警察にも大学にも知らせたくないって考えてる」


「そっか。 正直言うと甘いんじゃないのかな?って思うけど、このことが色々公になったらヒロ君にももっと色々嫌な事が起こりそうだし、そうした方が良いかもだね」


「うん。俺もそう考えて、何とか内々に済ませたいって考えてる」


 ミキが俺の考えに賛同してくれたので、ヒトミにも確認すると、「警察への通報は無しでも良いけど、ウチの実家には言った方が良いんじゃない?」と言われた。


「確かにそうなんだけど、ウチの母さん、色々言いふらしそうじゃない? それが凄くイヤなんだよな。確か地元には飯塚さんの父親と弟とかも居るって言ってたでしょ? いくら被害者側だからって、弟君に嫌な思いさせるような噂広めるのは避けたいんだよね」


「だったらお父さんにだけ話したら?お父さんならちゃんと兄ちゃんの考え話せば、お母さんには言わないと思うよ?」


「確かにそうだな。そうするか」


 土曜日だったので、今日なら父さんも仕事は休みだろうからと、直ぐに父さんのスマホへ電話を掛けた。


 母さんに知られるとご近所さんとか周りに言いふらしそうだから、母さんには内緒にして欲しいと前置きした上で、これまでの事と今日犯行現場に遭遇して捕まえたら小学生時代の同級生の篠山シズカだったことや、現在捜査や聞き取り調査をしていることと、相手の母親に連絡済で来てもらうことになったことを説明すると、まず怪我人など出ていないかを確認され、そして「私も直ぐにそちらに向かう」と言って、今日これからコチラに来てくれることになった。



 食事を終えると、ヒトミが再び隣室の捜索を再開しようとしたので、ストップをかけた。


 正直言って、これ以上何か分かった所で俺の精神的ダメージが増えるだけの様に思えたのと、飯塚シズカをずっと見張っていて気が張っていた為、俺もミキも疲れていたし、ヒトミだって一人でずっと隣室の調査をしてて疲れているだろうと思い、交代で休憩したかった。


 それに、飯塚シズカの母親が来てからの話し合いでも相当なエネルギーを消耗しそうだし、今のうちに体力的にも精神的にも回復しておきたいという気持ちもあった。



 それで、どうやって休憩を取ろうかという相談をした結果、飯塚シズカは隣室の本人の部屋で見張ることにして、30分交代で一人づつ俺の部屋で休憩することにした。


 飯塚ヒトミのスマホとモバイル、後は盗聴器と受信機などの証拠品は俺の部屋に置いたままにして4人で隣室に移動すると、ヒトミが飯塚シズカに向かって「お手洗いを済ませるなら今の内に済ませて下さい。申し訳ないですが、扉は開けたままでお願いします。 その間、兄ちゃんは廊下かベランダに出ててもらえる?」と言うので、ベランダに出ると本当に扉を開けて見張ったままお手洗いをさせていた。


 それが済むと、再びヒトミが「室内だと何かあったときに対応が遅れる可能性もあるので、お風呂場に入ってて貰いましょうか。 流石に閉め切ってしまうと暑さで熱中症とか怖いので、室内のクーラー点けてお風呂場の扉も開けたままにすれば大丈夫でしょうし、見張る方もその方が疲れないでしょうから」と色々と決めてくれたので、その通りに従うことにした。


 早速、飯塚シズカにペットボトルのお茶とベッドにあったタオルケットを渡してお風呂場に入って貰い、ヒトミが脱衣場、俺がその入口に陣取って見張ることにして、ミキから休憩に入って貰うことにした。




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